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心配ないままでの「常識」で作られた建造物 強震計の大増設でわかった驚愕の事実

 大地震の揺れが、以前知られていたよりもずっと大きいことが分かってきた。

 前回の高感度地震計とちがって今回は感度を下げた地震計の話をしよう。なぜ、そのようなものが必要なのだろう。わざわざ切れない包丁を用意するようなものだと思うだろうか。

 だが、これは大事な観測なのだ。高感度の地震計では、近くで大地震が起きたときには記録が振りきれて、地面の揺れを正確に記録することはできなくなってしまう。このために低感度の地震計「強震計(きょうしんけい)」が必要なのだ。

 それは地震の振動が、地面が1000分の1ミリも動かないような微小なものから、数十センチも動く大地震まで、とても大きな幅があるからである。大地震のときに地面がどのくらい揺れたかは、建物や建造物を造るときに大事な情報になる。

 阪神淡路大震災(1995年)以後、日本中で強震計が増やされた。いまでは全国に1000点もある。世界一の密度だ。この強震計が展開されたために、いままで知られていなかったことが分かってきた。

 そのひとつは、大地震のときの揺れが、それまで考えられてきたよりもはるかに大きいことがあることだった。

 地震が建物や建造物を揺するときには、地震の「加速度」に比例した力がかかる。具体的には、加速度の値に、そのものの重さを掛けただけの力がかかる。

 加速度の大きさはガルという単位で測る。980ガルというのが、地球の引力で、地球上すべてのものにかかっている重力である。ヤクルトのバレンティンが高々と打ち上げたボールが地面に返ってくるのも重力のせいだ。

 もし地震の揺れが980ガルを超えたら、地面にある岩が飛び上がることを意味する。建物にも、ダムや高速道路などの構造物にも大変な力がかかることになる。

 実は阪神淡路大震災の前には、地震学者の間でも、「まさか岩が飛び上がるほどの揺れはあるまい」というのが一般的な常識だった。

 しかし、その後に起きた大地震で日本中に展開された強震計の記録は、この常識を覆した。例えば新潟県中越地震(2004年)では2516ガルを記録したし、岩手・宮城内陸地震(08年)では岩手県一関市厳美(げんび)町祭畤(まつるべ)で4022ガルという大きな加速度を記録した。

 こうなると心配になってくるのが、いままでの「常識」で作られた建造物だ。たとえば原発はある限度以上の揺れはないとして設計されている。ある電力会社の原発のホームページには「将来起こりうる最強の地震動」として300−450ガル、「およそ現実的ではない地震動」として450−600ガルという値が載せてあった。

 福島の原発事故以来、このホームページは削除されてしまったが、この値で設計されていたことは確かなことだ。地震国に住む地震学者としては心配なことである。

 ■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。

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