【記事73740】北海道震度7 発電所停止の連鎖 主力電源を直撃(毎日新聞2018年9月7日)
 
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北海道震度7 発電所停止の連鎖 主力電源を直撃

毎日新聞2018年9月7日 07時15分(最終更新 9月7日 07時15分)
 6日未明に発生した震度7の地震は、北海道全域が停電するという前代未聞の被害をもたらした。道内の主力電源として電力需要の半分以上を担っていた火力発電所が停止したことが原因で、インフラのもろさが露呈した。火山噴火で形成された地層は大きな揺れで大規模な土砂崩れを起こした。専門家は「余震もあり、今後も警戒が必要」と警鐘を鳴らす。

北電、需給調整できず

 「市民に迷惑をかけて申し訳ない。全ての電源が落ちるリスクは低いと考えていた」。北海道電力(北電)の真弓明彦社長は6日の記者会見でこう謝罪した。
 約260万戸が停電した1995年の阪神大震災を上回り、道内全域の約290万戸が停電した今回の大規模停電の原因は、電力需要の半分以上を担っていた苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所が停止し、電力の需給バランスが大きく崩れたことだった。
 北電や経済産業省などによると、地震発生当時の電力需要は約310万キロワットだった。道内の主な火力発電所6カ所のうち、苫東厚真の3基(発電能力165万キロワット)を含む4カ所の計6基が稼働していたが、地震の影響で苫東厚真の3基が緊急停止。
 供給量が一気に減り、「みこしを担いでいた人たちの半分が一斉に抜けたような状態」(北電東京支社の佐藤貞寿渉外・報道担当課長)になった。
 通常、発電量は需要と常に一致するよう自動調整されている。バランスが狂うと発電機の回転数が乱れ、発電機や工場の産業用機器などが故障するためだ。地震などの災害で一部の発電所が緊急停止しても、普段は他の発電所の供給量を増やして対応できるが、今回は他の発電所でカバーできる量を超えていた。
 このため、地震の影響を直接受けなかった発電所も需給バランスの乱れによる故障を避けるため、自動的に次々と緊急停止した。みこしの下に残った人が押しつぶされそうになり、危険を感じて次々とみこしを放り出して抜け出したような状況だったと言える。
 ただ、北電の担当者は「供給が減れば需要も減らす調整をすべきだったが、うまくいかず、被害が全域に広がってしまった可能性がある」と話す。東京電力は2011年3月11日の東日本大震災の際、福島第1原発の停止などによって供給力が下がったため、一部の地域を意図的に停電させることで需要量を減らして需給バランスを保ち、首都圏での大規模停電を避けたとされる。横浜国立大の大山力教授(電力システム工学)は「北電は需要量の調整に失敗したのではないか」と指摘する。
 北海道の電力は、道内最大の発電能力を持つ泊原発(207万キロワット)と苫東厚真で需要の多くをまかなってきた。しかし、泊原発は12年5月に定期検査のため運転を停止。今も原子力規制委員会の安全審査が続いており、再稼働していない。
 苫東厚真への依存度が高まっていたことも、今回の大規模停電の要因になった。北電は新たな主力電源の一つとして、北電初の液化天然ガス(LNG)火力の石狩湾新港発電所(170万キロワット、小樽市)に期待していたが、1号機の営業運転開始は来年2月の予定で、今回の災害には間に合わなかった。【金子淳、寺田剛】

電力融通の機能不全

 また、北海道と本州の間には、北海道のライフラインが孤立しないよう本州から電力を融通してもらう「北本連系線」があったが、機能しなかった。この連系線を使うには、直流で受け取った電気を交流に変換する必要があるが、変換装置を稼働させるために必要な電気が停電で用意できなかった。
 北電によると、仮に機能したとしても、本州から受け取り可能な電力は最大60万キロワット程度で、苫東厚真の穴を埋めるには足りなかったという。
 北電の真弓社長は道内全域で停電を招いた事態について「極めてレアケースだ」としつつも、「(苫東厚真の3基が同時停止することは)訓練のシナリオには入っていた」と釈明した。だが、経産省幹部は「3基全て停止することを想定した対策は取れていなかったと思う」と指摘した。
 現在は電力需要がピークを迎える冬場に備えて多くの発電所を止めて点検を行う時期でもあり「1年で最も需要が少なく、供給力が低下するきつい時に被災した」(東京大学生産技術研究所の荻本和彦特任教授)との指摘もある。
 北電は地震の影響を受けなかった火力発電所の再稼働を急ぐ。苫東厚真は蒸気漏れやタービンからの出火などがあり、再稼働には1週間以上を要する見通しだ。【岡田英、小川祐希】

透析患者へ対応必要

 厚生労働省によると、6日午後3時現在、北海道内の病院349カ所が停電した。この中には道内の災害拠点病院34カ所すべてが含まれるが、いずれも自家発電装置で対応しているという。水が使えない病院は62カ所に上った。
 停電の影響で、人工透析が行えなくなった医療機関も相次いでいる。日本透析医会の災害時情報ネットワークによると同日午後11時現在、少なくとも17施設で透析ができない状態になっている。同医会は、自家発電装置を使って透析が可能な施設に患者を振り分ける調整を進め、厚労省に、自家発電装置の燃料が不足しないよう対応を求めている。
 透析は間隔が3日以上空くと、腎機能が低下し、不整脈や心不全を起こして死に至る可能性がある。同医会の山川智之常務理事は「ここまで広域の停電は予想していなかった。もし長期化する場合、限られた施設だけで透析を続けるのは難しい」と指摘。広い北海道内の移動には時間がかかることを踏まえ、「本州などへ避難してもらうことも考える必要がある」と話す。日本透析医学会のまとめでは、北海道内の透析患者は約1万5000人。
 また、厚労省は在宅で人工呼吸器を利用している人の安否情報について、道内市町村や患者団体などを通して確認を進めている。
 被災者の救助については、災害派遣医療チーム(DMAT)が、震源地に近い苫小牧市などで活動している。加藤勝信厚労相は「人命救助を最優先し、DMATを最大限派遣する」と語った。また、日赤本社(東京都港区)は海上保安庁の協力を得て、被災地に先遣隊を派遣した。【五味香織】

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