【記事33430】原発再稼働と経済界 市民との溝、埋める努力を_報道部 三村智哉(京都新聞2014年3月19日)
 
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原発再稼働と経済界 市民との溝、埋める努力を_報道部 三村智哉

 原発再稼働に向けた原子力規制委員会の審査が佳境を迎えている。関西経済連合会や京都商工会議所など関西の主要な経済団体はそろって再稼働の必要性を主張しているが、原発立地周辺地域の住民や原発を不安視する市民への思いが欠けていると感じる。丁寧な議論がないまま再稼働が進めば、経済界と市民との溝が深まる可能性がある。
 「地球温暖化対策のためにも再稼働を」「きっちり安全を管理して運転再開すれば日本の原発の競争力が世界に認識される」。2月に京都市左京区の国立京都国際会館で開かれた関西財界セミナーで、出席した企業幹部らが口々に原発再稼働を求めた。
 昨年11月に関経連が再稼働の推進に向けて大阪市内で開いたシンポジウムでも、日立造船の古川実会長や大学教授らが、原発停止に伴う電力料金値上げの影響で、企業が設備投資を抑制したり、人件費を削減したりしていると報告した。
 関西電力も、八木誠社長が先月下旬の記者会見で「今夏の電力需給は原発が動かなければ大変厳しい」と語るなど、さまざまな機会を通じて再稼働を訴えている。
 しかし、これらの主張の中で、原発立地地域の周辺住民らへの思いが語られることはほとんどない。企業からは「規制委の審査が遅い」との不満の声も漏れるが、福島第1原発事故で原発は安全という神話が崩壊しただけに、その声を原発近くの住民が聞けば反発するだろう。
 さらに京都府や滋賀県の北部では原発事故に備えた避難準備がまだ万全ではない。そんな中で原発を動かせば地方の住民に大きな負担を強いるということを、都会で電力を大量消費する経済界は十分に理解していないと思う。
 ただ、経済界といってもすべての企業が再稼働を求めているわけでもない。京都中小企業家同友会は再稼働に「手放しで歓迎するわけにはいかない。安全性を第一に今後のエネルギー政策を検討すべき」と、賛否は示さず慎重な立場を取っている。事務局は「中小企業は地域に根ざしている。『経済性を命より優先できない』と再稼働に反対の声も多い」と明かす。
 安倍政権は、経済界の要望をくみ入れ、国民的な議論もなく、将来も原発を維持する方針を打ち出した。京都大の植田和弘教授(環境経済学)は「震災以降、エネルギー政策の決め方が問われている。経済界と市民が分断されないよう、共通の場で議論する仕組みを作るべきだ。それがエネルギー政策の信頼につながる」と指摘する。
 今後、規制委による原発の審査が進んでも、再稼働の是非は住民が納得するかにかかっている。経済界は「安価で安定した電力を」と国や電力会社に要望するだけでなく、市民との溝を埋める努力も進めるべきではないか。再稼働の議論を通じて、電力消費地のあり方も問われている。
[京都新聞 2014年3月19日掲載]

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