[2018_06_20_01]詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第18回公判(NHK2018年6月20日)
 
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詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第18回公判

 福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、事故の9年前に国の機関が公表した福島県沖を含む地震の発生確率の予測について、津波工学の専門家が「根拠がなく専門家の間でも信頼性について議論が分かれていた」と述べ、被告側の主張に沿う証言をしました。
 東京電力の元会長の勝俣恒久被告(78)、元副社長の武黒一郎被告(72)、元副社長の武藤栄被告(67)の3人は、原発事故をめぐって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴され、無罪を主張しています。
 東京地方裁判所では12日、津波工学の専門家で東北大学の今村文彦教授が証言しました。
 東京電力は、平成14年に政府の地震調査研究推進本部が公表した、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて、30年以内に20%の確率で巨大地震が発生するという「長期評価」の予測を津波の対策に取り入れるかどうか、今村氏に意見を求めていました。
 今村氏は法廷で、三陸沖から房総沖までの地殻構造は場所によって異なるのに長期評価では一律に扱われていたという認識を示したうえで、長期評価の信頼性について「根拠がなく違和感を覚えた。福島県沖で津波が来た痕跡はなかった」と述べ、信頼性は低かったという考えを示しました。
 そのうえで、「専門家の間でも信頼性について議論が分かれていた」と述べ、被告側の主張に沿う証言をしました。
 これまでの審理では、地震の専門家2人が「長期評価」は信頼できると指摘していて、今村氏の証言はこれまでとは逆の認識が示されたことになります。
 「長期評価には根拠がなく違和感を覚えた」
 津波のメカニズムに詳しい専門家は、この日の裁判で、これまで証言してきた2人の専門家とは全く逆の考えを示しました。
 15回目の審理。法廷に呼ばれたのは、津波のメカニズムや津波防災に詳しい東北大学の今村文彦教授。これまで、内閣府や文部科学省など国のさまざまな機関の地震や津波対策の検討に携わってきました。
 この日の審理でも、大きな焦点となったのは平成14年に政府の地震調査研究推進本部が発表した「長期評価」の信頼性についてです。「長期評価」では、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけての領域で30年以内に20%の確率で「津波地震」が発生するとされました。根拠となったのは、過去400年の間に同じ領域で「津波地震」が3回起きていたとされることでした。
 法廷で今村氏は、「長期評価」をまとめた地震調査研究推進本部について、さまざまな専門家が集まって議論できる場だとして、組織としての信頼性は高いという認識を示しました。ただ、「長期評価」の内容については、「違和感を感じていた」と明かしました。
 法廷では、今村氏が感じていた「違和感」の理由について被告側の弁護士が詳しく尋ねる場面が続きました。この中で今村氏は三陸沖から房総沖までの領域のうち、北部と南部では地殻構造に違いがあり、地震や津波の起き方も異なる可能性があると指摘する論文が出ていたと証言しました。
 このため、「長期評価」が三陸沖から房総沖までをひとくくりにして、「津波地震」の発生確率を出したことについて、「どこでも津波地震が起きるなんて分からず、非常に違和感があった」と述べました。
 また、「長期評価」の中で、過去400年の間に「津波地震」が3回起きたと結論づけられたことについても、専門家の間で議論が分かれていたと話しました。
 今村氏の証言です。
 「3回の地震のうち、1611年に起きた『慶長三陸地震』については、『津波地震』とは別のタイプの地震だとする意見が学会で出されていて、今も検討が続いている。この地震も含めることに根拠はない」 長期評価の結論には疑問があり信頼性が低いというのです。
 これまでに証言した地震の専門家2人は「長期評価は信頼できる」と述べていましたが、この日の法廷では、これまでとは全く逆の認識が示されたことになります。
 一方、今村氏は、「長期評価」が発表された6年後の平成20年2月、東京電力の社員から津波対策に取り入れるべきか相談を受けていたことがこれまでの審理でわかっています。
 相談に対して今村氏は「福島沖でも大地震が起きることは否定できないので、考慮すべきだ」と答えていたと、この社員の議事録に記されています。
 この発言について、今村氏は、法廷で「国の機関の発表なので無視すべきではないから、検討は進めるべきという意味であり、直ちに対策をとるべきという意味ではなかった」と証言し、議事録は言葉足らずだと指摘しました。
 これまでの審理で被告側の元会長など3人は、「『長期評価』には専門家の間で異論があった」 として津波は予測できずすぐに対策に取り入れるほどのものではなかったと主張していて、今村氏の証言は被告側の主張に沿ったものとなりました。
 法廷は13日も開かれ、別の証人が証言します。


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