[2016_11_26_02]緊急検証! 地震・津波再び…福島第1は新たなリスクに耐えられるのか(産経ニュース2016年11月26日)
 
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緊急検証! 地震・津波再び…福島第1は新たなリスクに耐えられるのか

 11月22日に発生した福島県沖の地震では、東京電力福島第1原発でも約1メートルの津波が観測された。幸い、今回の地震では重要な施設への影響はなかったが、さらに大きな地震や津波が発生した場合、福島第1原発は持ちこたえることができたのか−。緊急検証を行った。(蕎麦谷里志)

原子炉の建屋は壊れない?

 福島第1原発事故では、原子炉建屋が水素爆発するなどしている。懸念されるのは、地震に耐えられるような十分な強度が維持されているかだ。東電によると、事故後に原子炉建屋の補強工事などを実施。その上で重要施設は600〜900ガルでも耐えられることを確認しているという。
 ガルとは揺れの強さを示す加速度の単位だ。今回の地震で福島第1の敷地内で観測された最大の加速度は54・2ガルだった。東日本大震災の最大加速度は550ガル。敷地内に約1千基ある汚染水をためたタンクも転倒の恐れがないことを確認しているといい、東電幹部は「東日本大震災並みの地震でも健全性は確保できる」と話す。
 ただ、原子炉建屋は高い放射線量で近づけない場所も多く、水素爆発が建屋に与えたダメージについて、すべて把握できているわけではない。原子力規制委員会の福島第1に関する検討会のメンバーで首都大学東京大学院の橘高(きつたか)義典教授も「実際の建屋がどれだけ損傷して揺れるかというのは、分からない部分もある」と指摘している。
 建屋の耐震性で最も脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されたのは、側壁に穴が開いた4号機だった。事故発生時には、原子炉建屋上部の燃料貯蔵プール内に1533体の燃料が置かれており、建屋が崩れて燃料が落下することも懸念されていたが、東電が補強工事を実施。さらに、平成26年12月にはプール内の燃料をすべて取り出すことに成功した。
 他の使用済み燃料についても順次取り出しを計画しており、来年1月には3号機から燃料を取り出すための施設の建設に着手する予定だ。
 地震に対しては東日本大震災レベルの揺れであれば持ちこたえられるが、「想定外」の地震が来た場合に備え、リスク低減の取り組みが進められているのが現状だ。

燃料の冷却は?

 22日の地震では、福島第2原発3号機の燃料貯蔵プールの冷却が約90分間停止したことが問題となった。
 使用済み燃料は今も熱を発し続けており、プールの中で冷却を続ける必要がある。プールの水をポンプで吸い上げて、冷やしてから再びプールに戻すという循環を繰り返して冷却しているが、今回の地震ではこのときに使うポンプが停止した。
 ポンプ停止の原因について、東電は「地震で揺れた際にプールとつながっているタンクの水位が変動し、自動停止した」と説明している。同ポンプはタンクの水位が約2メートル下がれば自動停止する設定になっていた。水位が下がった状態で空気を吸い込むと、ポンプの故障につながる恐れがあるためだ。
 設備の設計からすれば当然の冷却停止だったのだが、東電が十分な説明ができなかったことで、一時、混乱をもたらした。
 それでは、福島第1で燃料プールの冷却が止まったら、どのような状況になるのか。
 福島第1では、使用済み燃料(未使用燃料含む)が1号機に392体、2号機に615体、3号機に566体あるほか、4号機から取り出した燃料など、地上にある共用プールにも6726体が保管されている。
 東電はこうしたプールの水温が100度に達するまで、10日間の猶予があると試算している。万が一、冷却ができない状況に至っても注水車を高台に待機させており、東電幹部は「事故のときに比べたら相当リスクは減った」と説明する。

再臨界の可能性は?

 冷やし続けなければいけないのは、プールの燃料だけではない。事故時に溶け落ちた原子炉内の燃料も冷却を続ける必要がある。ただ、事故から5年半冷却を続けた結果、こちらも大幅に危険性は低減している。
 東電の試算では、各号機の燃料が出す熱量は約100キロワットと事故時の100分の1以下になっており、「ヘアドライヤー100台分くらいの発熱量」(東電)だという。
 冷却を行わなかった場合でも、500〜600度程度にしかならないといい、原子力規制庁の担当者も「燃料が溶けたり、原子炉を溶かしたりするエネルギーはもうない」と話す。
 同原発で溶けた燃料が再び核分裂反応を始める「再臨界」を懸念する声も根強いが、実際に溶け落ちた燃料が再び臨界に達する可能性は極めて低く、規制委の更田豊志委員も検討会の中で「臨界の心配をするのは、隕石(いんせき)が降ってきて建屋をぶっつぶすのと、どっちが確率が高いかなという程度のもの」と一笑に付している。
 ただ、原子炉内の温度が上がると、炉内の放射性物質が舞い上がるリスクは残っている。東電の解析では冷却が止まった場合、舞い上がった放射性物質が敷地外に放出されるまで2日間の猶予がある。これも「代替の冷却を開始するまで十分な時間だ」(東電)という。

最大のリスクは汚染水流出

 こうした状況を踏まえ、規制庁の安井正也技術総括審議官は検討会の中で「デブリ(原子炉内の溶けた燃料)とか燃料貯蔵プールの話は、時間的余裕があるのは誰でも分かるわけで、一番リスクがあるのは普通に考えれば(津波による)地下滞留水(汚染水)の流出問題」と断言している。
 津波対策として、東電は海抜10メートルの敷地に高さ4・2メートルの仮設防潮堤を設置。仮設防潮堤を超える津波に襲われた場合でも、原子炉建屋地下などにたまった汚染水が流出しないように建屋の扉や配管のすき間などを埋める工事も行っている。
 ただ、施設内には放射線量が高く工事ができていない部分もある。「津波が敷地内に入れば、汚染水が敷地外に流出する可能性は残っている」(規制庁担当者)
 東電によると、福島第1の原子炉建屋地下などにたまった汚染水は計約6万トン。今後、東電はこの汚染水の量を減らすとともに、放射性物質の濃度を低減する対策を講じていく予定だ。
 今回の緊急検証で、福島第1のリスクは事故直後に比べて大幅に下がっていることが分かった。ただ、事故が起きた原発で、やれる対策には限りがあるのも事実だ。30〜40年とされる廃炉への道は、地道な取り組みを積み重ねるしかない。東電は「地域住民に安心していただけるよう、リスクを順次取り除いていきたい」と話している。

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