【記事10252】本社記者団座談会 この目で見た「新潟地震」 家にも田にも黒い砂 背中にフロ敷、泣く老女 無防備の新産都市 地下水くみあげたたる 地盤の硬軟響く 出火防いだ市民の協力(毎日新聞1964年6月17日)
 
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

【新潟】新潟地震を取材するため本社記者団は新潟市への唯一の連絡路、自動車による陸路から同市に入った。水、電気、ガス、電話ーとすべてを失い、陸の孤島と化した同市は自然の力でねじふせられたような状態だった。復興までいく日かかるのか、救援対策はどうなっているのか、市民の表情は、被害の状況は・・・記者たちに生々しい印象を聞いてみた。
H どす黒く重油の流れる河口で、ひっくり返っている白い船と落ちくずれた昭和大橋が印象的だった。地震というより水害の感じだった。
(中略)
M 新潟駅近くの陸橋がずり落ち、その下で客車がペシャンコ。レールもアメのようにひん曲がっており、地震の大きさがわかった。
F 国鉄新潟駅前のビル街はほとんど全部1メートル前後も地下にめり込み、ピサの斜塔のように傾いている。中には車庫の車もろとも沈下しているビルもあった。
(中略)
F もう一つはやはり30年の大火で見事立ち直った自信と毎年”雪”の被害のときにみせる北国人の”根性”が心のささえになっているのだろう。
(中略)
T 被害は目立たぬ部分で大きかったのではないか。たとえば毎日新聞新潟支局だって、外観はシャンとしているが、内部はカベいっぱいにヒビがはいっている。木造で倒れている家はあまり見当たらないが、ほとんどこういった被害をうけているのだろう。
H 一夜明けてみて、被害のひどさに驚いた。田植えを終わったばかりの水田は、砂をかぶって”砂田”と化し、地盤のヒビ割れで、真っ二つに割れている家、そのひどさはことばにあらわせないほどだ。

地盤の硬軟響く
出火防いだ市民の協力

Y たしかに砂や泥が市内いたるところで目についた。津波による土砂のためと想像していたら、地割れで地下水とともに吹き出したものと知り、自然の猛威に驚いた。とくに万代橋ぎわ新潟中央署前の大陥没、万代町、東港線あたりの砂地獄はスゴい。本当の被害というのはこれからの生活や復旧がはじまったときでなければわからないのじゃないか。
F 震度5、エネルギー7.7と関東大震災につぐ大地震だったのに、家の倒壊が少なく、カワラもほとんど落ちていない。しかもがんじょうであるべき大きなビルが傾いている矛盾はどういうことだろう。
H "砂上の楼閣"というか、新潟市が砂の上に立った都市だからじゃないかな。
W 地下の天然ガス吸い上げも影響しているのじゃないか。
K 重いビルは地下にめり込み、そのために傾いたんだと思う。その意味では確かに影響があるんじゃないかな。
O 同じ新潟市内でも被害のひどい所と、ほとんど被害のないところの差がはっきりしていた。何か地震波というものがあって、それが強く働いたところは大きい影響を受けたといった感じなんだが・・・。
W こんどの被害は奇妙で、無秩序ともいえる。大きな被害のあった通りを一つ越えた通りはなんの被害もない。道路でも200メートル長く大きなヒビ割れがあると思うと、その先はキズ一つない舗装道路といったぐあい。信濃川の川べりを除いて被害は飛び飛びで局地的だ。これは地盤の硬軟に関係しているのかもしれないね。
K それでもしっかり基礎のクイ打ちがしてある建物はビクともしていない。こういう大きな建物が市内に4つ5つある。最近開通したばかりの横浜の根岸線、あれも泥沼の上に建てたので、公費のほとんどを基礎のクイ打ち使ったといわれているが、新潟のような砂の上の都市は、これを見習う必要がある。
(中略)

無防備の新産都市
地下水くみあげたたる

(中略)
 地震で石油タンクが爆発し燃えたことに対して藤井澄二東大工学部教授(産業機械工学)は「つくづく考えさせられた」と前置きし「耐震構造の研究は原子炉建設の関係者たちではじめられたばかり、ケミカル・プラントの関係者もようやくこの研究に関心をもちかけたようだ」という。
 原子炉の工場は少しの不注意が大災害となる。このため”耐震構造”の研究が真剣にはじめられたが、その他の産業はこれまではほとんど無関心。地震国日本としては意外というほかない。
 同教授は「一般建築物と違ってこうすれば安全だという構造上の計算が非常委手間どる」のが対策の遅れている原因と指摘する。
 衆議院議員当時、社会党地盤沈下対策委員長として、新潟の天然ガス採掘と同地の地盤沈下との関連を終始、国会でとり上げ問題にしてきた東海大学、松前重義学長は「被災地のなかで新潟の被害がとくにひどかったのは、天然ガスの採掘で土地そのものがまったく地震に弱い体質になってしまったのではないか。こういう現実を無視して調査もせず、ただ企業を誘致すれば・・・といういまの政治の姿勢こそ問題だ」ときびしい。
 もともとこの地域はやわらかい第三紀層のうえに、信濃川の土砂が積み上げられてできており、とくに第三紀層は水の圧力でやっとささえているという状態だ。それが天然ガスをくみ上げるためにじゃんじゃん地下水をとる。
 昨年、同市は新産業都市(ガス化学、石油、金属工業)に指定され、地下水の需要量はさらにふえている。
 松前氏は「これではたまったものではない。地下に空どうができる。このため地盤は沈下する。こんどの地盤のように外部からショックが加われば、道路がすぐ陥没したりビルが傾くのは当たり前。新潟地方にもこの150年間、大きな地震はなかったというが、内側地震帯に属しており、つねに地震の起こる可能性は十分にあった。それにもかかわらず地下水のくみ上げを無制限に許したのは政治の責任だ」という。
 工場誘致、新産都市についてはもっと考える必要がありそうだ。
 東大名誉教授で耐震構造の権威、武藤清・鹿島建設副社長は「まったく盲点をつかれたという感じです。地下から水がふきだして鉄筋コンクリートの建物が沈んでいく、なんてことはとても想像できなかった」と暗たんとした表情。
 石油コンビナートを造成するにも、どんな工場を建設するにも地盤の安定したところが望ましいのは当然。といっても地震国の日本でそれをいったらどうしようもない。そういう悪条件にも耐えられる建造物を・・・というのがわれわれの理想だ。しかし、地盤沈下についてもっと検討する余地があった。もちろんいままでも地盤沈下について論じられてはいたが建築家として地盤沈下に対する根本的な研究が足りなかったようだ」と同氏は反省する。
 通産省鉱山局石油課の村瀬盛夫設備係長は「地震でタンクが爆発したのははじめてだ。現地からの連絡によると、タンクは新造したばかりのものとのことなので、そんな簡単に爆発するとは信じられない」とかなりのショック。それにしても藤井教授のいうとおり、タンクには消火施設は万全だが”耐震”にはあまり注意が払われていないのは事実と同係長は認める。
 「新潟の爆発の原因をよく調べないとはっきりいえないが、これからは(1)タンクの構造を研究しなおす必要がある。(2)石油コンビナートを建設するには地盤の堅い場所をえらぶようにするの二点を業者に指導する」と同係長はいっている。

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