【記事17947】警固(けご)断層帯の長期評価について(地震調査委員会2007年3月19日)
 
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警固(けご)断層帯の長期評価について

 地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
 地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、平成17年4月までに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。
 その後、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月30日 地震調査研究推進本部)の中で、新たに基盤的調査観測の対象とすべき12の活断層帯が挙げられた。
 今回、このうち警固断層帯について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。
 評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。

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平成19年3月19日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

警固断層帯の評価

 警固(けご)断層帯は、玄界灘から博多湾を経て、福岡平野にかけてほぼ北西−南東に分布する活断層帯である。2005年の福岡県西方沖の地震は、従来からその存在が認められていた陸域の警固断層の、北西延長上の玄界灘で発生した。この地震の余震域と警固断層は、直線上にほぼ連続していることから、一連の活断層帯であると考え、これらをまとめて警固断層帯として扱った。ここでは、平成7年度に福岡県によって行われた調査や、2005年の地震活動に関する報告をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

 警固断層帯は、福岡市東区志賀島北西沖の玄界灘から博多湾、同市中央区、同市南区、春日市、大野城市、太宰府市を経て、筑紫野市に至る断層帯である。断層帯の長さは55km程度で、概ね北西−南東方向に延びる。警固断層帯は、過去の活動時期の違いから、玄界灘から志賀島付近にかけての2005年の福岡県西方沖の地震の震源域にあたる北西部と、志賀島南方沖の博多湾から筑紫野市の警固断層にあたる南東部に区分される。警固断層帯は、断層帯北西部、断層帯南東部ともに左横ずれを主体とし、断層帯南東部では南西側隆起成分の縦ずれを伴う(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動
 警固断層帯北西部の最新の活動は、2005年の福岡県西方沖の地震(マグニチュード7.0)である(表1)。この地震以前の活動履歴は不明である。
 警固断層帯南東部の最新活動時期は、約4千3百年前以後、約3千4百年前以前であった可能性がある。また、平均活動間隔は、約3千1百−5千5百年の可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

 警固断層帯は、過去の活動と同様に北西部と南東部の2つの区間に分かれて活動すると推定される(表1)。
 警固断層帯北西部ではマグニチュード7.0程度の地震が発生し、その際には2m程度の左横ずれが生じると推定される(表1)。警固断層帯北西部は、平均活動間隔などが明らかでないため、将来このような地震が発生する長期確率を求めることができない。ただし、断層帯北西部の最新活動が2005年福岡県西方沖の地震であったことを考慮すると、我が国の主な活断層の平均的な活動間隔と比べ非常に短い時間しか経過していないことから、断層帯北西部でごく近い将来に今回評価したような地震が発生する可能性は低いと考えられる。
 警固断層帯南東部ではマグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定され、その際には断層近傍の地表面で、2m程度の左横ずれが生じる可能性がある(表1)。断層帯南東部の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の確率には幅があるが、その最大値をとると、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる(注1、2)。
 なお、断層帯北西部の2005年の活動により、断層帯南東部で地震が発生する可能性は、より高くなっているという指摘もあり、そのことに留意する必要がある。
 また、遠い将来においては警固断層帯全体が同時に活動する可能性も否定できない。この場合の地震の規模は、マグニチュード7.7程度となる。ただし、現時点でこのような地震の発生する確率は低いと考えられる。

4.今後に向けて

 本評価では、2005年の福岡県西方沖の地震の震源域である断層帯北西部と、警固断層にあたる断層帯南東部の、2つの活動区間について評価した。
 このうち、断層帯北西部の2005年の活動は、地震の発震機構解や断層帯北西部と断層帯南東部の断層の位置関係などから、断層帯南東部の活動を促進する要素を持っており、断層帯南東部において、ここで評価したような地震が発生する可能性が、上述の評価よりも高くなっているという指摘がある。周辺で発生した地震による影響を定量的に見積もるための研究も行われており、今後、このような研究を進めると共に、その成果を長期評価に反映させる手法についても検討を行っていく必要がある。
 また断層帯北西部で発生した2005年の福岡県西方沖の地震は、これまでに活断層が確認されていなかった場所で発生した地震である。地震後の調査においても、震源域付近の海底面に活断層の証拠となる明瞭なずれや段差などは検出されていない。この要因として、海域であることによる調査の困難さに加え、縦ずれ成分の少ない横ずれ断層においては音波探査によって地形や地質のずれを検出することが困難であることが考えられる。
 その一方で、警固断層帯周辺には海域も含めて、本断層帯と同様に北西−南東方向の走向を持つ左横ずれ断層の存在も知られていた。それらはこの地域の応力場を概ね反映した断層であり、2005年の地震の発生にもそのような地学的な背景があったと推測される。ただし、このような条件の下では、上述のような調査の困難さにより、活断層が確認されていない場合でも2005年のような地震が発生する可能性があることにも留意する必要がある。今後、このような場所の活断層に対する調査や評価の方法を検討すると共に、分解能の高い調査手法の開発も必要である。
 警固断層帯南東部に関しては、さらに活動時期と発生確率を絞り込むと共に、主たるずれの向きである横ずれ成分の平均的なずれの速度などを精度よく求めることが必要である。また断層は市街地を通っていると推定されることから、その位置や形状などの精度を高める必要がある。
(後略)

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