【記事84310】原発は止まる・止められる! 特重施設では「使用済み燃料プール」の安全は保障されない 木原壯林(若狭の原発を考える会)(たんぽぽ舎2019年6月12日)
 
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原発は止まる・止められる! 特重施設では「使用済み燃料プール」の安全は保障されない 木原壯林(若狭の原発を考える会)

1.「特定重大事故等対処施設」期限内に完成しなければ原発運転停止:規制委決定 運転停止を原発全廃の好機に!

 原子力規制委員会(規制委)は、4月24日の定例会合で、原発の「特定重大事故等対処施設(特重施設;報道ではテロ対策施設とも呼ばれている)」が期限までに完成しなければ、原発の運転停止を命じることを決めた。
 特重施設の設置は、福島原発事故を契機につくられた「新規制基準」(2013年7月施行)で義務付けられた。
 当初の設置期限は、新規制基準施行から5年の2018年7月であったが、規制委の審査が長期化し、期限内の完成が難しくなったので、規制委は期限を延期し(2015年)、「原発本体の工事計画の認可から5年」と定めた。
 特重施設は「第2の制御室」ともいわれ、テロ行為その他の緊急事態によって原発過酷事故が発生した場合に、遠隔操作で原子炉を冷却したり、原子炉格納容器内の圧力を下げて崩壊を避けることなどを目的とした施設である。
 原子炉建屋から100mほど離れた場所に設置される。建設費は1基500〜1200億円とされる(朝日新聞)。

 電力各社は、特重施設を期限内に完成させるとしていたが、4月17日の規制委の会合で、施設の完成が1年から2.5年遅れる見通しを示し、再延期を認めるように要請していた。
 工事が遅れた理由は、「工事が当初の見込みより大規模になったため」としている。
 なお、電力各社によると、特重施設を建設するためには、敷地内の山を切り開く、工事用車両のトンネルを掘るなど、大規模工事が必要であることが判明したという。
 [チラシ作成者の意見:杜撰(ずさん)な工事計画しか立てられない電力会社が、原発を安全に運転できるはずがない。]

 規制委の会合(4月24日)では、「自然災害などで工事が遅れたのではない」などと指摘し、期限延長の必要性はないと決めた。
 [チラシ作成者の意見:約束を守らせるのは当然で、これまで、たびたび約束を違えても、虚偽のデータを使用していたことが発覚しても、原発運転を停止させなかった規制委の甘い姿勢こそ問題である。]

 新規制基準審査に合格し再稼働した関電、四電、九電3社の5原発9基の原発の中で最も早く期限が来るのは、九電の川内原発1号機である。 来年(2020年)3月に期限を迎え、その時点で特重施設が完成していなければ、運転中でも、工事完成まで運転停止となる。停止見込み期間は、九電の計画通りに工事が完成したとしても、約1年となる。
 川内1号機以外の5原発8基の期限と停止見込み期間(カッコ内に示す)は、川内2号機;2020年5月(約1年)、高浜3号機;2020年8月(約1年)、4号機;2020年10月(約1年)、伊方3号機;2021年3月(約1年)、大飯3、4号機;2022年8月(約1年)、玄海3号機;2022年8月(未定;九電は間に合わせると表明)、玄海4号機;2022年9月(未定;九電は間に合わせると表明)。再稼働していない原発の期限と停止見込み期間(カッコ内に示す)は、高浜1、2号機;2021年6月(約2.5年)、美浜3号機;2021年10月(約1.5年)。
 日本原電・東海第二原発での設置期限は2023年10月であるが、工事完成時期は不明(工事計画すら未申請)。
 なお、関電は、45年超えの老朽高浜原発1号機を2020年6月に再稼働しようとしているが、再稼働したとしても、1年後には2年半の停止をしなければならない。

2.福島第一原発事故は防げた可能性

 原発のテロ対策などの重大事故対策は、2001年9月の米国での同時テロをきっかけに、世界各地で強化された。
 米国では、2002年に米原子力規制委員会(NRC)が米国の原子力事業者に対して、航空機の衝突や全電源喪失などへの対策を求めている。
 しかし、日本では、福島第一原発事故後になって、やっと特重施設の設置が義務付けられた。
 福島第一原発事故についての国会事故調査委員会の報告によれば2002年当時の「原子力安全・保安院」は、NRCから安全対策強化の情報を得ていたが、電力会社には伝えていない。上記報告書は、「電気事業者に伝え、対策を要求していれば、福島第一原発事故は防げた可能性がある」と指摘している。

3.過酷事故原因はテロだけではない  特重施設があっても事故を防げるとは限らない

 報道では特重施設をテロ対策施設と呼んでいるが、原発過酷事故の原因は、テロだけとは限らない。
 米国のスリーマイル島原発事故(1979年)は、機器の故障と人為ミスがいくつも重なって発生した。
 チェルノブイリ原発事故(1986年)は非常用電源に関する実験中に起きたが、原因は原子炉設計上の欠陥、判断および操作ミス、マニュアル遵守違反の複合である。
 福島第一原発事故(2011年)の原因は解明されたとは言えないが、地震、津波の自然災害、原発施設の不備、人為ミスの複合と考えられる。
 このように、原発過酷事故の原因は多様であり、テロによる事故を想定した施設が完成しても、他の要因による事故の拡大→過酷事故の防止に有効であるとは限らない。

4.特重施設では「使用済み燃料プール」の安全は保障されない

 使用済み燃料プールは「むき出しの原子炉」ともいわれる。プールが自然災害やテロによって倒壊・崩壊すれば、特重施設が完備していても使用済み核燃料の冷却は不可能である。
 このことは、福島第一原発4号機の使用済み燃料プールが倒壊の危機にあったため、大急ぎで使用済み燃料を抜き取り、難を逃れた事実からも明らかである。

5.なぜ規制委は一転強硬姿勢に出たか

 今回の規制委の決定は唐突の感がある。また、この決定には、早速、菅官房長官も支持を表明している。
 それは、自民党政権が、原発の安全性が担保されていない状況では、東京オリンピックへの海外からの支持と参加に悪影響を与えると判断したためではなかろうか?
 ただし、特重施設があったからと言って、大幅に原発の安全性が高くなるものでもない。
 とくに、使用済み燃料プールの危険性は特重施設では除去できない。
 原発全廃、使用済み燃料の安全保管対策の強化こそが、原発事故の回避策である。

6.脱原発・反原発の行動を強化し、全原発の即時廃炉を勝ち取ろう!

 電力会社は、特重施設の完成が間に合わなければ、色々な欺瞞工事や手抜き工事を行う可能性もある。とくに、「特重施設」を「テロ対策施設」とすることによって、テロ対策を口実に、施設の内容に関する情報の多くが不開示にされていることが、「特重施設」の有効性を疑わせる。
 また、自然災害、人為ミス、テロなどによる原発過酷事故が、特重施設の完成を待ってくれるとは限らず、過酷事故は今日にも起こりかねない。
 あらゆる角度から電力会社や規制委を徹底的に糾弾し、原発即時全廃を勝ち取ろう!
(6月7日京都で配布された金曜ビラより、うら面の「5月の出来事」は省略)

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