[2016_04_22_05]「新幹線の脱線対策は十分か」(時論公論) 中村幸司 解説委員(NHKオンライン2016年4月22日) |
参照元
新幹線の脱線対策は十分なのでしょうか。 2016年4月14日の地震で、九州新幹線が脱線しました。 2004年の新潟県中越地震で上越新幹線が脱線して以来、JR各社は脱線対策を進めてきていますが、今回、防ぐことができませんでした。 大惨事になりかねない新幹線の脱線について、 ▽今回、なぜ脱線を防ぐことができなかったのか、 ▽九州新幹線以外の新幹線の脱線対策はどのようになっているのか、 ▽今後、新幹線の脱線対策に何が求められるのか、 こうしたポイントを考えます。 6両編成の九州新幹線が、熊本駅を出発し、時速80キロで走行中に、地震に遭遇し、脱線しました。回送列車で乗客は乗っておらず、運転士にけがはありませんでした。地震が起きたのは、午後9時26分で走行中の新幹線は他にもありましたが、脱線したのは、震源に近いところを走行していたこの列車だけでした。 九州新幹線ではどのような脱線対策をしていたのか、みてみます。 ▽高架橋など、構造物の耐震性の向上 ▽地震のとき列車にブレーキをかける「早期地震検知システム」 ▽脱線などを防ぐ装置の整備です。 では、そうした対策が機能したのでしょうか。 まず、高架橋などの耐震化。 新幹線の高架橋は、阪神・淡路大震災で大きく壊れた教訓から、高い耐震性が要求されています。線路を支える高架橋が地震に強いことは、脱線を防ぐ大前提とも言える対策です。 今回の地震では、脱線を引き起こすような被害は見つかっておらず、対策は機能したと考えられます。 「早期地震検知システム」は、地震の初期の小さな揺れを検知して、列車に非常ブレーキをかけるというものです。 大きな揺れが来るまでに止める、あるいは少しでもスピードを落とそうというシステムです。東日本大震災のように震源が離れている時には、小さな揺れと大きな揺れが到達する時間差が大きく、威力を発揮します。 しかし、今回のような直下型地震では、小さな揺れと、ほぼ同時に大きな揺れがくるのでブレーキが間に合いません。直下型地震には、このシステムは有効ではありません。 そうなると脱線防止装置がカギを握ります。 九州新幹線には、レールの間に脱線防止ガードを設置しています。 片方の車輪がレールに乗り上げても、反対の車輪が、このガードにひっかかって脱線を防ぎます。 しかし、脱線した新幹線が走っていた場所に、このガードは取り付けてありませんでした。 なぜ、ガードがなかったのでしょうか。 JR九州によりますと、脱線防止ガードを取り付けているのは、熊本駅の北にある2つの断層の周辺10キロと鹿児島県内の1つの断層の周辺14キロです。 全線は256キロですから、その9%です。 その他の地点は ▽断層が新幹線と交差していない ▽「活断層であることが確実」と評価されていない といった理由で、脱線防止ガードの取り付けが見送られているということです。 こうして脱線防止装置の対策も機能しませんでした。 揺れが強かった一方で、対策が働かなかったことが、脱線につながったと考えられます。 では、他の新幹線の対策はどのようになっているのでしょうか。新幹線の脱線対策は、一律ではなく、JR各社の判断で行われています。 東海道新幹線は、九州新幹線と基本的に同じ対策です。ただ、脱線防止ガードの設置場所を決める考え方は違います。 現在進めているのは、 ▽東海地震の対策として、三島−豊橋間の全線、 ▽大きな被害が考えられるポイントやトンネル、橋の手前です。 平成31年度までに1300億円余りかけて設置する予定です。 東海道と九州以外の新幹線は、脱線防止ガードは採用していません。その代わり、仮に脱線した場合でも、車両が大きく線路からはずれないようにする「逸脱防止装置」を設置しています。 図にある逸脱防止装置はその一例で、車両に取り付けたガイドが線路に引っ掛かるようにして逸脱を防ぎます。 脱線防止装置も、逸脱防止装置も、レール側に特別な設備を取り付けることが必要です。そうしたレール側の対策がどれくらい完了しているのか、新幹線ごとに示したのが、この図です。 開業前から対策ができた北海道新幹線は、ほぼ全線で完了していますが、2015年、金沢まで延伸した北陸新幹線でも3分の2、その他は、35%以下にとどまっています。 関係者からは、新幹線を運行しながらの対策工事は、終電と始発の間の限られた時間に行う必要がある上、人手や費用がかかることもあって、一定の限界があるといった声が聞かれます。 しかし、特に直下型地震の脱線対策として、脱線や逸脱の防止装置の効果が期待される中で、今の対策の進め方で十分とはいえません。 それでは、今後、どのような対策が求められるでしょうか。 過去の震災を見てみますと、 ▽高架橋が壊れた「阪神・淡路大震災」は新幹線の始発前の発生でした。 ▽新幹線が脱線した「中越地震」では、車両の一部が線路に挟まったため、大きく逸脱することはありませんでした。 ▽「東日本大震災」では、早期地震検知システムが作動し、大きな揺れの来る前に非常ブレーキをかけることができました。 ▽そして今回の地震、 いずれも、乗客・乗務員の死傷者を出していません。しかし、一部区間では時速300キロ前後で走る新幹線の脱線は、取り返しのつかない大惨事につながることを考えれば、地震の多い日本で、対策はまったなしのはずです。 脱線対策の重要性は、12年前の中越地震のときにも出されていました。 この事故の調査報告書では、「列車が震源の近くで大きな地震に遭遇した場合、脱線を完全に防ぐことは困難だ」としています。そのうえで、事故調査委員会は脱線防止装置や逸脱防止装置の必要性を指摘しています。 この事故の直後から、国土交通省とJR各社などは、協議会を作って、新幹線の脱線対策の検討を始め、協議会は現在も続いています。 その中で、JR各社は数年後までに行う対策を明らかにしたうえで、「それで終えるのではなく、脱線対策は引き続きを進める」と話しています。 そうであれば、いつごろまでに、どんな脱線対策を実施するのかという中長期的な目標をたて、それに向けて毎年、どこまで対策を進めるかという計画を示すことが必要だと思いますが、JR各社はそうはしていません。 対策が行われていない区間が、多く残されているのは、なぜなのか。 それは、脱線対策をどう位置づけるのか、その優先順位が低いことに他ならないのではないでしょうか。 新幹線は、九州、北陸、北海道と、日本列島の広い地域に延びています。それだけ地震が起きれば、近くに新幹線が高速で走っているというリスクは、高まっています。 どこで起こるかわからない直下型地震。 それに対する備えが十分できていなかったことを、あらためて認識し、脱線に関する安全性を新幹線全線で高めるという対策を進めなければなりません。 (中村 幸司 解説委員) |
KEY_WORD:CHUUETSU_:KUMAMOTO-HONSHIN_:HANSHIN_: |