[2018_10_30_03]安易な「海洋放出」ではなく、根本的な技術開発を(ニュースソクラ2018年10月30日)
 
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安易な「海洋放出」ではなく、根本的な技術開発を

【緑の最前線(60)】東電福島原発の汚染水処理 1日100トン、出口見えず
 増え続ける東京電力福島第一原発の汚染水をどう処理すべきか、はっきりした道筋がみえないまま時間ばかりが過ぎ混迷の度を深めている。福島第一原発では、事故で核燃料が原子炉格納容器内に溶け落ちてしまった。溶融燃料を冷やすため、毎日原子炉内に放水しており、放射性物質に汚染された水(汚染水)が地下にたまり続けている。そこに地下水が流れ込む。地下水が建屋に流れ込む前に井戸で汲み上げたり、凍土壁で囲うなどの対策を講じているが、完全とはいかず1日に100トン前後の汚染水が発生している。
 汚染水は原発敷地内のタンクに移して保管されているが、その数が900基を超え、徐々に用地が不足してきている。政府(経済産業省)は2020年頃には限界になるとみている。2011年3月の事故以来、7年間たまり続けた汚染水はタンクで保管してきたが、具体的な処理対策を先送りしてきたため、いよいよ限界が近づいている。
 汚染水は多核種除去設備(ALPS=アルプス)という浄化装置で処理した後、タンクに保管されている。セシウムやストロンチウムなどの放射性物質の大半は取り除けるが、トリチウム(三重水素)だけは取り除けず処理された水の中に残ってしまう。これがトリチウム水だ。トリチウムは空気中の水蒸気や雨水、海水などに微量に存在している。水の一部として存在しているため、トリチウムだけを分離する技術はまだ実用化されていない。全国の原発は運転中に発生するトリチウムは法定基準に従って海に流している。フランスやカナダなど海外の原子力施設も海に放出している。
 体内に入ったトリチウムは水の一部として存在するため、対外に排出されやすく体内に濃縮することはないと多くの専門家は指摘している。原子力規制委員会の更田豊志委員長も「科学的には、基準を守って海洋放出すれば問題はないと考えられる」と述べている。
 経産省のトリチウム水の処分法を評価する専門部会では2016年に報告書をまとめた。その中で、海洋への放出、深い地層への注入、水蒸気として大気中に放出など5つの方法について検討し、薄めて海洋に放出するのが最も安く、短期間で処理できると結論付けた。
 しかし、海洋放出については、風評被害を恐れる地元福島からの強い反発がある。いまだに福島産の食品の輸入を禁止する国々がある中で、地元の農民や漁民は辛抱強く「汚染されていない福島産品」を世界に訴えてきた。ここでトリチウムを海に流されては、風評被害が一気に世界中に広がりこれまでの努力が水泡に帰してしまうと懸念している。
 海洋放出を推進したい政府は8月下旬、福島県富岡町、郡山市、東京都内の3カ所で汚染水の処分方法について国民の声を聞く公聴会を開いた。公募で選ばれた人々のほとんどが海洋放出に反対した。地元福島の漁業関係者は「試験操業で積み上げてきた県水産物への安心感をないがしろにしている」と怒りを述べた。
 しかも最近になって汚染水の中にトリチウム以外の放射性物質がふくまれているというショッキングな事実が判明した。東電は9月下旬、敷地内のタンクに貯蔵されている浄化済みの約89万トンを調べたところ、8割に当たる約75万トンから最大、基準値の2万倍に当たるストロンチウム90が検出されたと発表した。貯蔵タンクの安全性が根底から覆ってしまい、汚染水対策は八方ふさがりの状態に陥ってしまった。
 浄化済みの汚染水にトリチウム以外の放射性物質が含まれていたことについて東電は、初期のALPSには不具合や性能不足があったこと、できるだけ長時間、ALPSを稼働させようと放射性物質を取り除く吸着剤の交換頻度を少なくした、などを原因として指摘している。時間と費用がかかっても、安全第一で疑いのある汚染水には再度ALPSを稼働して放射性物質を除去すべきだろう。

 それでも残るトリチウム対策はどうすべきだろうか。

 「時間をかけて説得すれば、最後は地元が折れ、海洋放出に持ち込める」などといった安易な考え方とこの際きっぱり決別し、政府はトリチウム除去の技術開発に本気で取り組むべきだ。現状では実用化は難しいが技術的に可能な技術なので、しかるべき懸賞金を出して広く国内外の科学者、専門家に実用化技術の開発を呼びかけて見たらどうか。
■三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

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