【記事73530】電力から牛乳まで・・・「北海道地震」の巨大影響(東洋経済オンライン2018年9月6日)
 
参照元
電力から牛乳まで・・・「北海道地震」の巨大影響

2018/09/06 17:00
 9月6日、朝3時08分。北海道を過去最大の地震が襲った。気象庁の発表によれば、北海道胆振地方を震源とするマグニチュード6.7の地震で、厚真(あつま)町では最大震度7を観測した。厚真町では大規模な土砂崩れが発生している。新千歳空港のある千歳(ちとせ)市でも震度6弱を観測した。
 北海道の発表(15時00分時点)によれば、死者4人、心肺停止3人、重軽傷者293人、行方不明者は31人に上るという。

全域停電が起きた理由

 最大の影響を受けたのは電力だ。「北海道内すべてのお客様約295万戸が停電している」(北海道電力)。地震の影響によって道内の火力発電所すべてが緊急停止。今回震度7を観測した厚真町にある石炭火力発電所、苫東厚真(とまとうあつま)発電所の発電能力は165万キロワット(北電の火力発電全体で390万キロワット)と、道内最大の発電所だった。
 北電が公表した社長の会見要旨によれば、苫東厚真発電所の3つある発電機のうち、1号機と2号機で蒸気漏れを、4号機はタービン付近から出火を確認したため、設備の復旧には少なくとも1週間以上はかかる見通しという。
 「火力発電が止まったため、使用量と発電量のバランスが崩れ、周波数が乱れた」(北電)。使われている交流電気は1秒間に流れる方向が何十回も変化し、この回数を周波数(ヘルツ)と呼ぶ。
 通常、電力は顧客の需要にあわせて、発電量(供給)を調整している。その周波数が安定しないまま電気を送ると、受け取る側の機器が壊れてしまう可能性がある。
 今後、発電所の設備に影響がないかを確認したうえで、徐々に電力供給を増やし、受け取る側の設備に影響がないか、様子を見ながら復旧させるものと見られる。
 北電の会見要旨によれば、既存の発電所の再起動、本州側からの電力融通を行うことで290万キロワットを確保できるが、昨日のピーク需要は380万キロワットとなるため、電力不足は長引きそうだ。
 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各通信会社は、地震の影響による停電や伝送路の故障などの影響で、一部地域で携帯電話や光通信サービスが利用できない、利用しづらい状況が発生していると説明する。各社とも災害用伝言板サービスの提供を始めている。KDDIによれば、「詳細は把握できていないが、土砂災害や倒壊による基地局への影響もありそうだ」という。
 NTT東日本も北海道支店管内の一部地域で通信サービスが利用不可になっている。影響規模はアナログ電話約2.4万回線、ひかり電話約1万回線、光アクセスサービス約1.5万回線(午前11時30分現在)。電話線の断線が主要因で、停電影響も一部でている。復旧時期は未定だが、北海道全域に設置されている公衆電話5800台の無料化を実施している。

JRは全線で運転を見合わせ

 JR北海道は全道で在来線、新幹線ともに運転を見合わせ中。運転再開のメドは立っていない。北海道新幹線は新青森ー新函館北斗間で始発から運転できず、終日上下あわせて26本の運休を決めている。
 震源に近かった新千歳空港は6日の終日閉鎖を決めた。ターミナルビルの天井の崩落やスプリンクラーの配管からの水漏れが発生したほか、電力が足りないためだ。ただ、滑走路や誘導路、保安設備、通信設備には異常は見つかっていないという。
 女満別空港も14時より電力不足により閉館となった。一連の地震の影響を受け、日本航空は国内線104便(影響旅客数1万8520名)、全日本空輸も国内線132便(同2万4400名)の欠航を決めている。新千歳、女満別以外の空港はおおむね平常通り運航している。
 生産工場にも影響が出ている。主にトランスミッションを製造するトヨタ自動車北海道(苫小牧市)は操業中に地震があり停電したため、操業を停止。日中の操業も取りやめた。
 人的被害はなく、現在、建物や設備への被害状況を確認している。社員は自宅待機中。電力の復旧状況や部品の供給網の状況を踏まえて、再開できるか判断することになるが、現時点で再開時期のメドは立っていない。
 変速機やエンジン向けのアルミ部品を製造するアイシン精機の子会社、アイシン北海道(苫小牧市)も操業中に地震があり停電したため、操業を停止。69名の従業員にケガなどはなかった。日中の操業も取りやめている。従業員は管理職以外を帰宅させた。現時点で大きな被害の情報はない。
 新日鉄住金の室蘭製鉄所内にある、三菱製鋼室蘭特殊鋼の製鋼工場では地震による停電で冷却装置が止まり、連続鋳造設備の部品潤滑油が加熱して出火した。構内消防隊などの出動で7時過ぎに鎮圧、10時半に鎮火を確認した。
 同工場では電力回復後に復旧に取りかかる予定。設備の損傷は大規模ではなく、今のところ復旧作業は半日程度を想定している。そのほか地震による、建屋や生産設備の大きな損傷は確認されていない。

生活インフラへの影響は?

コンビニエンスストア大手のセブン-イレブン・ジャパンは道内で1005店舗を運営しているが、そのうち970店が停電。停電した店舗も一部営業しているが、休業店舗数の把握はできていない。664店舗を運営するローソンは約300店が休業。ファミリーマートは235店を運営しているが、ほぼ全店が停電。休業店舗数の把握はできていない。

今後大きな影響が出そうなのが食品関連、特に牛乳などの乳製品だ。

 北海道の釧路と茨城県の日立をピストン輸送する大型貨物船「ほくれん丸」は今夜、釧路を出港予定。ただ、積み込みができたミルクタンクは5日集荷した分のみ。6日は集荷ができないでいた。7日以降、集荷できるかどうかは未定。生乳は日立港に着くと、関東地方の乳業メーカーの工場で殺菌処理されて牛乳になる。生乳は搾ってから3日目には乳業メーカーに届ける必要がある。
 北海道で生産される生乳のうち、1割超は道外に輸送されており、その主力はほくれん丸だ。ピーク時には1日100万リットル、1リットルの牛乳で100万本を運ぶ。9月は学校給食が再開するため、生乳の需要も増える。
 停電により酪農家が搾乳できないうえ、生乳を各酪農家で冷蔵することもできない。酪農家の冷蔵タンクには1〜2日分は保存できるが、電気がなければ冷やせない。自家発電で電気を確保している酪農家もあるようだ。
 搾乳は1日2回する必要があり、停電が続き搾乳できない状態が続くと、乳牛の健康状態が懸念される。酪農家から集めた生乳は、船に乗せる前に専用の冷蔵設備であらかじめ冷やしておく必要があるが、そのためにも電気の本格復旧が欠かせない。
 明治は北海道にある7工場で停電のため生産を停止中。十勝帯広工場は閉鎖予定のためそもそも動いていなかった。「詳しい状況はわからないが、生乳の受け入れが出来ない状況。通電して状況を確認しないと、今後の見通しはわからない」(広報)。
 雪印メグミルクも、北海道にある7工場は停電のためすべて停止している。いずれの施設も建屋の崩壊などの被害はない。復旧はいつになるかわからず、生産への影響の度合いも見通せていない。首都圏の工場では北海道産の生乳も使っているが、当面はバター・チーズなどの加工品向けより、飲用向けに優先的に振り向ける方針だ。
 突如起きた巨大地震。日常の生活を取り戻すには時間がかかりそうだ。

KEY_WORD:IBURIHIGASHI_: