【記事40460】【即時停止の衝撃(上)】 呆然、動揺、混乱…“振り出し”に戻った関電…切り札失い値下げ困難(産経WEST2016年3月10日)
 
参照元
【即時停止の衝撃(上)】 呆然、動揺、混乱…“振り出し”に戻った関電…切り札失い値下げ困難

「稼働中の高浜発電所3号機を停止する」

 9日午後6時すぎ、大阪市北区の関西電力本店。関電高浜原子力発電所3、4号機(福井県)の運転差し止めの仮処分の決定を受けた記者会見で、関電原子燃料サイクル室の木島和夫部長は、こう宣言した。

 差し迫った事態に対応する仮処分は、異議申し立てで判断が覆るまで効力を持ち続けるため、とくに1月に再稼働したばかりの3号機の即時停止を迫られる。

 定期検査以外で計画停止するのは異例だ。ある大手電力幹部は「原発は稼働させてこそ、それぞれの機器がうまく回る」と指摘し、停止期間が長引いた原子炉をすぐに再び停止する負担の大きさを懸念する。

 関電はすぐに停止せず、10日午前10時に停止操作に入るが、木島部長は「このような結果が出たことで運転員が平常心でしっかり操作する準備が必要だと判断した」と打ち明けた。

 会見には、八木誠社長ら経営陣の姿はなく、部長ら5人が出席。4月に迫る電力小売り全面自由化や夏の電力需給への影響について質問が相次いだが、「精査中」「今後見極めたい」と繰り返し、関電が予想外の司法判断に混乱していることを浮き彫りにした。

   ■   ■

 高浜3、4号機の再稼働に関電は時間と労力をかけてきた。平成25年7月、東日本大震災後に設けられた新規制基準に基づく安全審査を申請したが、地震対策の前提となる揺れの想定をめぐり、規制委と見解が対立。より手厚い地震対策を求める規制委と議論が膠着(こうちゃく)して審査が長引き、適合と認められたのは昨年2月。半年程度を見込んだ審査が3倍の時間を要していた。

 新規制基準の「合格」で再稼働への手続きが加速すると期待された昨年4月、福井地裁が今回同様に高浜3、4号機の運転差し止めの仮処分を言い渡したことで再稼働が暗礁に乗り上げた。結局、福井地裁が昨年12月に関電の異議申し立てを認めたため再稼働の道が開け、今年1月に約4年ぶりの再稼働を果たした。

 苦労した末の再稼働だっただけに、今度は稼働中の原発を止めざるを得なくなったことに関電に衝撃が走った。パソコンでニュース速報を確認した関電幹部は「まさか1年前と同じ判断で振り出しに戻るとは…」と呆然(ぼうぜん)とつぶやいた。

   ■   ■

 「5月からの電気料金の値下げが極めて難しくなった」。この日の会見で、関電総合企画本部の谷原武部長は、こう語った。

 仮処分は、関西経済界に波紋を広げる。原発の稼働を前提にした関電の電気代の値下げをコスト削減要因と期待していた企業を直撃し、りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「仮処分から再稼働できるスケジュールも読めず、企業は経営戦略を立てにくい状況になった」と指摘する。

 国のエネルギー政策づくりに関わってきた東京工業大の柏木孝夫特命教授は警鐘を鳴らす。

 「原発稼働の是非は(裁判官のような)技術の素人では判断できない。専門家である規制委に一任する仕組みが必要だ」

     ◇

 司法判断で稼働中の原発が初めて停止することになった。電力会社やエネルギー政策への影響を探る。

KEY_WORD:TAKAHAMA_:大津地裁: