【記事32735】「原発のメリット? デメリットだらけの疫病神だ」 エネルギー政策は「即ゼロ」を基本にすべき――村上達也・元茨城県東海村長、脱原発をめざす首長会議世話人(ダイヤモンドオンライン2014年2月6日)
 
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「原発のメリット? デメリットだらけの疫病神だ」 エネルギー政策は「即ゼロ」を基本にすべき――村上達也・元茨城県東海村長、脱原発をめざす首長会議世話人

日本原子力発電東海原発(廃炉中)と東海第二原発、その他の原子力関係の研究機関が多数立地する東海村で、2013年9月まで村長を務めていた村上達也氏。1999年9月に発生したJCO臨界事故では、日本で初めて周辺住民に避難指示を出し、その後も事故終息へ向けて取り組んだ経験を持つ。原子力関連産業を受け入れてきた立場にあったが、震災後は脱原発を積極的に訴えている。原発の酸いも甘いも知る村上氏に、原発を「重要なベース電源」とする方針を示した今の原発行政について、どのように考えるか話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

この国はもう一度事故をやらないと目が覚めない、情けないダメな国だ
――2013年末に公表されたエネルギー基本計画案で、原発は「重要なベース電源」とされています。東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所事故の前の状態に戻りつつあります。どのようにご覧になりますか。

 この国は、まったくダメな国だと思う。原発事故が起きたことで、国民全体で脱原発という認識ができてきた。当然ながら国策として原子力をエネルギー政策の中心に据えてきた政府と事業者は反省して、新しいエネルギー政策を考えないといけないのに、それができていない。
 従来の利害関係にこだわって、元の形に戻そうというのは、まったく呆れたし、本当にダメな国だ。この国はもういちど原発事故をやらないと、目が覚めないんだと思う。情けない国だ。

――震災が発生したとき、村上さんは現役の村長でした。原発行政はどのように変化すると考えていましたか。

 東海原発もあわやというところだった。私は女川から東海までの14機、すべてメルトダウンしてもおかしくなかったと思いますよ。それをなんとかして支えたのは電力会社の人たちの努力で、それは評価するんだけど……。
 とにかく、大きな地震が起きるような危険な地域に原発を平気で建てていてはいけないんですよ。原発は安全だっていう前提で、危機対応を真剣に考えることができない国は、原発は持っていけないんです。日本は、巨大な科学技術を持てるような、そんな国じゃないんです。
 それでも、再び原発を動かそうとするなんて、本当に呆れた国だね。原発を無くそうという国民の声を無視している。

地方経済の疲弊を盾にして 原発を維持しようとしている

――原発行政には、電源自治体に対する電源三法、原発からの固定資産税、雇用や人口増加など、さまざまな恩恵があります。それは地方経済を支える重要な役割として指摘されることが多いですよね。

 電源三法や固定資産税など、財政的な恩恵は確かにあるが、その恩恵を受けているのはわずか20程度の自治体です。地方経済、地域経済全体が、直接恩恵を受けているわけではないですよ。恩恵を受けているのは、大消費地の東京近郊の事業者の方です。
 原発を止めたら地方経済が大変なことになるって言っているが、それは地方経済の疲弊を盾にして、日本全体の問題である原発を維持するという、論理のすり替えだと私は思っている。

――メディアも含めて、そうした地方経済と原発の関係性を信じています。

 そうだね。でも、実際に電源三法で恩恵受けているのは立地自治体だけなんだよ。周辺自治体は雀の涙ほどのカネを落としてもらっているだけだ。
 東海村は恩恵を受けている。でも周辺の自治体にはないですよ。何の恩恵を受けていないと言ってもいいと思う。

メリットと言われることは本当にメリットなのか

――しかし、村上さんは現役の東海村村長だったとき、原発立地自治体としてのメリットを受けてきました。いま「脱原発」を唱えていらっしゃいますが、これまでメリットを受けてきたじゃないかと指摘されることはないのでしょうか。

 そりゃ、言われますよ。何度も言われました。JCO臨界事故のときもマスコミから「東海村はメリットを受けてきたじゃないか」って。確かに、東海村は原発の中心だったし、原子力は村の象徴だった。ただね、メリットって何なんだってことですよ。メリットだって言われていることは、本当にメリットなのか。
 原発を作ると他の産業は育たないんですよ。もう、それはメリットじゃないよ。すべてが原発に一本化されてしまう。
 原発を作ると、その地域は持続能力を失っていってしまうということです。原発による繁栄はいずれ限界が来るものです。東海村にも昔、3号機、4号機を作ろうという話があった。結局は面積が足りなくて話は立ち消えた。でも、柏崎刈羽はどんどん作っているでしょう。今は7号機まである。
 あれは財政が苦しくなるたびに作っている。1機作ると、一時は固定資産税がたくさん入るけど、2年目以降、どんどん少なくなるからなんです。リプレースすればいいって言う人もいるけど、原発1機が廃炉になるまで40年近くかかる。自治体の財政はそれまで待っていられない。リプレースって言ったって、そんなに簡単にできません。
 それで事故が起きたら何もかも失ってしまう。原発による繁栄っていうのは、一炊の夢なんだよね。
 すべて、ありとあらゆる商売は、原発に依存することになる。街中の洋服屋、生活雑貨屋、旅館、飲み屋、すべてです。みんな努力しなくなるんだよ。だって、努力しなくても食っていけるんだから。原発からの発注っていうのは、極めて利益率が高いんだよね。みんな定価で買ってくれるんだから。そりゃ、努力しないよ。
 例えば衣料品店、村民の方を向いてません。作業着とか靴とか、原発作業員用のものを仕入れて売ればいい。黙っていても、売れる。こんないい商売ないよ。
 旅館もそう。原発作業員向けだから、雑魚寝で風呂は共同なんだよ。J-PARK(原子力を含む幅広い分野の最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群の呼称)ができたとき、世界中から研究者が集まるから、個室にするとか、部屋を改装しなきゃダメだって言っていたんだけど、やらない。
「改装なんていい。作業員が来るから」ってみんな言いますよ。田んぼのど真ん中で宿屋が成り立つのは、必ず作業員が泊まりに来るっていうのがわかっているからね。あれ、回って来るんだわ、定期的に。
 新潟県妙高市と東海村が災害援助協定を結んだときに、東海村といろいろなデータを比べてみた。そうしたら、妙高市の人口は東海村よりも少し少ないけど、工業製品出荷額は東海村の5倍なんだよ。原発立地自治体は工業製品出荷額が少ない傾向があって、福井県敦賀市と隣の越前市を比較すると、越前市は敦賀市の約3〜4倍ある。多様な産業が育っていれば、栄枯盛衰はもちろんあるんだけど、持続性が高まる。
 私は原発のことを疫病神だって言っているんだよ。一度受け入れると、いずれ悪魔に魂を売ったって思うようになる。一度、オイシイものにぶら下がってしまったら、もう何もしなくなる。簡単にメシを食える方法を覚えてしまったら、もう何もやらない。

――そうすると、東海村にも未来はないということなのでしょうか。今後、どうなっていくんでしょうか。

 東海村は大丈夫だよ。東海村は水戸市、日立市、ひたちなか市に近い。それに、東海村は実際は原発というよりも、JAEA(日本原子力研究開発機構)がある。それに常陸那珂火力発電所もある。こうしたものが村を支えている。原発だけじゃないよ。
 まあ、東海第二原発は廃炉にしたほうがいいよ。そのほうが、雇用は増えるんじゃないかな。

原子力は東海村の文化 カネじゃなくて人だよ

――「脱原発」の想いを強くして、積極的に発言するようになったのは、どのような経緯があったのでしょうか。

 私がはっきりと言っていかないといけないって思ったのは、福島第一原発の事故後、ろくに事故の原因究明ができていないにもかかわらず、すぐに再稼働へ動き始めたからです。本当にこの国はダメだと思いましたよ。きっかけは2011年6月18日の当時の海江田経済産業大臣の、原発の再稼働についての声明ですね。

――2005年、2009年の村長選挙の際、原発に依存しない村を訴えていましたが、その当時から疑問に思っていたんでしょうか。

 昔から疑問には思っていました。でもはっきりと「脱原発」って言うところまではいかなかった。東海原発の3号機、4号機の新設の話も出てきたけども、私はあの時点で原発に依存していると村の未来はないなと思っていました。原発それ自体に、将来がないなと。
 選挙のときは、相手の候補者の方は言っていましたね、私が反原発だって。原子力界や日立製作所労組、自民党県連、総出で原発推進派の相手の候補を応援していましたよ。でも私は勝ったんです。
 J-PARCに代表されるような、新しい原子力の利用を進めようということを訴えていました。原発と違って、直接J-PARCは村にカネをもたらさないんだけど、社会的な価値、文化的な価値、これはものすごく高い。これを村の宝にしようと。
 それを形にした構想が「TOKAI原子力サイエンスタウン構想」なんです。経済的な価値をすぐに求めるのではなくて、社会的な価値を大事にする。日本、アジア、世界で最先端の原子力の研究機関にしようということです。

――村上さんはJCO臨界事故をご経験されています。日本で初めての周辺住民の避難指示を出す事態になりました。あのような事故を経験してもなお、原子力関連施設を村の発展に利用しようと考えたのはなぜなのでしょうか。原子力関連の施設の誘致をいっさい止めるという判断もあったのではないでしょうか。

 それはしなかった。なぜかというと、原子力は東海村の文化でもあるんだよ。産業的な意味もあるしね。東海村の歴史のなかで、50年間、文化としてビルトインされている。原子力というのは、東海村にとってそういう存在なんだよ

――文化というのはどういうことでしょうか。

「人」だよ。東海村は研究所を受け入れたという認識。まあ、それが実際はちょっと違って、村民が考えていたもの以外のものもワンセットで入ってきちゃったわけなんだけどな。当時の国は、研究所を作って、早く国内に第1号の原子力発電所を作りたがっていたからね。
 でもね、村民はだれも異議を唱えなかった。なぜかというと、それが東海村の発展につながるだろうと、みんなが思っていたんだ。実際に、日本各地からたくさんの新しい人が移住してきた。その人たちは東海村の人たちと融合していった。他の地域から来た人は、さまざまな文化を持ってきて、東海村の村民意識の向上に貢献してくれた。人の往来が生まれたことで、閉鎖的で排他的だった村が、だんだんと開放的な村に変わっていった。
 だから、「人」だって言っているんだよ。カネよりも人なんだ。

科学的な精神を持っていない 想定できたのに対処はしなかった

――JCO臨界事故での対応を思い返してみて、福島第一原発の事故対応について、どのように見ていましたか。

 変わらないなあ。全然、変わっていない。結局、準備が何もできていなかったよ。まったく想定していない。想定外だったんだよ、あの地震も津波も。1000年に1度の地震だ、とか言っているでしょう。都合がいいんだよ、1000年に1度っていう言葉は。
 原子力は危険だってわかっていれば、想定はできるはずですよ。実際に東京電力は震災前に、いまの想定では津波対策は不十分だって認識していたんだから。でも費用の問題で後回しにされていた。想定はできていたのに、対処をしなかった。
 避難誘導も何もできていなかったよね。屋内退避とか言われたって、何も知らされずに家でじっとなんかしていられませんよ、普通。

――JCO臨界事故の教訓は何も活かされていなかったんですね。

 活かすって、日本人は過去の教訓を活かすなんていうことができる民族じゃないんだよ。目の前の利益ばかりを追う民族ですよ。アメリカは活かしていたと思うよ。メルトダウンが予想されたらすぐに福島第一原発から半径80キロメートル以内は避難するように指示を出した。それが常識だよ。
 彼らの持っている前提っていうのは、まったく非科学的だ。だって、「全電源喪失が起きても短期間で復旧するから想定する必要はない」という認識なんだから。原子力防災指針には「原子炉は多重に防御されているから、住民避難が必要になるような事態は起こらない」となっている。科学的な精神があったら、そんな前提は持てないよ。
 原子力防災指針のなかには「仮想事故」っていう欄があって、最悪の事態を想定して、どう対処するのかっていうことを書くんだけど、そこには炉心溶融が起きて放射性物質が外部に大量に放出されるということが書いてある。でも、脚注がその下に書いてあって、そこには「これは仮想事故だから具体的な対策は必要ない」って書いてあったな。意味ないんだよ、まったく(笑)。対策をしたら、えらいカネがかかるから止めておきましょう、っていうことなんだよ。すべてにおいてそう。

即ゼロじゃなきゃ 新しいものは生まれない

――専門家のなかからは、原発は動かさざるを得ないという声が上がっています。

 何でですか? 原発動かしたら、本当に電気代安くなるんですか? 本当になるんですかね……。それは疑問ですよ。元に戻るんですか、電気代。電気代が高いのは全部原発が止まっているせいなのか。新しいことに挑戦する気はないのかね、この国は。
 世界では再生可能エネルギーに積極的に投資をしているでしょう。世界の電力投資を日本は知ろうとしていない。目先の利益のことばかり考えて、原発だって言っている。
 政治家も企業の社長も、日本の将来なんて考えていないんじゃないのか。彼らは自分の任期の間、利益が上がればいいって考えている。長期的な視点なんて、まったくないよ。

――東京電力をはじめとした電力会社は経営状態が悪化しています。原発は中期的、段階的に縮小していき、当面は動かして経営状態の悪化を食い止めて、それを原資に賠償、除染、福島第一原発の事故処理、廃炉を進めるべきだということが言われています。

 東電はちゃんと整理しなきゃいけなかったんですよ。あんなものを救済するために税金をつぎ込んで、まったくとんでもない話だよ。法的整理をすべきだったんですよ。
 それをさせないのは銀行団と財界でしょう。税金を使いたいだけ使って、債権者でもある銀行と財界はぜんぜん傷を負わない。酷い話だよ。あんな曖昧な処理をしていたら、また間違いを起こすよ。ツケを払っているのは国民ですよ。その一方でぬくぬくしているのは債権者。

段階的に減らしていくというのでは政策になりませんよ

――一昨年末の衆院選、昨年夏の参院選では原発のあり方が争点になりました。現在の都知事選でも各候補者は原発のあり方を有権者に訴えています。即ゼロ、段階的に原発依存を脱却する、安全だと確認できれば再稼働するなど、それぞれの見方があります。村上さんはどのようにお考えになりますか?

 即ゼロだよ。即ゼロでなければ、新しいものは見出せない。中期的には動かして原発依存を脱却するっていうのは、曖昧だ。基本は即ゼロ。そこから新しい方針や政策が生まれてくる。
 しかし、そうは言っても、やはり即ゼロにするのは難しいという状況があるかもしれない。その時はやむを得ず次善の策として動かすという決断はあるのだろう。でも、段階的に減らしていくっていうのは、政策になりませんよ。
 どちらが前提なのかというのが大事です。段階的と言っていては、政策立案者としてはダメですよ。

――ベース電源をどうするかという問題は残ります。
 ベース電源というのは、ガスもあれば、石炭もある。最近の火力発電所は高効率だからね。それらをベースにすればいいんだよ。原発はあれだけの事故を起こして、解決不能なわけでしょう。制御できていない技術をベース電源にするんですか?
 暴走したら、誰も止められない。それに依存するのはダメでしょう。これはもう、倫理的な判断だよ。経済的な判断だけで決めるべきじゃない。

原発は中央依存の象徴的なもの 地方は自立しなければいけない

――地方自治体は、エネルギーについてどのような活動を行っていくべきなのでしょうか。

 自治体はエネルギーの自立を考えるべきだ。家庭用の電気くらいは自分のところでなんとかする。東京に送るような大容量の電気はできないけど、家庭向けくらいは自分たちで賄う。例えば東海村は1万5000世帯あるんだけど、単純計算で2.5メガワットの風力発電を8機で間に合うことになる。
 そうすれば、分散型電力市場に変わっていく。やっぱり地域独占体制ではダメなんだよね。電力供給体制を見直さないといけない。

――都知事選でも脱原発が争点になっています。ただ、原発は国の問題で、自治体の問題ではないとも言われます。

 首長というのはなかなか動きがとれない。でも意思表示をする意味の大きさはあると思う。脱原発の声明を出していくしかない。具体的にどうするかは、脱原発派の首長全員が一致して動いていくのはなかなか難しい。
 でも、そういう声を上げる地方自治体の首長が増えてくれば、原発は作れなくなるし、動かせなくなると思うよ。私は原発立地自治体ではない自治体にも呼ばれて、講演にいくんだけど、皆、中央に依存しない、地方の新しい生き方を考えている。
 原発は中央に依存する象徴的なものだと思う。原発をなくすには、地方が自立しなきゃいけない。

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