【記事19293】岩手・宮城内陸地震から1年 警戒活断層を倍以上に 覆された従来の常識 複数の物差しで迫る 上空ルポ 新緑の間に残るつめ跡(朝日新聞2009年6月12日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 大地震につながる恐れがあるとして、特に警戒中の活断層を、いまの110カ所から倍以上に増やそうという動きが進んでいる。個所を選定している政府の地震調査委員会が、選ぶ基準を大きく見直そうとしているからだ。後押ししたのは、1年前の岩手・宮城内陸地震だ。
 政府が活断層の調査に本腰を入れたのは、活断層によって引き起こされた95年の阪神大震災がきっかけだった。
 地面や岩盤がずれているところが断層で、断層がずれると地震が起きる。そのなかで、ここ数10万年という地質学では新しい時代に活動し、その跡が地表に残る断層が「活断層」と呼ばれる。今後も繰り返し活動すると考えられている。航空写真を使った判読により、国内では約2000カ所見つかっている。
 活断層が起こす地震の規模(マグニチュード=M)は過去の経験から、地表に残っている跡が長いほど大きくなると考えられている。約20キロならM7、約80キロならM8と予測される計算式が使われる。
 阪神大震災後に発足した政府の地震調査委は97年、地震の研究が防災に生かされていなかった反省から、特に警戒が必要な活断層として長さ20キロ以上ある98カ所(05年に12追加)を選んだ。地下調査などを実施し、将来の大地震発生の確率をはじき出した。
 ところが、00年の鳥取県西部、04年の新潟県中越、07年の新潟県中越沖と、大地震を想定しなかった断層でM7前後の地震が相次いだ。「短い活断層で大きな地震は起きない」という従来の常識は覆されてしまった。
 しかも、岩手・宮城地震を起こした断層は、そもそも活断層と位置づけられてもいなかった。「20キロ以上」という物差しだけで活断層を評価することは限界に来ていた。
 調査委は評価手法の見直しをするため、05年に地震や地質、防災などの専門家11人で検討会を発足させたが、岩手・宮城地震の発生が議論を加速させた。
 何キロで区切るか、まだ結論は出ていないが、地表に現れているのが20キロ以下の活断層も新たに対象に加える方針がまとまっている。地表に見えているのは一部だけで、地下に大きな本体が隠れている可能性があるためだ。「10キロ以上」まで範囲を広げると、対象は約300カ所に増える。
 検討会検討会のメンバーでもある東京大地震研究所の佐藤比呂志教授(構造地眞学)らは、岩手・宮城地震前後の06〜08年に、震源近くで地下構造や余震の調査をした。その結果、奥羽山脈のふもとの地下に震源の断層とみられる面が広がっていた。
 「航空写真で活断層が見えなくても、地形や地質の構造から判断できる場合もある」と佐藤教授は主張する。
 検討会は今後、航空写真から読み取るだけでなく、体には感じない微小地震の分布や、地質構造などの複数の「物差し」で活断層の「正体」を見極める手法に切り替える方針だ。
 新たな評価手法は09年度中にとりまとめることにしている。今後は新基準に沿って警戒が必要な活断層が選ばれ、地元の都道府県などの防災計画を改める必要も出てくる。
 ただ、評価手法が見直されても、想定外の地震は常に襲ってくるし、地中に潜む断層をすべて洗い出すこともできない。活断層以外で起きる地震もある。
 こうした課題を抱えながらも、検討会トップの島崎邦彦・元東大地震研究所教授は「これまでよりは実態に近い評価が可能になる。新しい評価方法がまとまれば、一般の人も地震をもっと身近な問題ととらえてくれるのではないか」と話している。(後略)

KEY_WORD:IWATEMIYAGI_:地震調査委員会:HANSHIN_:TOTTORI_:CHUUETSU_:CHUETSUOKI_:東京大地震研究所の佐藤比呂志教授:島崎邦彦・元東大地震研究所教授:東京電機大の安田進教授:台湾大地震:四川大地震: