【記事71270】大阪北部地震は「見えない」活断層が起こした?(PAGE2018年6月30日)
 
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大阪北部地震は「見えない」活断層が起こした?

 日本各地で地震が頻発する中、大阪府北部で今月18日に震度6弱を観測する地震が発生しました。これは大阪にあるいくつかの活断層の近くで起きました。日本列島には「中央構造線」という長い断層帯が横断していますが、こうした断層との関連性はあるのか。別の地震を誘発する可能性はあるのか。地球物理学者で武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏に寄稿してもらいました。
M7クラスが懸念されていた上町断層
 大阪府北部でマグニチュード(M)6.1の地震が起きました。震源の深さは13キロと浅かった直下型地震です。このため、最大震度6弱を観測しました。
 大阪府で震度6以上の地震が起きたのは、気象庁が地震観測を始めてから80年余りで最初です。神戸や淡路島で被害が大きかった阪神淡路大震災(1995年)の前と同じように「関西には地震がない」と思い込んでいた地元には、驚天動地の出来事だったにちがいありません。
 日本の都市部の中でも、近畿地方は例外的に活断層が「よく見えている」地域です。今回も大阪平野の北縁にある「有馬-高槻断層帯」として知られていた活断層の東端に近くで起きました。またここは、大阪の東部を南北に走る「生駒(いこま)断層」というよく知られていた活断層の北方の延長上でもあります。
 実は、大阪市の中心部には「上町(うえまち)断層」が南北に走り、生駒断層と並行しています。この活断層は大阪駅(梅田駅)をはじめ、大阪の中心部を南北に縦断しているので、もしこれが地震を起こせば、阪神淡路大震災並みか、それ以上の被害を生むのではないかと、かねてより恐れられてきていました。大阪の防災計画で一番の要注意事項は、この上町断層が起こすM7クラスの直下型地震だったのです。
 しかし、今回の地震は上町断層ではないところで起きました。上町断層が「近畿地方で一番直近の地震」を起こす断層ではなかったことになるのです。

「地表に見えているもの」が活断層の定義

 そして、どの活断層が起こした地震なのか、いまだに分かっていません。活断層が地震を起こしたときに見られる地表面の大きな変形が見られなかったからです。
 これはM6クラスという、直下型地震としては最大級ではない規模の地震だったためだと考えられています。日本に近年起きてきた直下型地震のうちで、活断層の存在が十分に知られていない場所だったり、あるいは地震が起きて、はじめて活断層が知られたりした例も多いのです。今回も、すでに知られていた活断層が起こしたのではない可能性が強いのです。
 地震は「地震断層」が起こします。だが活断層には明確な定義があり、「地震断層が浅くて地表に見えているもの」です。だから日本の都会のほとんどの地下には活断層が「ない」ことになってしまいます。
 しかし、実際は活断層が引き起こすのと同じような直下型地震が起きています。つまり、活断層が「見えない」だけで「ない」わけではないのです。
 1855年に江戸(現在の東京)で起きた「安政江戸地震」は、阪神淡路大震災(地震名としては兵庫県南部地震)以上の、犠牲者1万人以上という日本史上最大の被害を生んだ直下型地震でした。震源は隅田川の河口付近だと考えられています。ですが、ここには厚い堆積物があって、地下の岩の割れ目である活断層が見えません。つまり、活断層がないところで起きた、活断層が起こすのと同じ直下型地震が起きたのです。
 三大都市の一つ、名古屋を形作った濃尾平野など、日本の都会のほとんどは厚くて平らな堆積物の上に展開されています。それゆえ、活断層は「ない」ことになっているのです。
 ところで、すでに知られているある活断層が大地震を起こすのは、長ければ数万年以上に一度に過ぎません。それゆえ、注目されている活断層が、注視されている間に地震を起こす可能性はごく低いのです。
 例えば高槻市が政府の「地震調査研究推進本部」の資料から作成した防災資料「ゆれやすさマップ」では、有馬-高槻断層帯による30年以内の地震発生確率は「ほぼ0%〜0.02%」でした。それだけではありません。2014年に熊本を襲った震度7の2回の地震の前には布田川断層帯で30年以内に地震が起こる確率は「ほぼ0〜0.9%」だったのです。
 天気予報で20%の降水確率ならば、数字としては低いのですが、傘を持って家を出る人はいるかもしれません。ですが、活断層でもっと低い確率を発表されても、それは気休め程度にしかならないのです。この種の確率の発表は、世間を誤解させるだけなのだと思います。内陸直下型地震が日本のどこを襲うのか、科学的には分からない現状では、この種の発表は人を惑わせるだけです。
 つまり、太平洋プレートやフィリピン海プレートに押されている日本列島がねじれたりゆがんだりして、内陸直下型地震が日本のどこにでも起きる可能性があるのです。そのうちのいくつかは、すでに知られている活断層が起こすものかも知れませんが、多くは、知られている活断層ではないところで起きる地震なのです。

「見えない」中央構造線が起こした?

 「中央構造線」という日本最長の活断層帯があります。鹿児島県から熊本県を通り、大分県から瀬戸内海を抜けて、長野県まで達している長大な断層です。熊本の地震は明らかにこの活断層帯で起きて、それゆえ、いまだに震度4や3の地震が続いています。ちなみに阪神淡路大震災は同じM7.3でしたが、余震は2か月ほどで収まりました。
 日本人が日本列島に住み着く前には多くの地震を起こしてきたことが地質学的には分かっている中央構造線です。
 しかし、日本人が日本列島に住み着いたのは日本の地震の歴史に比べれば長くはない1万年あまりですから、日本人が見て記録した地震は限られています。それでも「慶長3連動地震」だけは、日本人の目の前で起きた大地震として多くの記録に残っています。
 この「慶長伏見地震」が起きたのは16世紀末のことで、京都で大きな被害が出ましたを生みました。地震による死者数は京都や大阪・堺で1000人以上だったと伝えられていて、この地震は今回の大阪の地震より被害が大きかったと考えられています。
 被害を記録した古文書の様子から、今回と同じような場所で起きたのではないかと考えられています。しかし、当時は地震計などもちろんなく、今回の大阪北部の地震の震源近くより京都の方がずっと人も多く、古文書もたくさん残っていたのですが、当時の震源の場所は厳密には分からないのです。今回の地震で被害が多かった高槻市や茨木市などとその周辺の地域は、大阪と京都の中間にあって戦後に開発された新興住宅地が多く、昔は人がほとんどいなかった場所でした。
 慶長伏見地震の4日前には現在の愛媛で「慶長伊予地震」が、また前日には現在の大分・別府湾口付近で「慶長豊後地震」が起きました。いずれも、それぞれの地域で大きな被害を生んで、そのために、縁起をかついで、同年中に文禄から慶長へ改元が行われたほどです。いずれも、日本で起きる内陸直下型地震としては最大級のM7クラスだったと思われています。
 中央構造線は、紀伊半島の北部を東西に横断していて、今回の地震の震源からはある程度南に離れていますが、今回の地震も中央構造線絡みで、その構造線の近辺で起きる内陸直下型地震の一つであった可能性があります。
 この中央構造線がは長野県に至っていることは分かっていますが、その先、太平洋岸まで続いているかどうかは、学説が分かれています。つまり、堆積物が厚くて長野県より東は断層が見えないので確定した学説がないのです。
 ですから、例えば6月17日に起きた群馬県渋川市の直下型地震は、この「見えない」中央構造線が起こした可能性も否定できないということになります。

東日本大震災が動かした岩盤の影響?

 2011年に起きた東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)はM9.0という、いままで地震計が記録した日本最大の地震でした。
 この地震は日本列島の地下全体にある基盤岩を一挙に動かしてしまいました。その量は、震源に近い宮城・牡鹿半島で5.4メートル、遠くに行くにしたがって小さくなりますが、それでも首都圏で30〜40センチメートルにもなりました。プレートが年間4〜8センチメートルというゆっくりした速さで動いて日本列島のひずみを増していくのと比べて、一挙に数十年分以上を動かしてしまったことになるのです。
 この影響が、じわじわ数年から数十年かけて出てくるに違いありません。地震も火山も、いままでよりは多く発生するでしょう。
 もしかしたら、最近、日本各地で頻発している地震、たとえば最大震度5強を記録した5月25日の長野県栄村の地震(M5.2)、最大震度5弱だった6月17日の群馬・渋川市の地震(M4.7)、そして6月18日の大阪府北部の地震も、その一環かもしれないのです。

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■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年東京生。東京教育大付属高卒。東大理学部卒。東大大学院終了。理学博士。東大助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学。2013年5月から『夕刊フジ』に『警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識』を毎週連載中。著書の『火山入門――日本誕生から破局噴火まで』2015年5月初版。NHK新書。『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』2013年7月初版。花伝社。『人はなぜ御用学者になるのか――地震と原発』2013年7月初版。花伝社、など多数


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