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志賀原発の耐震設計は信頼できるか

志賀原発2号機運転差止訴訟の控訴審が2008年10月27日、名古屋高裁金沢支部で結審しました。2006年3月24日に下された金沢地裁判決は、その直前3月15日に営業運転を開始した2号機について、耐震設計に問題ありとして運転差し止めを認める画期的なものでした。
2009年3月18日に予定される控訴審判決。原告最終陳述で、多名賀哲也さんは「住民の生存権を守った1審判決を無にしないで」と訴えました。

控訴審の期間中には、耐震設計審査指針の改訂、能登半島地震、新潟県中越沖地震などがあり、1審判決の正しさが事実で証明されています。耐震設計の問題をまとめてみました。

能登半島地震の警告

2007年3月25日、能登半島をマグニチュード6.9の地震が襲いました。
旧の耐震設計審査指針で志賀原発は、近い将来起こりそうな最も影響の大きい最強地震動S1を375ガル、およそ現実的ではないと考えられる限界的な地震による限界地震動S2を490ガルとして設計されていますが、観測された揺れは最大で711ガル(0.8秒周期)。
幸い1、2号機とも停止していましたが、使用済み燃料プールからは放射能を含む水が飛び散りました。基準地震動を超える揺れに襲われたのは女川原発に次いで2例目で、深刻な事態でした。

能登半島地震は原発から震央距離18キロの笹波沖が震源でした。この場所は笹波沖断層帯にあたりますが、北陸電力は設計時にF14、F15、F16と名づけた3つの独立した短い断層に分断して過小評価していました。この指導を行ったのが、「活断層カッター」として今や悪名高い東京工業大学の衣笠善博教授。明石昇二郎さん著の「原発崩壊」には、衣笠教授が北陸電力社員と共に書いた論文で3つの断層に切り刻まれている図が紹介されています。

活断層隠しの発覚活断層図

原子力安全・保安院は、現代地震科学の2大原理である断層模型論とプレートテクトニクスが確立する前の地震観に立脚した1978年策定の旧指針に基づく審査を長く続けてきました。
褶曲(しゅう曲:地層が波を打ったように曲げられているもの)構造は断層運動と関係があるという認識は1980年当時には常識であったと指摘されていますが、保安院は2002年7月になってようやくこの考えを取り入れ、海上音波探査を再評価するよう各電力会社に指導を行いました。

北陸電力は、その結果、8本の断層を2003年に新たに確認しますが、能登半島地震後も隠し続け、中越沖地震を受けて東京電力が事実を公表した直後の2007年12月17日になってようやく公表しました。

バックチェック審査の驚くべき人事
※引用者注:参照元には図有

2006年9月、耐震設計審査指針は28年ぶりに抜本改訂されました。改訂を受けて既設の原子力施設についても新指針に適合するかどうかバックチェックを行うよう指示が出されました。電力会社等は、活断層調査などを実施して、2008年3月にいっせいに中間評価結果を保安院に報告しています。

志賀原発では、それまで認めていなかった活断層を認定した結果、基準地震動が600ガルに引き上げられました。中間報告は、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会に地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループと構造ワーキンググループが設けられて審査されています。2つのワーキンググループはそれぞれ3つのサブグループに分けられ、志賀原発はAグループで審査がされています。

地震・津波、地質・地盤合同WGのAサブグループ、10人の委員の主査を務めるのが、驚くなかれあの衣笠教授。「断層の評価が志賀1、2号(許可審査時)とは変わっている。もちろんいろいろな事情で変わるのはやむを得ないというのか、変わって当然なのですが、どういう理由で変わったかを整理して説明していただきたい。」などと無責任にも発言しています。これでは盗人に裁判官をさせるようなものではないでしょうか。

国の通知は関係ないと声明発表

保安院は、中間報告審議のポイントとして、裁判で問題とされた「邑知潟断層の活動性及び連続性」や、「笹波沖断層群の活動性」などをあげ、裁判を意識してか、審議は北陸電力を最優先に進められてきました。
ポイントの一つにあげられた、原発からわずか1キロしか離れていない福浦断層については、断層が地表に現れている露頭1ヶ所の調査結果などから活断層ではないと報告されており、WGの議論も認める方向です。なぜか都合よく原発周辺に活断層がなくなりました。

中間報告後の5月22日に、中越沖地震の柏崎刈羽原発での揺れに関する解析結果が公表されました。設計に用いる解放基盤表面での揺れは最大で1699ガルという大きな値です。その結果、柏崎刈羽では基準地震動が2280ガルに引き上げられました。(志賀は600ガル)このように大きな値になったのは、地下構造特性の影響などとされ、9月4日に保安院は、地震動評価における不確かさの考慮などを求める通知を電力会社などに出しました。
ところが、北陸電力は、「通知の受領について」というプレスリリースを出し、「今回の通知内容を踏まえても、当社が行った耐震安全性評価に影響を与えるものではないと考えています。」と無視する構えです。例えば笹波沖断層帯での評価では、東部は能登半島沖地震でデータが得られているので、不確かさを考慮しなくていいという理屈です。
断層帯西部では地震時に大きくずれて地震波を出すアスペリティの位置を移動したケースなども報告はされていますが、これではたして十分なのでしょうか。例えばアスペリティと破壊開始点を両方移動する必要はないのでしょうか?
※引用者注:参照元には図有

今後は安全委員会の審査へ

地震・津波、地質・地盤合同WG AサブGは、12月18日、志賀原発について北陸電力の評価を「妥当なものと判断する」とする評価の中間とりまとめを承認しました。ほとんど注文のつかない中で、上記の不確かさの検討については、「不確かさを考慮する断層パラメータの選定やその幅の設定についての根拠などを含めて、不確かさを考慮したケースの考え方については再整理が必要である」とされました。

控訴審は北陸電力の主張を鵜呑みにした不当判決

2009年2月18日、原子力安全委員会は、志賀原発2号炉の保安院の評価は適切であることを確認したとする見解をまとめました。この結果については、わざわざ鈴木篤之委員長の補足説明が付され「(バックチェックについて)中間的再確認結果についてではあるが、保安院および当委員会による検討の結果を初めて示した」としています。他の原発に先駆けて、3月18日の判決前に見解をまとめたこと自体が、政治的な配慮であることをうかがわせます。

結果は妥当との結論ですが、「北陸電力株式会社の「震源を特定せず策定する地震動」の設定方法に関する説明には合理性が欠けている」「活断層の変位に伴う基礎地盤の変形の影響評価を行い、その結果を公表することを期待する。」との記述も見られます。
基礎地盤の問題は中越沖地震での大きな教訓であり、「活断層の変位に伴う基礎地盤の変形の影響評価は、新耐震指針における要求事項ではない」として済まされる問題ではありません。

3月18日、名古屋高裁金沢支部は、運転差し止めを認めた1審判決を破棄し、住民側請求を棄却しました。判決要旨を読む限り、「北陸電力が対策を講じた」「保安院が妥当と評価している」などを根拠にあげる、説得力のないものです。鳥取県西部地震を「既知の活断層から発生した地震」とするなど、明らかに事実に反する記述も見られます。原告団及び弁護団は「直ちに上告して原発震災による放射能被曝の危険性のない安全な生活が実現されるまで、闘いぬく決意である。」との声明を出しています。

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