戻る <<前 【記事36315】福井地裁_大飯原発3、4号機運転差止請求事件_第19準備書_大飯原発は地震動評価を著しく過小評価していた(福井地裁_大飯原発3、4号機運転差止請求事件_第19準備書2014年3月25日) 次>> 戻る
KEY_WORD:高浜原発運転差し止め仮処分:
 
(引用者注) 大飯原発は地震動評価を著しく過小評価していた
※高浜原発差し止め仮処分より前にあった大飯原発運転差し止めの準備書である。参考までに引用する。

参照元  PDF形式 8ページ

福井地方裁判所御中
平成24年(ワ)第394号、平成25年(ワ)第63号
大飯原発3、4号機運転差止請求事件
原告松田正外188名
被告関西電力株式会社

第19準備書面
平成26年3月25日
原告ら訴訟代理人弁護士  佐藤辰弥
同上             笠原一浩

 原告らは、本書面において、裁判所からの求釈明のうち、被告は現在も、過去に基準地震動を超える地震動に見舞われた原発と同様の方法で基準地震動の策定をしているのではないか、という点につき述べるものである。

第1 原子力発電所における従前の地震動想定は、著しい過小評価であったこと

1 原発の基準地震動について
 原発の耐震設計は、基準地震動(S1、S2、Ss)を基礎として行われる。基準地震動は、その後のすべての設計の基本となるものであって、基準地震動の想定を誤れば、原発の耐震安全性は確保されない。
 基準地震動は、全国一律に定められているものではなく、原子力安全委員会の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」に基づき、各電力事業者が策定してきた。
 耐震設計審査指針は、平成18年(2006年)9月に大きく改定された。この改訂の契機となったのは、1995年の兵庫県南部地震と2000年の鳥取県西部地震である。特に、2000年鳥取県西部地震では地表に現れていた断層から想定される地震動を上回る地震動が観測されたことが直接の契機となり、原子力安全委員会は2001年から耐震設計審査指針の見直し作業を始めた。この作業は難航を極め、最新の地震学の知見などを盛り込んだ新耐震設計審査指針が定められたのは2006年9月であった(以下2006年に見直された耐震設計審査指針を「新耐震指針」といい、これ以前のものを「旧耐震指針」という)。
 旧耐震指針では、基準地震動はS1とS2の二つに分けられており、以下のとおり定義される。
 S1(設計用最強地震):「歴史的資料から過去において敷地またはその近傍に影響を与えたと考えられる地震が再び起こり、敷地およびその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震および近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいもの」
 S2(設計用限界地震):「地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について、過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質および地震地体構造に基づき工学的見地からの検討に加え、最も影響の大きいもの」

 これに対して、新耐震指針における基準地震動Ssは、以下のとおり定義される。
「施設の耐震設計において基準とする地震動で,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学および地震工学的見地から,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」

 これらの基準地震動は、解放基盤表面において設定される。解放基盤表面は、以下のとおり定義される。
 「基準地震動を策定するために,基盤面上の表層や構造物が無いものとして仮想的に設定する自由表面であって著しい高低差がなく,ほぼ水平で相当な拡がりを持って想定される基盤の表面。ここでいう「基盤」とは,概ねせん断波速度Vs=700m/s以上の硬質地盤であって,著しい風化を受けていないもの」

2 国会事故調報告書(甲1)の指摘
 国会事故調報告書(甲1)は、原子力発電所における従前の地震動想定について、次のとおり指摘している(193頁)。
 「我が国においては、観測された最大地震加速度が設計地震加速度を超過する事例が、今般の東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発と女川原発における2ケースも含めると、平成17(2005)年以降に確認されただけでも5ケースに及んでいる。このような超過頻度は異常であり、例えば、超過頻度を1万年に1回未満として設定している欧州主要国と比べても、著しく非保守的である実態を示唆している。」

 この指摘は、ようするに、原子力発電所における従前の地震動想定は、10年間で5ケースも誤ったということである。
 ここで、平成17年(2005年)以降に確認された5ケースとは、以下の5つを指す。

(1) 平成17年(2005年)8月16日宮城県沖地震における女川原発のケース
 平成17年(2005年)8月16日に発生した宮城県沖地震は、北緯38度9.0分、東経142度16.7分の宮城県沖を震源とするM7.2の地震である。
 この地震の際、東北電力女川原発で観測された地震動は、南北方向では基礎盤上で316ガルを記録した(甲34「今回の地震による女川原子力発電所第1号機の建屋の耐震安全性評価結果について」
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60720c06j.pdf)。
 当時の女川原発の設計用最大地震動は、S1(設計用最強地震)が250ガル、S2(設計用限界地震)が375ガルであった。
 しかも、この地震の規模は、当時想定されていた地震(M7.5)の3分の1の規模に過ぎなかった。
 国内の原発で、基準地震動を上回る地震動が確認されたのは、このケースが初めてであった。

(2) 平成19年(2007年)3月25日能登半島沖地震
 平成19年(2007年)3月25日発生した能登半島沖地震は、能登半島沖(北緯37度13.2分,東経136度41.1分)で発生したマグニチュード(Mj)6.9,震源深さ11キロメートルの地震である。
 この地震の際、北陸電力志賀原発1号機及び2号機において、基準地震動(応答)を超過した(甲37「能登半島地震を踏まえた志賀原子力発電所の耐震安全性確認について」5頁及び8頁
http://www.rikuden.co.jp/press/attach/07041902.pdf。
 志賀原発の設計用地震動の最大加速度は1・2号炉ともS1が375Gal,S2が490Galであった。

(3) 平成19年(2007年)7月16日新潟県中越沖地震
 平成19年(2007年)7月16日に発生した新潟県中越沖地震は、新潟県中越沖で発生したマグニチュード6.8の地震である。
 この地震の際、東京電力柏崎・刈羽原発で観測された地震動は最大1699ガルであった(甲38「柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性向上の取り組み状況」http://www.tepco.co.jp/company/corp-com/annai/shiryou/report/bknumber/0806/pdf/ts080601-j.pdf)。
 柏崎・刈羽原発の設計用地震動の最大加速度は、S1が300ガル、S2が450ガルであった。中越沖地震では、この約4倍(1号機解放基盤面で1699ガル・S2の約4倍)の地震動が観測された。中越沖地震はM6.8と地震規模はそれほど大きくなく、震源深さ17qとそれほど浅い地震でもないのに、旧指針の限界地震の想定を約4倍も超える地震動が発生した。
 そして、これによって、柏崎・刈羽原発に本格的な被害が発生した。柏崎・刈羽原発5号機においては,燃料集合体の一つが燃料支持金具から外れていた。また、同7号機の点検作業中に制御棒205本のうちの1本が引き抜けなくなる異常が見つかった。東京電力は、「地震の影響が何らかの形で発生したと思う」と説明している。同6号機でも,制御棒2本が一時引き抜けなくなった。引き抜けなかった制御棒については,詳細な点検が行われたが原因は明らかになっていない。同5号機では,炉内の水を循環させるために,原子炉圧力容器内の壁に沿って20本設置されているジェットポンプの振動を抑えるためのくさび形金具が,水平方向に4cmずれているのが見つかった。これらを含め、この地震の結果、柏崎・刈羽原発は約3000箇所で故障が生じた。
 原子力安全委員会、原子力安全・保安院や原子力事業者は、中越沖地震がSsを大きく上回る地震動を観測したことを受け、短周期地震動を1.5倍として、機器・配管の健全性が保たれるかの確認を、原子力事業者に求めた。しかし、これは、単なる弥縫策でしかなかった。

(4) 平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震における福島第一原発のケース
 平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード9の大地震である。
 この地震の際、東京電力福島第一原発で観測された地震動は、基準地震動を超えた(甲1国会事故調報告書「2.2.1東北地方太平洋沖地震による福島第一原発の地震動」)。
 そして、この地震動によって、原発の配管が破断した可能性も指摘されている(甲1国会事故調報告書「2.2.2地震動に起因する重要機器の破損の可能性」)。

(5) 平成23年(2011年)の東北地方太平洋沖地震における女川原発のケース
 また、平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震の際、東北電力女川原発で観測された地震動も、基準地震動を超えた(甲94、平成23年4月7日「平成23年東北地方太平洋沖地震における女川原子力発電所及び東海第二発電所の地震観測記録及び津波波高記録について」
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110407003/20110407003.pdf)。

3 著しい過小評価となった理由
 このように、従前の原子力発電所における地震動想定は、著しい過小評価であった
 そして、原発事業者と規制機関たる国が、地震動想定に失敗した最大の原因は、その地震動想定手法が、過去に発生した地震・地震動の平均像で想定を行っていたことにある(この点は、第14準備書面で詳細に述べた)。
 しかし、私たちの地震・地震動に関する知見は、極めて限られたものでしかない。
知見自体が極めて限られているのに、さらに、その知見の平均像で想定を行っているのであるから、現実に発生する地震・地震動が、しばしば基準地震動を超えるのは、いわば当然のことであった。

第2 原子力発電所に関する地震動想定には、何の変更もなく、従前のままである

 では、3.11福島第一原発事故を受けて、原発の地震動想定手法は変更されたか。結論から言えば、何ら見直しはされていない。

 新規制基準のうち基準地震動の想定や耐震設計に関する「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」
(http://www.nsr.go.jp/nra/kettei/data/20130628_jitsuyoutaishin.pdf、甲47)を見ると、地震動想定手法は福島原発事故以前と同一で、従前の考え方をほぼ踏襲しており、一部ではむしろ後退しているところも存在する。
 同ガイドでは、多くの点で「適切に」評価することを確認するなどとされているにすぎない。たとえば「3.3地震動評価」のみを見ても「適切に評価されていることを確認する」「適切に設定され、地震動評価がされていることを確認する」「適切に選定されていることを確認する」「適切に考慮されていることを確認する」「適切な手法を用いて震源パラメータが設定され、地震動評価が行われていることを確認する」など、「適切」との文言が22ヶ所に及んでいる。「4.震源を特定せず策定する地震動」以下でも同様で、多数の「適切に」の用語が用いられている。
 このように極めて多数の項目で「適切に」行うなどとされているが、そこでは、何が適切かは全く記載されていない。
 断層や地震動の評価で、「適切に評価する、設定する」のは当然のことであり、ことさら審査の基準として「適切に行うように」などと規定する必要はない。それが審査の基準となるためには、何が適切かをどう判断するかが記載されていることが必要であるのに、具体的な審査の基準の記載のない「審査ガイド」は、全く基準の名に値せず、結局、規制委員会が、どのような審査をしようとしているかは、この「審査ガイド」ではほとんどわからない。

 その結果、被告を含む原子力事業者による地震動想定においても、現在も相変わらず、平均像を基本として地震動想定をしようとしており、従来と何ら変わりがないものとなっている。
 この10年間で基準地震動Ssを超過した地震動を観測した5事例の各原発における地震動の想定手法は、過去の地震記録の平均像が基礎とされていたことは前述したとおりであるが、
新規制基準のもとでも、その手法は変わっていないのである。

 本来、想定に失敗した安全委員会、保安院や原子力事業者は、なぜ想定に失敗したかの原因を追求し、新たな想定手法を採用して、改めて地震動想定を行うべきなのに、単に結果としての地震動の数値を変えて、対応しただけだった。失敗に学ぼうとする姿勢が、安全委員会にも保安院にも原子力事業者にも全く欠けていたのである。
 そして、このことは、原子力規制委員会が設けられた現在も同様と言わざるをえない。
 このように失敗した原因を追求せずに、同じ手法で地震動想定をし続けていれば、いずれは大きくSsを上回る地震動が原発を襲うこととなる。

 基準地震動Ssの策定は耐震設計の要である。その要であるSsをどこまで上回る地震動が原発を襲うかわからないのでは、そもそも耐震設計のしようもない。原発の機器・配管のどこが地震に耐えられないか、地震に耐えられない機器・配管が破壊されたときにどのような結果となるかなどという議論は、全て襲来する地震動の大きさがわかってからでなければ、なしようがない。

 とりわけ、2011年東北地方太平洋沖地震により、津波があれほど想定を大きく上回ってしまった原因は、自然現象が過去最大(既往最大)を超えうることを、無視したことにある。
 ここで、「過去最大(既往最大)」と言っても、それはたかだか数100年程度の知見でしかない。津波堆積物を考えても、せいぜい1000年〜2000年程度の知見でしかない。
 ようするに、そもそも、「過去最大(既往最大)」の知見を得ることは叶わぬ夢であり、さらに、その「過去最大(既往最大)」を超えることも十分にあり得ることである。

 以上述べたとおり、2011年東北地方太平洋沖地震および福島第一原発事故を踏まえれば、少なくとも、過去最大を超える地震・地震動・津波が発生する可能性のあることを前提にして想定を行うことが求められているというべきである。
 しかしながら、規制機関たる国も、原子力事業者も、従前の手法を繰り返しているだけであり、これでは、原発の安全性は確保されない。
 被告も本件原発について従前の手法を繰り返し、基準地震動を策定している。
 本件原発の安全性が確保されない以上、本件原発の再稼働は認められない。
以上

戻る <<前 【記事36315】福井地裁_大飯原発3、4号機運転差止請求事件_第19準備書_大飯原発は地震動評価を著しく過小評価していた(福井地裁_大飯原発3、4号機運転差止請求事件_第19準備書2014年3月25日) 次>> 戻る