【記事43600】川内原発「耐震偽装」の実態 基準地震動620ガルは妥当なのか 再稼働のためのつじつま合わせ 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎メルマガ2016年5月30日)
 
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川内原発「耐震偽装」の実態 基準地震動620ガルは妥当なのか 再稼働のためのつじつま合わせ 山崎久隆(たんぽぽ舎)

◎ 専門家による批判

 国会事故調査委員会の委員だった石橋克彦神戸大学名誉教授は、川内原発の耐震設計について意見書を公表している。
 その中で石橋氏は、川内原発の耐震評価について「内陸直下地震」「プレート境界(プレート間)地震」「海洋プレート内地震」の3つを評価対象として「基準地震」を策定すべきところ、「内陸直下地震」で全てが包絡するなどとして、他の2つを評価から除いてしまった九州電力の「申請書」と、それをろくに審議もしないで、う呑みにしてしまった規制委員会の審査結果を強く批判した。(川内原子力発電所1・2号炉の設置変更許可に対する異議申立てに関する口頭意見陳述会 2015年1月21日)
 プレート境界地震の影響については、最近になって海上保安庁の調査により南海トラフのひずみ域が日向灘奥から九州南部の地下にも張り出していることが明らかになった。
 ひずみ集中帯では地上に近い地殻にもひずみを伝えていると考えられるから、熊本地震との関係で大きな影響を与えているかもしれない。朝日新聞等に掲載された「南海トラフ周辺のひずみの分布図」は、ひずみが大きい区域の北端が中央構造線にも達しているように思われる。(5/25発信【TMM:No2789】★3「南海トラフ 四国や東海の沖合で特にひずみ」記事参照)
 また、南海トラフの地震は、マグニチュード8クラスが過去に繰り返し発生している。最近で大きなものとしては1707年の宝永地震でマグニチュード8.6以上と推定されているが、この地震よりも2000年ほど前に、これを遙かに上回る地震が起きていた可能性が指摘されている。
 高知大学の岡村真教授により行われた堆積物調査の結果、1707年の津波を遙かに上回る巨大な津波が起こっていた痕跡を発見している。
 耐震設計では、原発の耐震安全性を13〜14万年の期間で最大の影響を与えた地震を考える。
 この基準に照らせば東北地方太平洋沖地震のマグニチュード9は、日本のプレート間地震では標準的な水準である。むしろ、それを超える可能性を何処まで見るのかが問題となる。1707年の南海トラフ地震としては比較的小さい宝永地震規模を考えているのでは過小評価だ。
 本来必要な性能を「甘い想定」で考えることで、構造強度が低くても合格するように「偽装」している。
 実際、川内原発の基準地震動は直下のマグニチュード6.1で計算された620ガルでしかない。

◎ 基準地震動620ガルとは何か

  川内原発の基準地震動は耐震バックチェックの際には540ガルとされていた。
 この値は、直下マグニチュード6.5の地震を想定し「震源を特定できない地震」が引き起こす揺れとして策定された。
 その後、規制基準適合性審査において620ガルという値が出てきた。これは国内最近16年間に発生した比較的小さい地震のデータを調べ、その中から留萌支庁管内で発生したモーメントマグニチュード5.7(気象庁マグニチュード6.1)の地震の応答スペクトルを使っている。ところがこの地震応答グラフと想定地震動を表すグラフが合っていない。
 以下は、「川内原発稼働等差止仮処分命令申立」原告側準備書面を参考にしている。
 本来、地震応答解析で示される各周波数ごとの波形を包み込む(包絡するという)グラフを書かねばならないのに、極めて小さい値のグラフになっている。
 その結果、周期0.5秒付近の値が応答線図と交差し、加速度で表すと1800ガルくらいに引かれていなければならないのに1000ガル程度しかないのだ。
 基準地震動の値は周期0.2秒の値をいうから、確かにこの位置では620ガルである。しかしグラフの起点があっているだけで、周波数が大きくなればなるほど乖離していき、周期1秒になってようやく包絡する位置にグラフが来ている。
 つまり肝心な部分は包絡していないのである。
  これほどデタラメな「包絡しない線図」はない。

◎ 偽装の背景

 このような図を今まで見たことがない。さすがに、これまでの耐震設計用地震解析では、事業者が包絡しない図を出したことはない。
 そこまでしてデータをいじる理由は、それぞれの機器類の固有周期に関係する。
 原発の設備は、固有振動周期を持っているので、その周期で揺らされると共振を起こして揺れが大きくなる。その分強い力がかかってくる。
 周期0.1秒付近で「余熱除去系配管」、同0.2秒付近では「原子炉格納容器」0.3秒で「原子炉建屋」0.4〜0.5秒で「制御棒挿入性」に影響を与える。
 特に0.5秒付近で1000ガルを大きく超え、速度も100センチメートル/秒を超えている。
 この周波数で包絡させる線図を描けば、耐震計算によりこれら機器類を強化しなければならなくなる。設計・施工に数年はかかるだろう。とてもすぐに再稼働などできない。そのため、耐震補強が少なくて済むように基準地震動に基づく応答グラフを低く設定した。これを「耐震偽装」と言わずに何と言えば良いのか。
 これをそのまま認めた規制委員会の異常さは、さらに悪質といわなければならない。原子力を規制「しない」委員会だ。

◎ 横ずれ断層と縦揺れ

 2016年の熊本地震では、極めて大きな縦揺れが観測されている。益城町に設置された強震計では、重力加速度を大きく超える縦揺れが記録された。これは「横ずれ断層型地震は縦揺れが小さい」といった見立てを覆すものだった。
 横ずれ断層が多い九州では、地震の痕跡を見つけるのが難しいといわれている。
 横にずれると地形に痕跡は残るが、逆断層や正断層のように地層の食い違いが生じにくいからだという。
 そのこともあり、横ずれ断層では上下の揺れは比較的小さいと考えられていたようだが、今回は事実を以てそんな見立てを打ち壊した。
 マグニチュード6.5の地震で1399ガルの上下動を観測したのは初めてのことだ。
 マグニチュード6.5という値は実に象徴的だ。これは、震源が知られていないところで起こりえる地震で、最大のものと国や事業者が想定した地震と同である。もちろんもっと大きな地震も起こりえる。2006年の耐震設計審査指針見直しの議論では強い異論が出された項目の一つだ。言い換えるならば、不意打ちを食らう可能性がある地震の内で、争いのない大きさとして最も大きい地震だ。
 そのような地震でも想定以上の揺れが起こりえることを示した点では重要だ。
 上から下に自由落下で制御棒を挿入する加圧水型軽水炉にとっては、重力加速度以上の上下動と、その後に巨大な横揺れが襲うとした場合は原子炉停止失敗につながる重大事になる。これ一つをとっても全部運転を止めて対策すべき事態だ。

◎ 制御棒駆動機構の耐震性

 基準地震動の決め方があまりに過小評価であるもう一つの理由は、原子炉停止系の問題がある。
 大量の白抜き黒枠文書の中でも、制御棒駆動系についてはまったくといって良いほどデータが書かれていなかった。規定時間内に制御棒が挿入可能かどうかというのは、地震に襲われて直ちに原子炉を止められるかということだ。これが失敗すれば直ちに過酷事故につながる。
 地震応答解析において、様々な危険性を考慮する中で、最も厳しい条件を与えて解析すべき場面であるにもかかわらず、最も甘い解析になっている。
 地震応答解析で、実規模試験を行った結果があるにもかかわらず、それを無視して机上の解析だけを使って基準地震動Ssにおいても問題なく挿入可能という結論を出している。
 しかしこの時の応答解析のもとが、周期0.5秒付近を過小評価したグラフだから、結果は最初から見えている。
 実際に重力加速度を超えるような縦揺れと2000ガルを超える横揺れの重なった波に襲われながら、2.5秒で挿入することは不可能である。縦揺れに加えて大きな横揺れでも制御棒挿入性は大きな影響を受ける。
 原子炉は建屋が固い岩盤に設置されていても、制御棒駆動機構は遙かに高い位置にあり、たった620ガルの揺れで済むわけではない。解析でも2800ガルを遙かに超える揺れが襲ってくることになっている。
 解放基盤表面の揺れが1000ガルを超えるような値であれば、4000ガルを大きく超える揺れになってしまうだろう。もはや制御棒そのものが破損してしまうほどである。 (了)

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