【記事72321】東海第二原発(茨城県東海村)の本質的問題 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)(たんぽぽ舎2018年7月21日)
 
参照元
東海第二原発(茨城県東海村)の本質的問題 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)


※《事故情報編集部》より
 7月21日(土)に開催された『先月・今月・来月の原発問題』で山崎久隆さんより提起された「東海第二原発の本質的問題」(60項目)について、抜粋しながら順次連載したいと思います。

1.設置許可の瑕疵(かし)−設置許可をしてはならない原発・東海第二

◎ 2011年3月11日、東日本大震災で福島原発震災が発生し、原子力施設の地震・津波対策、過酷事故対策には実効性がないことを実証した。
 従来の原子力規制は、原子力安全委員会が原子炉等規制法に則り一次審査を実施、原子力安全・保安院が二次審査を行いダブルチェックで実効性を確認するとされていた。
 しかし、震災と津波の前には無力だった。
 震災後、国が最初にすべきだったのは全原発を止めて安全体制の確認を実施すると共に、設置許可を一旦取り消すことだった。
 とりわけ老朽化した原発は直ちに廃炉にする必要があった。当時、政府は原発が順次、定期点検で停止していく中で運転再開を認める場合はストレステストを行い、緊急津波/地震対策の有効性を確認するとした。
 しかし鳴り物入りの「ストレステスト」すら尻切れとんぼに終わった。
 原子炉等規制法が改正され、2014年からは再稼働の際は改正法の下で地震と津波対策及び重大事故対策の有効性を確認することとされた。設計段階で想定していない規模の地震や津波に後付けで十分な対策が可能なのか大いに疑問だった。そこで当時の政府は厳格な審議を行うとした。

◎ 日本原子力発電東海第二原発は、最大の人口密集地帯、東京圏から最も近い原発だ。
 原子力委員会が1964年に定めた立地指針には次のように記載されている。
 「敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故(「重大事故」という。)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。」「更に、重大事故を超えるよう技術的見地からは起るとは考えられない事故(「仮想事故」という。)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。」(原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて)
 30km圏内人口は約96万人、50Km圏内で約144万人、最小エリアの5km圏内(PAZ)で約5万人だ。これでは立地指針に反している。この原発の設置許可は無効であると考える。
 これについて規制庁は、立地指針で想定した事故(想定事故並びに仮想事故)は現時点では過小評価であると言い出した。福島第一原発事故のような事故発生地点から周囲30kmを遙かに超える距離まで避難する事態は、想定外だ。
 大規模な住民避難が出来るように自治体に原子力防災計画の制定を求めることもしてこなかった。

◎ 規制庁が「立地指針は非現実的で現在は適用していない」というのならば、その前提で建設された原発も「非現実的存在」(つまり廃炉)としなければおかしい。一方は現実に存在し続け、いざとなれば避難せよとはあまりに勝手な言い分だ。
 少なくても政府が認めた原子力緊急事態を想定する範囲30km圏は、事故が起きれば住民避難が必要となる可能性が高い。これら地域の人々全員に再稼働の是非を問うことなく議論を進めることも許されない。「重大事故が起きても影響は敷地内部に留まる」とした立地指針の違反である。
 規制委員会は立地指針を無効なものと捉えているが、勝手な言い分である。立地指針を信用して原子力を受け入れ、或いは立地点からの距離が離れているから対策をしてこなかった自治体には同意を求めなければならない。

2.設置許可時との状況の変化
  当初設置許可を出した時とまるで変わってしまった

◎ 東海第二原発が建てられた時期は1970年代の高度経済成長下で電力生産のために数多く発電所が建設されていた。
 当時も東海第二原発の30キロ圏内人口は十分大きかったと考えらるが、原子力非常事態に際しての事故想定は敷地内に留まるとされていた。

◎ 1960年代に過酷な汚染に見舞われ、1970年代以降は公害問題が社会問題化し、立法措置が取られてきた。1967年に公害対策基本法、1968年に大気汚染防止法、1971年に環境庁が作られ、1993年には環境基本法が制定された。
 これら公害の定義は「人の活動に伴って生じる相当の範囲にわたる大気汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずること」とされ、放射性物質は含まれなかった。
 しかしながら公害防止費用や賠償について「汚染者負担の原則」が取り入れられ、「無過失責任主義」として故意や過失が無くても責任を負うこととされた。
 また、濃度規制ではなく汚染物質の総量規制も取り入れられて環境への影響を低減させる努力が定められた。

◎ 原子力発電所についても同様に規制されるべきであったが、これらの考え方が十分には取り入れられていない。
 放射性物質は依然として濃度規制であり、東電福島第一原発事故の後に賠償責任を負うべき東京電力に対しては税金を投入したり他電力の支出金を充てるなど、原則を逸脱する賠償方法を、法律を作ってまで実施した。
 さらに福島第一原発事故の際には存在すらしなかった新電力に対してまで託送電力料金として費用負担を強いている。
 東海第二原発の設置許可当時と現代では、大きく環境が異なっており、こうした点を考慮してもなお、再稼働を目指すべきであるかを考える必要がある。

4.沸騰水型軽水炉の欠陥 炉心安定性の欠如と核暴走の危険性

◎ 軽水炉は原子炉内部の核分裂反応と炉心燃料の冷却共に「水」を使う。その中でも沸騰水型軽水炉は冷却材と減速材である水が常に沸騰しているので、密度が大きく変化する。
 アワが多い炉心上部は減速材密度が小さく、アワが少ない炉心下部は減速材密度が大きい。
 核分裂反応は原子炉下部が盛んになる。これを平均化するために中性子を吸収する「ガドリニウム」を下部により多く添加したり制御棒操作により燃焼を平均化する作業を行う。

◎ 沸騰水型軽水炉のうちBWRタイプ5と呼ばれる東海第二、柏崎刈羽原発1〜5号機などは、大型の再循環ポンプを2台使い、配管で圧力容器から水を抜いてポンプで加圧して戻している。
 この際ラッパのような形をした「ジェットポンプ」と呼ばれる装置を使い周辺の水を巻き込んでさらに流量を増やして炉心下部に噴出させ炉内での水の循環を行っている。
 再循環ポンプにより原子炉内の水の流れを作ることで、アワを効率よく上部に押し流すことで燃料の周囲に存在するアワの密度を整えている。
 この強制循環を炉心流量というが、再循環ポンプが全部止まると原子炉出力は効率的な中性子の減速が出来なくなるため、40%程度にまで急降下する。
 また、炉内の水が減ると水位が低下し、相対的に冷却能力も低下するためアワの密度が増えて出力が急降下する。

◎ これらは「ボイド(アワ)反応度係数が負」という性質を説明したもので、原子力の専門家からは「固有の安全性」などとも言われている。
 しかし裏返せば急激なアワの減少や冷たい水の投入はアワを消す方向に働くので、ボイド反応度係数が負であるために炉心出力が急激に増加する要因でもある。
 特に運転中に再循環ポンプが止まったり動いたりを繰り返せば、それだけで炉内出力は極めて不安定になるし、冷水投入は原子炉冷却材喪失事故でECCS(緊急炉心冷却装置)炉心スプレイ系を作動させれば自動的に炉内温度より低い水を送り込むことになるので炉心の不安定化について容易に条件を満たすこととなる。
 炉心の減速材密度すなわちアワと水の比率は、再循環ポンプが停止すると不規則に変動し始めるが、これに伴い原子炉出力も変動する。そのことを説明した図が「「東海第二発電所重大事故等対策の有効性評価補足説明資料」の13ページ「補足6−2」の第1図有効性評価「原子炉停止機能喪失」における運転特性図上での運転点の推移」だ。
 ギザギザに乱高下しているグラフは炉心流量(横軸)と出力(縦軸)の関係を表している。矩形で引かれたラインは原子炉起動から通常運転時における制限範囲を表しており、この外に逸脱することは禁じられている。

◎ 炉心流量は再循環ポンプで、出力は制御棒でコントロールされており、再循環ポンプが停止した場合、その状態に応じて制御棒を挿入し、出力を大きく下げている。これを「選択(または代替)制御棒挿入操作」または「ハーフスクラム」という。
 しかし今回の重大事故等対策では制御棒は全挿入失敗、再循環ポンプは全台停止を前提とするので運転制御はできない。

◎ いかなる方法で炉を止めるのか、それには中性子を吸収するホウ素(ボロン)を投入する。ほう酸注入系統がそのために設置されている。このような設備を「後備停止系」という。
 では、この系統が機能しない事態を招いたらどうするのか。例えば地震である。制御棒駆動機構185本が全部破損し、制御棒が入らない事態になるということは、ほう酸注入系統の配管かノズルが破損して入らなくなっている事態も考えられる。重大事故等対策とはそういった「あり得ない」ほどのことも想定しなければならない。

◎ 唯一残された手段は、中性子減速材である水を減らすことである。給水システムをコントロールし、原子炉内の水位をギリギリまで下げていく。その「ギリギリ点」はレベル1近傍。有効炉心頂部からわずか40センチ上のレベル1の、50から150センチ上を目指すという。最早綱渡り運転である。
 念のために言えば、この段階で原子炉は完全に停止してはいない。10%か20%か、出力は残っている。崩壊熱だけの冷却にすら失敗しメルトダウンを来した福島第一原発事故の教訓は感じられない。

◎ この炉心安定性の欠如にはもう一つ大きな問題がある。出力が不安定化し、乱高下している状態でも冷却は続ける必要がある。
方法は二つ。水を入れるか熱を抜くかだ。水を入れるのはECCSなどの注入系ポンプの駆動。
しかしこれは水が入るため炉心の不安定さをますます酷くする。
もう一つは圧力逃がし弁からサプレッション・プールに熱を捨てる方法。一定の時間は使えるが冷却能力を超えてプール水の温度が高くなると止まる。
 不安定な状態が続くと出力は激しく上昇し、最悪の場合は暴走状態となり爆発的に反応する。チェルノブイリ原発事故のように。

◎ 福島第一原発事故はいわばTMI型であったが、次に東海第二で起きるときはチェルノブイリ原発事故のような性質かも知れない。
 その場合、福島第一原発事故のような放射能拡散予測とそれに対する避難態勢の準備は全く実態に合わない問題がある。

5.欠陥水位計が曝露された福島第一原発事故
  原子炉水位さえ見えなくなる原発

 沸騰水型軽水炉の炉心水位計は圧力容器の下部と上部から管を引き出す構造になっている。上部には基準面器(凝集槽)と呼ばれるタンク構造を持っている。
 管が真下に延び、その先は圧力容器下部から引き出された管につながり間に差圧計を付けている。
 原子炉内部の気水混合状態に対し、凝集槽につながる配管は水で満たされており、圧力容器内部の水面を外に出すことで計測している。
 通常は水位測定に問題は生じないが、容器内の冷却材が減少し、基準水面が失われた後に下部の配管からも水が抜け、再度冷却材を投入した場合、液面が正しく計測できなくなる場合がある。
 福島第一原発事故の後に起きた水位計測のミスはこうして起きた。
 実際には圧力容器内が空炊き(有効燃料下部を下回っていた)状態でも水位は燃料の中央付近にあると指示していた。このため冷却はできていると考え、その後の対応に失敗しメルトダウンを引き起こした。
 この水位計の欠陥はおよそ沸騰水型軽水炉であればBWRの全てのタイプにおいて起こりえる。
 東海第二原発は水位計を増設し、従来は一つしかなかったものを3箇所に取り付け、仮に誤差が生じた場合は多数決で決定するとした。一見対策になっているようで実際には無効である。
 福島第一原発事故のようなケースでは3つの水位計総てが同じエラーを出すだろう。仮にバラバラに出ていたとして、多数決で正しい水位を取ることなど出来ない。
 対策を取るのであれば、計測原理の異なる水位計を複数取り付けることだ。例えば中性子の減速能を考慮し、炉心から出る中性子線を圧力容器外部で測定し、減速能の変化から水位を読み取ることが出来る。
 また、炉心下部に取り付けられている中性子計測計配管のノズルなどを利用し、差圧計を多数取り付ければ、単純な重力計測だけでその上部にある水の体積をつかむことは難しくないであろう。
 これら原理の異なる複数の測定装置を組み合わせて、炉心の冷却材が大幅に減
少しても計測できる体制を取ることくらいは出来るはずである。

6.再循環ポンプという大きな弱点
  圧力容器の下部に巨大配管のリスク

◎ 従来型のBWRは圧力容器の下に再循環系出口配管が2箇所取り付けられている。これは再循環系に炉心の冷却材を送るためだが、燃料領域の下に内径55センチの配管の存在は、冷却材喪失事故に対して脆弱である。
 旧安全審査において、最も重大な事故の一つは再循環系出口配管のギロチン破断であった。現在でも過酷事故の一つであることは間違いない。

◎ 再循環ポンプの事故は福島第二原発3号機で1989年1月に発生した。BWRタイプ5の再循環ポンプはそれまでのポンプの規模を拡大して作られていたため、ポンプの回転により水切り部から発生する水圧の変化を伴う振動周波数が低周波側に動いていた。
 これとポンプの内部に取り付けられていた水中軸受のリングが運転領域の90%を超えたあたりで共振し、溶接部分に応力が集中して亀裂が発生、溶接が「完全溶け込み」ではなく「隅肉溶接」と呼ばれる脆弱な方式であったため、亀裂が進展して破断した。
 運転中にリングが脱落し回転翼と噛み込みを起こし、大量の金属片が原子炉に流れ込み一部は燃料に突き刺さった。
 東電の推定で約30キロのステンレス片が燃料の間や制御棒駆動機構に入り込んだため764体の燃料と185体の制御棒は全部交換、炉内も長期間をかけて洗浄し、ポンプの軸受部の構造を改良型に付け替え運転を再開した。
 これらは設計ミス、施工ミス、運転管理ミス、そのうえ事故発生直後の情報公開を怠るミスも加えて、あらゆるミスを繰り返した。
 再循環ポンプは炉内から冷却材を引き抜くところから入れるところまで、全てに大きなリスクを持っていることを忘れていたかの行為に、多くの人々が強い憤りを持った。
 圧力容器から出ている大口径配管の危険性は容易に想像が付くが、ポンプそのものと出口配管であるリングヘッダー配管については、大口径破断を考慮すればそれに包絡していると考えられている。

◎ しかし実際はそうではない。
 冷却材喪失事故には大口径破断、中口径破断、小口径破断とに分けられる。
 出口配管の破断は大口径破断であるが、電源を失ったポンプそのものは小口径破断に相当し、リングヘッダー配管の一部(一本)破損は中口径破断に相当する。
 福島第一原発事故では全電源喪失時にポンプが止まり、軸受部に流れていたパージ水も止まった。
 軸受にながされるパージ水とはポンプ内部に係る圧力(約70気圧)により炉内の冷却材が軸受部を伝って外部に漏れ出ることを防ぐために、ポンプで加圧した純水を軸受部に押し込む水を言う。
 電源喪失によってパージ水を送るポンプも止まるが、再循環系配管部は閉鎖できないので炉内圧力はそのままかかり続ける。圧力差で冷却材がポンプの軸受を伝って漏えいするので、事実上の小口径破断事故と同様の事態となる。同じことは給水系配管に取り付けられている給水ポンプでも生ずる。

◎ このような場所からの漏えいを想定して水位低下時にはECCSを作動させることとなるが、電源喪失ではこれも出来ない。
 原子炉圧力を下げるための逃がし弁からの漏えいだけでなく、こういったところからの冷却材喪失は想定されていない。

7.応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking,SCC)など老朽化で破損
  炉内構造物も配管も応力腐食割れで壊れてゆく

◎ 東海第二原発の炉内構造物の内、原子炉圧力容器の真ん中付近にあるシュラウド(※)には多くのひび割れが発生している。
 このひび割れは今回の規制基準適合性審査においても考慮したはずだが、問題がないとされた。「維持基準内」のひび割れとの評価だ。

◎ しかし亀裂のある構造物をそのままにすることは問題が多い。
 例えば大きな地震を想定すれば、亀裂が進展して破断する可能性は亀裂が無い場合に比べて大きくなる。その評価は基準地震動で行われているが、もっと大きな揺れも想定しなければならないし、さらに20年間にわたり亀裂が進展することも考えなければならない。
 あまりにも不確実性が高いのだが、それでも亀裂を残したまま再稼働しようとしている。

◎ 応力腐食割れとは、材料と環境と応力の組み合わせで発生する。
 材料とは金属材料中の不純物の量が影響する。具体的には炭素である。炭素含有量の大きい材料は応力腐食割れに弱いが、これを対策していたとしても、溶接に使用した材料も問題がある。インコネル600という材料は応力腐食割れに弱いとされるが東海第二原発で使用している。

◎ 環境とは水に含まれる酸素や水素、混じり込む塩素などが影響することを意味し、BWRの場合は応力腐食割れ対策として水素を添加している場合がある。
 また塩素は海水の漏れ込みによっても侵入するが、海水冷却を行う日本の原発は極めて不利な状況にある。

◎ これに加え応力つまり引っ張りの力が掛かることでひび割れが進展する。引張応力の代表格は製造時の溶接による残留応力だが、東海第二原発のように古い原発の場合は、中性子照射による照射脆化、あるいはECCS緊急炉心冷却装置の作動に伴う熱応力なども考えなければならない。
 これらの要素を全て見た上で、シュラウドのひび割れが過酷事故につながらないとの証拠を明らかにする義務が事業者にも規制委にもあるはずだが、材料や寸法や構造設計などの基本情報を白抜きにして隠している限り証明など出来ない。
 再度、資料を明確に示しながら問題がないことを明らかにすべきだ。
(※)シュラウド:原子炉圧力容器内で燃料集合体と制御棒などを支えている円筒状のステンレス製構造物

8.福島第一原発事故の原因究明は出来ていない
  同じ沸騰水型軽水炉である東海第二で教訓の反映は出来ていない

◎ メルトダウンを起こした福島第一原発3機の原子炉は、どんな推移でメルトダウンに至ったか。これについては明確に捉えられていない。
 特に水位と圧力と温度のデータが正確に把握できなくなってから数時間でメルトダウンをした1号機については環境放射線の増加との関係が分かっていない。炉心が空炊きになった時刻すら未確定だ。
 これでは他の原発の安全対策を取ることはできない。
 原子炉への給水が止まってから、炉心が露出するまでの間、注水が出来なければどうなるかの理解が運転員にあったとは思えないのである。
 冷却材が入らないままで作動したのはIC(非常用復水器)のみである。この装置は炉心から出る蒸気を、細管を通じて二次系の冷却水に移し、二次系冷却水は蒸気となって外部に放出される構造だ。炉内の冷却水は全く増えない。

◎ 一方、全電源喪失状態では、原子炉から冷却材が漏れていくことは常識である。特に大きな量が抜ける要因は原子炉圧力を下げるために逃がし弁の作動だが、1号機では作動していない。従って、逃がし弁以外の、給水系ポンプ軸受部と再循環ポンプの軸受部からの漏えいが大きな喪失源になるだろう。
 このような漏えいはいわば小口径破断にあたり、原子炉内の圧力は下がらないので、シビアアクシデント対策として備えていた消防用水配管からの注水は出来ない。
 これは2、3号機でも起きたことだが、減圧しなければ10気圧程度の注入能力しかない消防用水ポンプから水は入らない。

◎ 冷却材を喪失してから炉心破壊が起きるまでについても、海水注入と燃料の冷却能力の変化の関係やMOX燃料体の存在と炉心溶融の速度や発生点の解明、燃料が熔けてから圧力容器のどこを破って下部に到達したかの経路の解明、炉心スプレイ系を使っての冷却水の注入の効果と別の方法で行った場合との比較評価、落下したデブリの挙動、特に2号機で何故全体の75%もの放射性物質を放出させるに至ったか、格納容器の破損の状況とメカニズム、そしてベント装置の効果と動作確認などは、緊急対策から新規制基準に取り入れられた重大事故対処設備の有効性や成立性について重要な情報を有することばかりだ。

◎ 解明をしないままに次々に再稼働をさせ、それに成立性も信頼性もあやしいベント装置など新たな過酷事故対策装置を取り付けて、次の事故がこのような後付けの装置の不備や欠陥で起きたらどう責任を取るつもりか。
 先行する事故を徹底して解明し、再発防止対策を講じてから、新たな段階に進むべきなのである。

9.東海第二原発への資金投入は福島第一原発事故対策の妨害になる
  巨額の資金の多くは、電力からの支援金や債務保証だ

 東海第二原発の電力を最も多く買うのは東電である。東電は原電に役員を出しており、密接な関係にある。
 東海第二原発の再稼働について東電と東北電は支援を約束している。東北電は債務保証を含む支援を検討しているが、東電は債務保証をは言っていない。ではどのような支援をするのか。
 現在に至るも東電はその内容を明らかにしていない。
 しかし東電自身が福島第一原発震災の加害企業として賠償責任を負っている。その履行については極めて大きな問題が生じており、事実上賠償責任を放棄しているとみられる場面がある。
 これら賠償をしない企業が、またしても他の原発への支援資金を出すことなど認められない。

10.想定地震のうち震源を特定しない地震が過小
  少なくても直下M7.3以上を想定すべきである

◎ 基準地震動を策定するにあたり、プレート間地震と海洋プレート内地震と内陸地殻内地震と震源を特定しない地震をそれぞれ想定しなければならないが、そのうちの震源を特定しない地震については、10キロ以内でマグニチュード6.5を想定している。

◎ しかしながら現代では、震源が特定できない地震で最大は2000年10月6日にマグニチュード7.3の鳥取県西部地震が起きており、想定規模を拡大する必要がある。
 従って、震源を特定しない地震としてマグニチュード7.3の兵庫県南部地震を想定すべきである。

11.基準地震動の策定方法は過小評価
  想定される地震から計算(入倉・三宅式等)される基準地震動が小さい
  安全のためにはより大きな値になる計算手法を採用すべき

◎ 震源から求められる地震動の元となるマグニチュードは、原電の資料では入倉・三宅の式を用いて震源長さなどからマグニチュードを算出している。
 しかしこの方法では過小評価になることが明らかになってきている。

◎ 地震は地下の断層面(破壊面)のエネルギーが地中を伝播して地表面に達して被害を与えるが、地下の破壊面の大きさと滑るエネルギー量で破壊の強さを導きだし、これが地上に与える影響を評価する。これは経験式により導き出されるので、その式の整合性が何処まで実際の地震に迫れるかが課題となる。

◎ 2016年の日本地震学会報告ではこれまでの平均すべり量の経験式は地震モーメントの三分の一乗に比例していたが、7.5×10の18乗の値(モーメントマグニチュードで6.5に相当する値)を超えるあたりから地震モーメントの二分の一乗に比例して大きくなる傾向を示している。

◎ 地震モーメントとは、地盤の剛性と震源断層滑り量の平均値と震源断層の面積を掛けたもので、地震の規模を表している。この値から地震の大きさを示すモーメントマグニチュードを計算するが、その際に過少となっているという。
 同じ地震モーメントでも、モーメントマグニチュードの計算方法が変わるだけで地震の規模、さらには基準地震動の大きさも変わる。

◎ 原発は、重大事故が起きた場合の影響が極めて大きいから、安全のためにはより大きな値になる計算手法を採用すべきである。

12 地盤の不安定さが十分考慮されていない
  東海第二原発は日本一の軟弱地盤に立つのだからこれを考慮すべきである

 東海第二原発の下には軟弱な地層が370メートルにわたり続いている。Vs700メートル(横波が秒速700メートルで進む固さを持つ地盤)の基盤はマイナス370メートルに存在するが、これは日本で最も深い地点である。
 地盤が悪いと、大きな地震が発生した場合、液状化が発生する。さらに地面の下で地震の揺れが増幅したり減衰したりと、予想外の動きをする。
 例は中越沖地震で柏崎刈羽原発が、あるいは2009年8月11日に駿河湾地震が起きた時の浜岡原発が挙げられる。
 10年あまりで二度も地盤の不安定さから異常な地震動に遭遇したことは、東海第二原発にとっては大きな脅威であり、同様の事態を想定すべきである。

13 耐震設計分類は不合理である
福島第一原発事故の経験は耐震設計分類の不合理を証明している

◎ 信じがたいことに、今でも外部電源の重要度分類が最低ランクの「クラスC」である。
 電源喪失が極めて危険なことは福島第一原発事故を経て身にしみていると思っていたが、そうではない。
 外部電源設備を耐震設計「クラスS」で設備するのは多額の費用が掛かろう。
 しかし敷地内に非常用ディーゼル発電機を有しているのだから、外部からの給電設備を「クラスS」でつくることは可能である。

◎ 旧安全設計審査指針では「重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること」(安全設計審査指針48.電気系統)とされていた。

◎ 外部電源は非常用電源と並列的にいずれかからの電気が供給される設計を要求される重要な系統である。
 福島第一原発事故では、外部電源については地震の揺れによる地盤崩壊で送電鉄塔が倒壊、送電線が断線し、構内の受電遮断器も地震で損傷したため全部喪失した。これを招いたのは外部電源の重要度が最低ランクの「クラスC」であったからだ。
 従来は全交流電源が喪失しても30分で復旧できるとの根拠のない発想で、「クラスC」でもかまわないとされてきた。
 しかし、福島第一原発事故の教訓は、何日も外部電源が無いままに電源車などをいくら準備しても恒設の設備にうまくつながらないことだった。
 せめて福島第一原発事故の教訓くらいは生かすべきである。
 さらに冷却材の供給についても異常事態が起きている。

◎ 消防用水ポンプと消火系ポンプに配管。これが「クラスC」で設備されているのは、もともと原子炉冷却用に想定されていないからだ。建物の防火設備で過酷事故時の原子炉冷却を担わせるなど想像も出来ない。
 これは吉田所長も疑問に思っていたことだが、実際に他に手段がないため消防用水ポンプを使った給水を試みている。案の定、メルトダウンを阻止することなどできなかった。
 消防用水ポンプと配管を「クラスS」にして設備し直すならばいざ知らず、従来の性能のままで依然として過酷事故対策として使うという。これは二重の意味で間違っている。

 ※「クラスS」…原子炉圧力容器、残留熱除去系、非常用炉心冷却系
「クラスB」…タービン、廃棄物処理設備
「クラスC」…一般機器、配管系、発電機、循環水系、変圧器など
 ※今回で、山崎久隆氏の「東海第二原発の本質的問題」についての
  紹介は、終了とさせていただきます。
   なお、山崎久隆氏による「東海第二原発再稼働は原発過酷事故を再現する」
  たんぽぽ舎のパンフレット(No101)が近日、発行される予定です。
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