[2020_01_18_13]反対派「励まされた」 泊 命の危険を考えれば当然 上関 計画の撤回まで諦めない 電力会社 判断を真摯に受け止めて(東京新聞2020年1月18日)
 やはり火山の影響が心配される北海道電力泊原発(北海道泊村)。三十`ほど離れた余市町で有機農園「えこふぁーむ」を営む牧野時夫さん(57)は冬の農閑期。確定申告のため自宅で帳簿を整理していたところで広島の決定を知った。
 「当然の決定。原発事故が起きれば、農作物が広い範囲で影響を受け、命の危険もある。絶対的な安全はないと、動かす側も言っているほど。どこまで対策をしても『絶対』はない。そこまでして原発を動かす意味はないでしょう」 他の農家と「泊原発を止める会」を結成。運転差し止め訴訟の原告らでつくる「泊原発の廃炉をめざす会」に加わる。「ただ裁判だけでは原発を止められない。最終的には政治で決めていくしかない」と語った。
 福島や旧ソ連のチェルノブイリ原発周辺で住民の被ばく実態を調べている木村真三・独協医科大准放授(52)は、伊方原発から45キロの愛媛県鬼北町出身。地元紙に被災地や住居の現状をつづったコラムを連載している。十七日は福島県二本松市の中学校で、生徒らに被ばく防止の大切さを説く出前授業の直後、ニュース速報がスマホに入った。
 伊方3号機はいったん再稼働し、今は定期検査で停止中。木村さんは憤る。
 「避難経路もきちんとできていない原発をなぜ動かすのか。日本最大の活断層に接している原発が、科学的な裏付けもなく動いていること自体が問題。南海トラフ地震が起きる可能性が高いのに。十分な対策をせずに原発を動かし、大地震が起きたら『想定外』というのか。それは地元住民を見捨てる棄民で、福島の二..の舞いじゃないのか」 福井市の小野寺恭子さん(63)は自宅で親の介護中に友人の電話で決定を知った。福島の事故後、廃炉で設ばくのリスクを負う作業員の問題や、行き場のない使用済み核燃料を次世代に残す責任を考えた。大飯原発3、4号機の差し止め訴訟にも参加した。福井地裁では「地震対策に構造的欠陥がある」と勝訴したが、名古屋高裁金沢支部で取り消された。原告団は全国の裁判への影響を考えて上告せず、敗訴が確定した。
 「悔しかった。司法は市民を守るとりでにならないと憤ったこともあるが、そうじゃなかった」と小野寺さんは振り返る。そして小野寺さんは「今回の決定は全国の原発に反対する人たちの努力の結果で、励まされた。福井からも原発を推進し続ける行政の責任を問うていく」と話し、毎週金曜日夜に行っている県庁前の抗議運動に向かった。
 伊方原発の北西約四十`に中国電力上関原発(山口県上関町)の建設予定地がある。海を挟んで向かいの祝島で三十年以上、建設に反対してきた海上運送業の清水敏保さん(64)は「晴れれば島から伊方原発も見え、過酷事故が起これば、祝島も避難対象となる。今回の決定で、地震や火山のリスクが認められたことにほっとしている」と話した。
 上関原発の工事は止まっている。しかし、県は昨年、中国電が申請した海の埋め立て免許の延長を二三年一月まで許可した。建設計画は消えていない。清水さんは「司法があらためて危険な原発は動かせないと認めた。ましてや上関原発の新設なんてあり得ない。計画の撤回まであきらめない」と気持ちを新たにした。
 福島県南相馬市から横浜市に避難している村田弘(ひろむ)さん(77)は「大切なのは、原発の経済性より住民の安全。司法の良心は死んでいないと思った」。事故時の避難を心配していた。伊方原発は細い半島の付け根にある。「陸続きの福島でも避難は五里霧中だった。伊方原発が地震に遭えば、住民は地形と海に阻まれて逃げられない。福島より過酷な状況が生まれる」 村田さんが暮らした南相馬市小高区の避難指示は解除された。大半の住民は戻らず、村田さんも高濃度に汚染された畑で、農作業を再開する気持ちにはなれない。村田さんは「原発事故が起きれば」コミュニティーは壊れる。それが福島事故の最大の教訓だったはずだ。電力会社には、この司法判断を真摯に受け止めてほしい」と願う。

デスクメモ
 巨大噴火の前兆があれば原子炉を止めて核燃料を運び出す。電力会社はこんな対策を疑えている。本当に前兆が分かるのか。ほとんどの火山学者が、「不可能だ」と答える。だから、災害対策を批判した今回の決定は当たり前。運転を認めた今までの判断にウルトラCがあった。(裕)2020・1・18
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