[2022_06_02_04]社説:泊原発差し止め 安全立証せぬ姿勢批判(京都新聞2022年6月2日)
 
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社説:泊原発差し止め 安全立証せぬ姿勢批判

 北海道電力が再稼働を目指す泊原発1〜3号機を巡り、周辺住民らが運転差し止めなどを求めた訴訟で、札幌地裁は3基の運転を認めない判断を下した。
 判決は「津波に対する安全性の基準を満たしていない」と指摘した。津波対策の不備を理由に運転を差し止める判決は初めてという。
 提訴から10年以上たっても、北海道電は、原子力規制委員会の審査中であることを理由に、安全性の立証の先延ばしを続けてきた。
 地裁は、自ら説明責任を果たさない北海道電の姿勢を厳しく批判したといえる。原発事業者としての資質に疑念が向けられており、真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 判決は、原発を巡る訴訟において、科学的知見や資料を持つ電力会社側が立証する責任を尽くさない場合、「安全性を欠く」とする考え方に立ったものだ。
 地裁は、既存の防潮堤の地盤が液状化する可能性がないとは資料で裏付けられておらず、新設予定の防潮堤の構造も決まっていないと指摘。北海道電が認める津波の最大値に対し「安全基準を満たす防護施設が存在しない」と断じ、事故の際に原発30キロ圏内の住民の人格権を侵害する恐れを認めた。
 2011年の東京電力福島第1原発事故後、運転差し止めを命じた判決は3例目だ。福島の教訓である津波対策の不備を看過できないとする明快な判決といえる。
 規制委の審査を待たず、司法が独自判断した点も注目される。地裁は、審理を今年1月に打ち切った。判決は「主張、立証を終える見通しが立たない」と北海道電を批判し、長引くこと自体が「泊原発が抱える問題の多さ、大きさをうかがわせる」と踏み込んだ。
 規制委の判断を重視し、判決が先延ばしになっている原発訴訟もある中、司法が主体的に判断する姿勢を示した点で評価できる。
 北海道電は、規制委の審査でも提出データがずさんで対策も二転三転している。規制委の更田豊志委員長が今年4月、専門的な人材不足に苦言を呈したほどだ。自ら原発の安全性を追求する意識を欠いていると言わざるをえない。
 今回の判決は、原油高や電力不足を理由に原発の再稼働を急ぎたい政府や電力業界には冷や水だろう。岸田文雄首相は「原子力の最大限の活用」を強調するが、大前提の安全性が揺らいでいる。
 ウクライナ危機では原発への攻撃リスクも再認識された。核のごみ処理や避難対策など課題は山積みで、安直な活用論は無理筋だ。
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