【記事69560】【記者の目】東海第2・広域避難計画 観光客、どう守る?(茨城新聞2018年4月21日)
 
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【記者の目】東海第2・広域避難計画 観光客、どう守る?

 日本原子力発電東海第2原発(東海村白方)の過酷事故を想定した広域避難計画作りで、自治体が観光客の対応に苦慮している。大本となる県の計画は、観光客に関する記述が乏しい上、先行きも不透明なためだ。効果的な方策の検討に加え、集客施設との連携など、ハードルは低くない。「観光のまち」には、住民だけでなく観光客の安全を守る体制を整える責務がある。(水戸支社・鈴木剛史)

■“第2の町民”

 「どのように観光客に避難を呼び掛けるか」。全域が同原発の半径30キロ圏内に入る大洗町の担当者は周知の面で心配を口にする。
 同町は例年、四百数十万人の観光客を呼び込む。大洗サンビーチ海水浴場やアクアワールド県大洗水族館などを抱え、毎回10万人前後の来場者を集める「あんこう祭」や「海楽フェスタ」といった大型イベントも開かれており、観光客は“第2の町民”ともいえる存在だ。
 町は事故の際、防災行政無線と緊急速報メールで観光客に避難を呼び掛けることを想定している。ただ、「町の人口をはるかに超える人たちに漏れずに伝えられるかが課題」と担当者。日頃からの周知についても「過度に不安や恐怖心をあおることになっては、観光に悪影響を及ぼす可能性がある」と、観光地特有の懸念を明かした。

■乏しいお手本

 市町村が避難計画策定の参考とする県計画は、観光客に関する記述が心もとない。
 観光客は出張などを含む「一時滞在者」に分類され、放射性物質の外部放出の可能性が出た「施設敷地緊急事態」の段階で各市町村が避難を勧告し、帰宅を促すと定めている。
 ただ、交通手段がない人たちの避難の足と想定するバスの手配はめどが立っておらず、関係機関に働き掛けている段階にとどまるなど、先行きは鮮明になっていない。
 県担当者も「観光客にどう対応、周知していくのかは、計画全体の課題の一つとして認識している。各地域の特色に応じた対策も必要」とみて、国などと相談し一定の方向付けをしていく考えを示している。

■知恵絞る

 こうした中で、独自の広報策を模索する自治体も出始めた。
 防災行政無線を持たない水戸市は本年度から、自動的に起動して災害情報を受信する防災ラジオの配布を順次進める。対象にはJR水戸駅などの施設も含まれており、事業者を通して避難を広報してもらう。偕楽園などでは広報車を走らせ避難を呼び掛けるという。
 市担当者は「東日本大震災の時は、緊急速報メールや独自の放送もなく、避難の周知が効率的にできなかった。その反省を生かしたい」と話す。
 国営ひたち海浜公園など大型集客施設を抱えるひたちなか市も、公園を管理する国土交通省などと協議し、避難の呼び掛けについて協力を求めていく構えだ。
 陶炎祭(ひまつり)などの観光イベントが開かれる笠間市も、事業者や主催者にその都度、協力を依頼する考えを示す。
 「効果的な周知は、とりもなおさず住民の安全に直結するはず」と、ある自治体の担当者は強調する。実効性の担保が常に指摘される原発の広域避難計画にあって、観光客の対応はゆるがせにできない。

★広域避難計画
災害対策基本法や原子力災害対策特別措置法などを準用する形で、本県では東海第2原発から半径30キロ圏の計14市町村で策定が必要になっている。該当市町村は県計画に沿って自前の計画を作る。ただ、県計画は原発の単独事故を想定し、福島第1原発事故のような地震や津波との複合災害を考慮していないなどの課題も指摘されている。

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