[2022_06_01_03]札幌地裁、3/31泊原発差し止めの判決 泊原発廃炉の求めについては棄却 3件目の原発運転差し止めの判決 判決の骨子と要旨(一部) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年6月1日)
 
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札幌地裁、3/31泊原発差し止めの判決 泊原発廃炉の求めについては棄却 3件目の原発運転差し止めの判決 判決の骨子と要旨(一部) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 5月31日、札幌地裁、谷口哲也裁判長(亀井佑樹、木村大慶裁判官
の合議体)は、泊原発の運転を差し止める判決を言い渡した。
 北海道電力の泊原発1から3号機については、道民を含む1200人余が「津波や地震への安全性が不十分」と主張、運転を禁止し、核燃料を
撤去し、廃炉にすることを求める訴えを起こしていた。
 以下に、判決の骨子と要旨について、脱原発弁護団全国連絡会の ホームページ から一部を掲載する。

 判決主文 (訴訟費用の点は除く)

1 被告は、別紙2一部認容当事者目録記載の原告ら(一部認容原告ら)との関係で、別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機を運転してはならない。

(補足)別紙2一部認容当事者目録記載の原告ら=泊発電所から半径30km以内に居住する原告ら(44名)

2 一部認容原告らのその余の請求及び一部認容原告ら以外の原告らの請求をいずれも棄却する。

(参考)請求の趣旨

1 被告は、別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機を運転してはならない。

2 被告は、別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機の建屋に存在する使用済み核燃料を同建屋から撤去せよ。

3 被告は、別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機の廃炉措置を行え。

第3 判決の骨子

1 本件訴訟は提訴から10年以上、原子炉の変更許可申請から約8年半もの期間が経過したが、この期間が経過してもなお、泊発電所の安全性に関して、被告が、原子力規制委員会の適合性審査をも踏まえながら行っている主張立証を終える時期の見通しが立たず、他方、原告は、現時点で主張立証を尽くしたとして審理の終結を求めていたこと等の審理経過に鑑みて、合理的な主張立証の時間を確保する要請を考慮してもなお審理を継続することは相当でないと思料し、判決をするものである。

2 運転差止請求について

 泊発電所は、現在設置されている防潮堤(既存の防潮堤)について、地盤の液状化等のおそれがないことについて被告が相当な資料による説明をしておらず、口頭弁論終結時において、津波に対する安全性を欠いているから、他の争点について判断するまでもなく、その運転によって周辺住民の人格権(生命・身体)を侵害するおそれを有する。
 その危険性が及ぶと認められる範囲については、現定の証拠関係を前提にすると、泊発電所から半径30kmの範囲内である。
 したがって、泊発電所から半径30kmに居住する原告ら(別紙一部認容当事者目録記載の原告ら44名)との関係で、運転の差止請求を認める。

3 使用済み核燃料の撤去請求について

 使用済み核燃料の安全性に対する被告の説明は十分でなく、その危険性は認められるものの、撤去先を限定することなく撤去を求める原告らの請求は、原告らの人格権侵害のおそれを除去できるものでないから、認められない。

4 廃炉請求について
 廃炉が必要であるとまでは認められない。

第4 判決の要旨

1 本件訴訟の経緯等

 本件訴訟は、提訴から10年以上、原子炉の変更許可申請から約8年半の期間が経過したが、原子力規制委員会の審査会合が継続していることもあり、泊発電所の安全性に関して被告が主張立証を終える時期の見通しが立たない状況であって、被告は、争点の1つについては主張立証を補充する予定であるとするものの、他の複数の争点については、口頭弁論を終結した口頭弁論期日を含む3回の口頭弁論期日にわたって、主張立証をする具体的な予定はないとした。

 他方、原告らは、現時点における主張立証を尽くしたとし、いつされるか分からない被告の主張を待つことはできないとして、審理の終結を求めていた。
 原子力発電所の運転の可否に関する訴訟においては、科学的・技術的知見を踏まえた慎重な検討が必要であり、地域社会への安定的な電力の供給という社会経済活動とも密接に関連するものでもあるから、紛争の実態に即した適正妥当な解決という民事訴訟の目的のために、各当事者が必要とする合理的な準備期間を確保する必要がある。

 しかしながら、本件においては、それを考慮しでも、上記のとおり長期間が経過しでもなお被告が主張立証を終える時期の見通しが立っておらず、この状況で審理を継続することは、原告らに対し、いつ明確になるか分からない、あるいは審査会合の状況によって変更され得る被告の主張証に延々と対応することを余儀なくするものであって、これを訴訟上正当化することは難しいと考える。
 口頭弁論終結後に安全性に関する事情が変化する事態が仮に生じた場合には、請求異議の訴え等によって、事後に、その変化をも踏まえた実態に即した解決を図る方法もある。

 当裁判所は、これらの諸事情を考慮して、審理の継続は相当でないと判断し、判決をするものである。
 なお、被告は、口頭弁論終結後に口頭弁論再開申立書を提出したが、同申立書によっても、被告が主張立証を終える具体的な時期が見通せないことに変わりはないため、口頭弁論の再開は相当でないと判断した。
2 運転差止請求について

(1) 原子力発霞所は、原子力規制委員会が策定した安全性の基準に不合理な点がない限り、当該基準を満たす場合に、安全性を具備すると考えられる。
 そして、原子力発電所が必要な安全性を欠いており、人格権を侵害する具体的危険があることは、本来、その運転の差止等を求める原告らが主張立証すべきであるが、原子力発電所が原子力規制委員会の策定した基準を満たすか否かについては、当該原子力発電所を保有し運用する被告において知見や資料を有することから、上記主張立証責任の帰属にかかわらず、まず、被告の側において、当該原子力発電所が、上記基準が求める安全性を満たしており、事故による周辺住民に対する人格権侵害のおそれがないことを相当の資料、根拠に基づいて主張立証する必要があるというべきであり、被告がこれを尽くさない場合には、当該原子力発電所が自然現象に対する安全性を欠くものであり、それによって予想される事故により被害を受けるおそれがあると認められる範囲の周辺住民について、人格権侵害のおそれがあることが事実上推定される。

(2) 泊発電所の敷地は、T.P.(東京湾平均海面)+10mの高さにあり、原子炉容器や使用済燃料貯蔵施設などといったSクラスに属する設備を内包する建屋は、全て同敷地に存在するから、泊発電所が津波に対する原子力規制委員会の安全性の基準(設置許可基準規則5条1項)を満たすためには、基準津波がT.P.十10mを超えないこと、又は、防潮堤等の津波防護施設及び浸水防止施設を有し、かつ、それが基準地震動による地震力及び入力津波に対して津波防護機能を保持できることが必要になる。

 泊発電所の基準津波及び入力津波は、適合性審査が継続していることもありいまだ確定していないが、従前の被告の主張等に鑑みても、少なくとも、基準津波の敷地前面最大水位上昇量が十12.63m、同所での入力津波の最大水位がT.P.十13.8mであると認められる。
 これは、敷地の高さを上回るから、泊発電所においては、基準地震動による地震力及び基準津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設の設置が必要になる。

 この津波防護施設について、被告は、泊発電所には既存の防潮堤が存在することや、同防潮堤の地盤に液状化等が生じる可能性が低いことを主張するが、原子力規制委員会から指摘され、原告らも主張する地盤の液状化や揺すり込み沈下が生じる可能性がないことについて、被告は、相当な資料によって裏付けていない。
 また、被告が今後建設予定であるとする新たな防潮堤についても、高さをT.P.十16.5mとすること以外に、構造等が決まっていない。

 そのため、本件口頭弁論終結時において、泊発電所について、基準地震動による地震力及び入力津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設は存在しておらず、設置許可基準規則5条1項が定める津波に対する安全性の基準を満たしていない。
 そうすると、泊発電所が津波に襲われた場合に予想される事故による人格権侵害のおそれが推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。

(3) したがって、泊発電所の安全性に関するその余の争点について判断するまでもなく、泊発電所の事故によって被害を受けるおそれがあると認められる範囲の原告らについては、人格権に基づき、本件各原子炉の運転の差止めを求める権利がある。

(4) 事故が発生した場合に生命・身体が侵害される蓋然性がある原告らの範囲については、放射性物質の放出・拡散の範囲は泊発電所から一定の距離に限られるから、日本各地に居住する原告ら全員に人格権侵害のおそれがあるとする原告らの主張は採用できず、泊発電所から250km以内の範囲の住民に人格権侵害のおそれがあるとする原告らの主張についても、泊発電所の規模、核燃料の保有量、地理的条件等を踏まえて、事故によって放出が想定される放射性物質の量、飛散する範囲、その範囲において想定される放射線量の数値を一定の合理性をもって示す証拠がなく、採用できない。

 もっとも、国の防災基本計画及び北海道の地域防災計画で、泊発電所を含む原子力発電所で事故が発生した場合に、原子力発電所から半径30km以内の範囲に居住する住民に放射性物質による健康被害が及ぶ蓋然性があることを前提に、当該範囲外への避難計画を作成するとされていることなどから、最低でも、泊発電所から30km以内の範囲に居住する住民については、放射性物質による生命・身体の侵害のおそれがあることは明らかである。

 そのため、泊発電所から30km以内に居住する別紙2一部認容当事者目録記載の原告ら(44名)については、泊発電所の運転時における事故による人格権侵害のおそれが認められ、同原告らの運転差止請求には理由がある。
 他方、それ以外の原告らの運転差止請求には理由がない。

3 使用済み核燃料(使用済燃料)の撤去請求について

(1) 泊発電所の施設は、前記2のとおり、津波に対する安全性を欠いており、使用済燃料貯蔵施設についても、耐震重要度がSクラスに分類され、設置許可基準規則上、基準地震動及び基準津波に対する安全性を有することが求められているから、津波によって使用済燃料貯蔵施設において起こり得る事故によって人格権が侵害されるおそれがあることが推定される。
 これに対し、被告は、泊発電所の使用済燃料貯蔵施設に保管中の使用済燃料は、原子炉の運転を停止してから長期間にわたって冷却されているから危険性が低下していると主張するが、被告が指摘する他の原子力発電事業者の廃止措置計画等の資料においては、一定の計算等に基づいて燃料の健全性の評価をしたり、自然放熱での安全性の確認を具体的に行っているのと異なり、被告は具体的な検討に基づいた安全性の根拠を何ら示していない。

(2) 他方で、原告らが誇求する具体的な内容を検討する。
 作為を求める訴えにおいては、当該作為の内容をその文言上で一義的に特定しなければならない。
 核燃料に関する原告らの請求は、当初「建屋に存在する核燃料を最大限の安全を確保して保管・冷却せよ」であったものが、平成30年6月8日付け請求の趣旨変更申立書によって、「建屋に存在する核燃料を撤去せよ」に変更され、その後、令和3年9月15日付け請求の趣旨変更申立書により、現在の請求の趣旨である「建屋に存在する使用済み核燃料を同建屋から撤去せよ」に変更されたものであるが、現在の請求の趣旨の内容は、建屋から撤去することを求めるのみであり、撤去先の特定について何ら言及されていない。

 そのため、その文言上、使用済燃料を泊発電所の建屋からいずれかの場所に撤去すれば訴訟法上ないし執行手続上足りる趣旨のものとしか解し得ないが、これは、直ちに原告らの人格権侵害のおそれを除去することができるものではなく、適切な撤去先及び保管の条件が満たされない場合には、撤去により、かえって撤去先の周辺住民に人格権侵害のおそれが生じる可能性すら認められる。

 そうすると、原告らの使用済燃料の撤去請求は、原告らの人格権侵害のおそれを除去する性質を必ずしも有しない作為を求めるものといわざるを得ず、このような作為を求める請求権はない。
 したがって、使用済燃料の撤去請求には理由がない。
 もっとも、前記のとおり、被告は、使用済燃料の存在による危険性がないことについて、相当な資料によって説明することができていないのであって、当裁判所としても、被告が使用済燃料を安全かつ適切に保管し、それを相当な資料によって説明することが必要であると考えるものである。

4 廃炉請求について

 発電用原子炉の運転及び使用済燃料の保管による人格権侵害のおそれがある場合に、それを除去するために原子炉の運転を止めるなどの個別の防止策が必要になるとしても、原子炉の廃止まで必要であるとする具体的な事情は見出し難いことなどから、廃炉請求には理由がない。
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