【記事10272】「地震は予想外だった」 石油タンクの安全性 昭石の対策本部談 石油コンビナートの消火 消防研堀内部長に聞く ”リモコン消火”も 企業の自衛精神が必要 建物の耐震性考え直せ 軟弱地盤に負けた科学 現地視察の和達氏ら語る 総合調査団を派遣 科学技術庁 復旧へ救援の手待つ 新潟 黒煙におおわれた新潟市 第2夜も家を離れて 早く電気を(毎日新聞1964年6月18日)
 
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

「地震は予想外だった」 石油タンクの安全性 昭石の対策本部談

 「新潟地震」の被害の中で最大の昭和石油の大火について、17日夜、同社の災害対策本部(本部長・早川洪二郎社長)は「安全装置はあったが、地震は予想していなかった」とつぎのように語った。
 安全装置はついているが、それは火災予防のためのもので地震を想定したものではない。安全装置は火災発生と同時に自動的に薬液がポンプでタンク内に送り込まれ、外部から水で冷却する仕掛けだが、今回はパイプラインが寸断されたうえに、ポンプを動かす電力が切れたため装置は役立たなかった。電力を使わないポンプも用意しているが、これもエンジンがひっくり返り、火災予防に打つ手がなかった。”耐震”のため特別の設計や装置をつけていなかった。
 科学技術庁資源局でも「地震の場合にそなえ、主要工業地帯の地盤調査を35年から実施しており、プラント建設の際の資料として使える用意はあるが、石油業界からすれば国際的な石油競争に負けないようコストダウンを最上の目的とし、保安、保全という面はおろそかになりがちだ。プラント建設に際しても強い地震は”めったにないこと”として無視する傾向がある。地震がない外国で開発した技術をそのまま取り入れているところにも問題がある」と不満をもらしている。

建物の耐震性考え直せ 軟弱地盤に負けた科学 現地視察の和達氏ら語る

 「新潟地震」を科学の目で調査した第一弾 −和達清夫防災科学技術センター所長、河角(かわすみ)広東大地震研究所長、久田俊彦建築研究所第3研究部長の3博士は17日、現地調査を行った結論を、つぎのように語った。
◇新潟地震の特徴 震源地が海中であることはまず確実で、新潟からそれほど近くはなかった。たしかに大地震ではあるが”激烈な地震”ではなく、地盤の軟弱地帯を大きくゆすぶった”大地震”といえよう。
◇軟弱地盤 新潟市周辺は地盤の悪い沖積層が厚さ80-140メートルもあると推定されている。古町などの地盤の堅い地区では古い木造家屋でも、ほとんど無被害で、墓石さえ倒れないほどだった。これに引きかえ地盤の悪いところ、とくに信濃川の埋立地などで被害が大きい。地震振動による被害よりも、地盤に部分的沈下が起こるような”不同沈下”によって、建物が傾いたりゆがんだりする例が多かった。
◇ひっくり返ったアパート 県営アパートが簡単に真横に倒れたり、傾いたりしようとはだれも想像しなかった。世界中のこれまでの記録にもない最初の例だろう。このアパートの場所がとくに地盤が悪かったものと思われるが、7むれ並んでいるアパートのうちひとむねは完全に底をさらけ出し、ひとむねは一階分近く沈下、残りもすべてひどく傾いていた。
 倒れたアパートに住む、最後まで屋上にいた婦人の話では、傾きはじめてから横倒しになるまで10分近くかかっている。振動でバランスがくずれ、やわらかい地盤にめりこむような倒れ方だ。
 露出した底を見ると、このアパートの基礎は壁の真下にあたる部分だけで建物全体の重みをささえる部分がせまい。このため重さが集中的にかかり、基礎がやわらかい地盤にめりこみやすくなり、倒れたり傾いたりという結果になる。しかし、倒れたアパートの中身の壁がこわれたところはなかった。壁の構造については耐震工学上の成果があらわれているといえよう。軟弱地盤に建てる近代建築の基礎の設計方針については今後大いに研究を進める必要があり、新潟の実例を徹底的に調査すべきだ。
◇倒れないビル これにひきかえて”細心の設計”をしたとみられる大きなビル(県庁、市役所、デパートなど)は、ビクともしていない。関東大震災の時には東京の11%の建物が倒壊した。しかし、こんどの新潟市全体では1%前後しか被害がでていない。耐震工学を考慮して細心に造れば、心配はないということでもある。
◇地下埋設物 地面の上に乗っている建物の被害が案外少なかったのにひきかえ、水道管、下水道、電力ケーブル、通信線などの近代生活になくてはならない諸施設の被害が大きかったことも特徴だ。もちろんこれも地盤の弱さによるもので、地割れ、局部的沈下、隆起などによるものだ。しかしこのような近代科学が、自然現象に完全に打ち負かされたということは大いに考えなくてはならない。
◇火事 日本の地震被害はいつも大火災を伴うために大災害となっていた。ところがこんどは民家からの火災はほとんどなかった。この点は新潟大火の経験を生かした防火に細心の注意を払った新潟市民を大いにほめるべきだ。
 ところが、こんども”大火”が起こった。それが、昭和石油という現代科学技術革新の先端を行く石油産業から起こったということが最大の問題だ。4月のアラスカ地震の時も、石油、ガスなどのタンクというタンクはほとんど燃えていた。石油コンビナートの”公害問題”にもました大問題が提起されたといえよう。これの対策は、政府としても本腰を入れ、強制する必要もあるが、経営者が本気になって”保全、防災”を考えてもらわなくてはならない。さし当たっては、全国のタンクの耐震性などをくわしく全面的に検査しなくてはならない。
 このような近代社会の災害は天災に人災を加えることになるから、将来のために”新潟地震”を教訓としてよくかみしめる必要がある。
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