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関西電力高浜原発の運転を大津地裁が差し止める 高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 大津地裁(山本善彦裁判長)は3月9日関電に高浜原発3、4号機の運転停止を命じた。その主な論拠は次の通りである。

1.主張立証責任の所在について−関西電力が主張及び疎明を尽くすべき

 関西電力において,依拠した根拠,資料等を明らかにすべきであり,その主張及び疎明が尽くされない場合には,電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認される。
 福島第一原子力発電所事故を踏まえ,原子力規制行政に大幅な改変が加えられた後の事案であるから,関電は事故を踏まえ,原子力規制行政がどのように変化し,その結果,本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され,この要請にどのように応えたかについて,主張及び疎明を尽くすべきである。

2.過酷事故対策について

 現時点において,(過酷事故対策は)津波対策に限られており他の要素の対策は全て検討し尽くされたのかは不明であり,それら検討すべき要素についてはいずれも審査基準に反映されており,かつ基準内容についても不明確な点がないことについて債務者において主張及び疎明がなされるべきである。
 債務者の保全段階における主張及び疎明の程度では,新規制基準及び本件各原発に係る設置変更許可が,直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない。
 新規制基準において,新たに義務化された原発施設内での補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことが相当の根拠,資料に基づいて疎明されたとはいい難い。
 現時点で,使用済み燃料ピットの崩壊時の漏水速度を検討した資料であるとか,冷却水の注入速度が崩壊時の漏水速度との関係で十分であると認めるに足りる資料は提出されていない。

3.耐震性能について

 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動を検討する方法自体は,従前の規制から引き続いて採用されている方法であるが,これを主たる考慮要素とするのであれば,現在の科学的知見の到達点として,ある地点(敷地)に影響を及ぼす地震を発生させる可能性がある断層の存在が相当程度確実に知られていることが前提となる。
 本件各原発付近の既知の活断層の15個のうち,FO−A−FO−B−熊川断層及び上林川断層を最も危険なものとして取り上げ,かつこれらの断層については,その評価において,原子力規制委員会における審査の過程を踏まえ,連動の可能性を高めに,又は断層の長さを長めに設定したとする。
 しかしながら,債務者の調査が海底を含む周辺領域全てにおいて徹底的に行われたわけではなく(地質内部の調査を外部から徹底的に行ったと評価することは難しい。),それが現段階の科学技術力では最大限の調査であったとすれば,その調査の結果によっても,断層が連動して動く可能性を否定できず,あるいは末端を確定的に定められなかったのであるから,このような評価(連動想定,長め想定)をしたからといって,安全余裕をとったといえるものではない。
 関西電力は応答スペクトルの策定過程において耐専式を用い,近年の内陸地殻内地震に関して,耐専スペクトルと実際の観測記録の乖離は,それぞれの地震の特性によるものであると主張するが,そのような乖離が存在するのであれば,耐専式の与える応答スペクトルが予測される応答スペクトルの最大値に近いものであることを裏付けることができているのか,疑問が残るところである。

4.津波に対する安全性能について

 新規制基準の下,特に具体的に問題とすべきは,西暦1586年の天正地震に関する事項の記載された古文書に若狭に大津波が押し寄せ多くの人が死亡した旨の記載があるように,この地震の震源が海底であったか否かである点であるが,確かに,これが確実に海底であったとまで考えるべき資料はない。しかしながら,海岸から500mほど内陸で津波堆積物を確認したとの報告もみられ,債務者が行った津波堆積物調査や,ボーリング調査の結果によって,大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか,疑問なしとしない。

5.テロ対策について

 大規模テロ攻撃に対して本件各原発が有効な対抗策を有しているといえるかは判然としないが,これについては,新規制基準によって対応すべき範疇を超えるというべき。

6.避難計画について

 過酷事故を経た現時点においては,そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。このような状況を踏まえるならば,債務者には,万一の事故発生時の責任は誰が負うのかを明瞭にするとともに,新規制基準を満たせば十分とするだけでなく,その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり,その点に不合理な点がないかを相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思料する。
 しかるに,保全の段階においては,同主張及び疎明は尽くされていない。

7.差し止めの必要性

 本件各原発は一般的な危険性を有することに加え,東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所事故という,原子力発電所の危険性を実際に体験した現段階においては,債務者において本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され,それにどう応えたかの主張及び疎明が尽くされない限りは,本件各原発の運転によって債務者らの人格権が侵害されるおそれがあることについて一応の疎明がなされたものと考えるべきところ,本件各原発については,福島第一原子力発電所事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や,外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点,耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり,津波対策や避難計画についても疑問が残るなど,債権者らの人格権が侵害されるおそれが高いにもかかわらず,その安全性が確保されていることについて,債務者が主張及び疎明を尽くしていない部分があることからすれば,被保全権利は存在すると認める。
 本件各原発のうち3号機は,平成28年1月29日に再稼働し,4号機も,同年2月26日に再稼働したから,保全の必要性が認められる。
 以上の次第で,債権者らの申立てによる保全命令は認められることになるところ,債権者らの主張内容及び事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。

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