[2019_05_25_01]「電気がないと水も出ない」笑いながら経団連会長はそう言った。4・8経団連会長会見の古典的恫喝(ハーバービジネスオンライン2019年5月25日)
 
参照元
「電気がないと水も出ない」笑いながら経団連会長はそう言った。4・8経団連会長会見の古典的恫喝

4・8経団連会見、耳の痛い質問も出てきた中、中西会長は?
 前回に続き、第6回目も4・8経団連会長中西宏明氏の会見の質疑応答についてです。事前すり合わせされたと思われる前回の質問に比べて、記者からの質問に耳の痛いものも現れ、なかなかの珍問答となっています。

⇒【画像】映画の”舞台”としての原発 「チャイナ・シンドローム」を見て 「存在」国民大衆に根付く -現場で働く生身の人間のドラマ- 電気新聞1979年9月10日三面特集

 文字おこしは、ハーバービジネスオンライン編集部が行い、著者が記者会見を視聴の上で校閲しています。質問者の名前などについては聞き取れる範囲で起こしているだけなので伏せることとします。
 再掲となりますが、会見映像と資料はこちらとなります。なお、動画や図版については配信先によってはリンクが機能しなかったり、正常に表示されない場合もございますので、その場合は本サイトでご確認ください。

▼“提言「日本を支える電力システムを再構築する」に関する中西会長会見(2019年4月8日) ・ YouTube” (会見本体)
▼“中西会長定例会見(2019年4月8日) ・ YouTube” (質疑応答)
▼日本を支える電力システムを再構築する ― Society 5.0実現に向けた電力政策 ― 2019年4月16日 一般社団法人 日本経済団体連合会
・記者会見資料(リーフレット)
・概要(梗概)
・本文
 また、年頭会見については、会見映像が公開されていませんが、報道映像はこちらになります。
“「原発存続には一般公開の議論すべき」 経団連会長(19/01/01) ・ YouTube” ANN

17. 経団連中西会長記者会見 質疑応答 文字おこし(3/4)
 以下の文字起こしは、前掲の動画“提言「日本を支える電力システムを再構築する」に関する中西会長会見(2019年4月8日) ・ YouTube” (会見本体)の後半部分、記者からの質疑応答部分から起こしたものになります。

質問5.
記者:(読売新聞の??です)今回の提言はまあ、昨年末、年始にですね、記者会見のときにそれ以前からも中西会長は仰っていたんですけど、先程ちょっとエネルギー基本計画の話ができましたけど、なかなかそのリプレースとかなかなか入ってこないという現状があります。いまですね、今年統一地方選挙の前段がありましたし、参院選もあります。こうした中で、大きな争点にならないということに対して、どういうふうにお考えなのか? あるいは政治家の方々にはどういうふうに訴えていきたいですか?

回答5.
中西会長(以下、中西):あのまずですねこの議論の前提というものが、従来型の、その安定した電力会社運営というのをベースにした議論であるならば、そういう方たち、ある意味でプロが集まって相談すればよかったんですね。

ところが今抱えているこの問題っていうのは投資家も絡むしそれから正直言ってそのう、日本ぐらい停電時間の少ない、品質の安定した電力が日本中どこでも得られるっていう環境に完全に皆様方が慣れ切っているので、私これだけ熱入れて喋っても皆様方がどのくらい危機感共有できたかって全然自信ありません。正直言って。そっから出発しないと駄目だって思っているんですね。

ですが、そうは言いながら、一方電力の話ていうのは、いま完全同期方式で、日本中いま、50と60はちょっと違うんですけど、えー、50Hzは50Hzとの中で完全に同期して動くという、そういうまあ、面白い特性があるんです。単に消費量と需要量、あー、供給と消費、あー、供給と需要がマッチングするだけではなくて、サイクルが同期してきちっと動かなきゃいけない仕組みというのは必要なんで、そういう話になると、私あのー、電気工学を勉強していますので、頭の中は全部そういうことで出来上がってるので、私には何の疑問もないのだけど、なかなか皆様方によく理解頂けないと。

特性がちょっとプロ向きなので、で、なおかつその一般的な議論に展開していく必要があるということで、まあある意味で選挙にはなかなか扱いにくいし選挙民のご理解を得るには大変難しい課題だと思いますが現実に私が訴える危機感の最悪ケースというのは日々の電力が安定的でなくなるという状況になりかねない、こうこの一点なんです。

今皆さんがたご承知だと思いますけど、電力がなくなるとですね、トイレの水も流せない仕組みになってますので、ヘヘヘあのう、クスクスもう日常生活の根本にひっくり返るんですよね。そのぐらいは電気がうん、安定的にきっちり供給できているって、素晴らしいことだと思うんですけど、それを保証できなくなるという、まずその認識は皆さんで共有していただいて、その上で具体的な課題を一つ一つを議論したいというところにポイントがございますので、ある意味で選挙のタイミングでこんなの出してどうするといわれても、まさにそういうことを、まあ選挙の争点なるかどうかは別として、関心を持っていただきたいそういうふうに思います。

質問6.
記者:朝日新聞の??です。例えば原子力をその投資回収可能なぁ、そのレギュレーショナルにするためには、会長自身、まあ環境整備というふうにおっしゃってますけど、どういうのを必要だと具体的に考えておられるのかということと、日立製作所がホライズンをやっておられましたけど、まあイギリスというのは、日本より格段にバッドエンドも含めて政府のコミットメントは強くて、投資回収としては格段に日本より進んでいる環境下においてですらですね、日立製作所としては企業体としてあの事業を凍結せざるを得ないという判断になったと思うんですけども、やはりそのオペレーターとしてちゃんとこう、原子力みたいな大きいエネルギーを発生させるものを主体的に制御していくというような主体がなければ、なかなかその事業継の続性って、難しく感じられて、その必要性があるっていうのと、維持できるかどうかっていうのは別次元の話だと思うんですが、そのへん、日立の会長として、あの事業の凍結を決められたことをふまえて、どういう風に考えておられるのかっていうのを2点伺えますでしょうか?

回答6.
中西:今おっしゃられたような課題について言ったらば、UKのホライズン計画というのはほぼ整えつつございました。

ただ全体の資金計画という意味で言うと、イギリス政府はサッチャー時代に決めたですね、インフラの設備を国がバランスシートの中に抱え込まないっていう制約、従いましてUK政府は法律ギリギリのところのオファーまでしてくれたんですね。設計は全部バランスシートに載らないから、全部UKが面倒を見てある意味で市場から債務、債権を、利率が負担に成るからなんとかしようというですね。

まあ、だけど一線は越えられない。それは法律なんですよ。

特に法律っていうのは、そのー、いま、メイ政権でこういう法案を出して変えられる状況にないですよね。パーラメント、毎日やってますけど全部ブレグジットの話しかしていない。

したがってどんどんどんどん費用がかさなって、まあ要するにファイナンス計画がうまく組み立てられなかったから凍結と。これもまあうまく組み立たず、あるいはその時どういう状況になっているかわかりませんけど、いっときまで民間企業としては手が出ませんと。それ以外の条件は正直申し上げて、ありとあらゆる努力をして、だいたい見通しを付けておりました。

まあ確かに我々はオペレーターであるとかないとかそういう議論も出発点ではありました。

けれども一緒にやってくれる、やっていこうやという事業体もいくつも出てきました。でもUKのケースというのは一つ固有のプロジェクトの話ですから、今日の議論とは全然独立だと思います。

中西会長の回答の真意は? 記者の質問と回答を徹底解説

 まずはじめに、質問5.について解説します。
 この質問者は正力松太郎氏を原点に一貫して原子力推進を社是とする読売新聞です。発音不明瞭のために記者の氏名は聴取不能でした。

“エネルギー基本計画の話ができましたけど、なかなかそのリプレースとかなかなか入ってこない”
 これは、昨年夏に閣議決定された第五次エネルギー基本計画を指します。この中で原子力は基幹エネルギーとしての地位とされ、2030年までに20%の電力シェアとされています。そのためには30基30GWeの確保が必須なのですが前回指摘したとおり、原子炉が足りません。そのため、関西電力などが切望するリプレース(建て替え)と新規増設が明記されると考えられていたのですが、それは見送られました。

 第五次エネルギー基本計画における電源構成目標については、”“問題を先送りしたエネルギー基本計画 | nippon.com” 河原雄三2018/07/04”掲載の図をご覧いただきたい。これが2030年原子炉30基30GWeの根拠です。中西提言などはすべてこの計画を原点としています。第五次エネルギー基本計画は明らかに再生可能エネ革命と新・化石資源革命を無視し、国策としての原子力推進へ固執する為に作られた国策ドグマ(教義)にすぎません。

“今年統一地方選挙の前段がありましたし、参院選もあります。こうした中で、大きな争点にならないということに対して、どういうふうにお考えなのか? あるいは政治家の方々にはどういうふうに訴えていきたいですか?”

 ヒノマルゲンパツPAを社是として65年を超える歴史を持つ読売新聞からこのような質問が出てきたことは興味深く、今年7月に予定される参院選または衆参同日選挙で、廃炉になった原子炉の建て替えや場合によっては新規増設を争点とすることを促したものと考えることが可能です。

 この中西氏の考えに沿ったと見える質問に対し中西氏は次のように答えています。

読売記者の質問への中西会長の回答に込められた”恫喝”的手法

回答5.“この議論の前提というものが、従来型の、その安定した電力会社運営というのをベースにした議論であるならば、そういう方たち、ある意味でプロが集まって相談すればよかった”

 これは、分かりにくいのですが要は十電力が地域独占し国家内国家として電力市場を支配してれば利害密接関係者の仲間内で話は終わっていたというものです。たいへんにお気楽極楽な話ですが、WTOルールの下ではそれは許されません。電力自由化は、米欧を中心にWTO加盟国では、すでに大きく先行して進んでおり、日本は大きく遅れています。

”日本ぐらい停電時間の少ない、品質の安定した電力が日本中どこでも得られるっていう環境に完全に皆様方が慣れ切っているので、私これだけ熱入れて喋っても皆様方がどのくらい危機感共有できたかって全然自信ありません。正直言って。そっから出発しないと駄目だって思っている”

 これは停電率の低さだけでなく瞬停の少なさ、瞬低(瞬時電圧低下。一時的に電圧が低下すること)の少なさを指しており、実際に日本の電力供給の特徴でもあります。石炭火力と原子力という遠距離大型電源への依存と品質の高い電力供給が日本の優れた電力網の特徴です。実際に合衆国コロラド・スプリングス市在住中、停電の多さ、瞬停の多さには閉口させられました。コロラド・スプリング市は、シリコン・バレーならぬシリコン・マウンテンと称され半導体産業ほか所謂ハイテク企業が多数集まっており、電力の不安定への対応がどうであるかには興味を持たれました。なお、コロラドスプリングス市では「Colorado Springs Utilities 」が担っていますが、主力電源は市街地にある石炭火力でした。近年は天然ガス火力と再生可能エネの導入が急速に進んでいます。

 インテルの大半導体工場などを含め、電力安定化をどうしているのかと言えば、極めて当たり前のこととして、各事業者が自前で瞬停対策をしています。安い電力はそれだけ品質が低いが、その分は自前で安定化させる、また送電の多重化については電力会社と別途契約をすると言うことで受益者負担が徹底していました。もちろん、それで高い国際競争力を持ち、「価値の創造」=「イノベーション」の世界的中心でもあるのが合衆国です。

 私が居室を借りていた当地のStart-upsは、送電の二重化については行っておりませんでしたが、ある日地上の引き込み配線箱(降雪地帯のため全市域地中送電)に乗用車が突っ込み、あえなく停電、終日電力喪失しました。その瞬間”Shit!”と叫んだ中国人プログラマの声が今も耳に残ります。

 また、台湾や中国のような半導体産業だけでなく様々な製造業の中心となった国においても電力の安定供給はともかく、電力の品質(瞬停、瞬低対策)は個々の需要家が行っています。

 実際に日本においてもすでに瞬停、瞬低対策を個々の需要家が行う事が進んでいます*。これは当たり前のことで、系統全体での電力品質をいくら向上させても大規模な瞬停、瞬低といった事故は回避不可能で、実際に時々報じられます。有名なのは、四日市電圧降下事故*で、原子力発電絶頂期に起きた事故です。また系統全体で高い品質を維持するため費用は高く、実際にはその費用の多くを一般消費者が負担しています。これは費用負担の公平性という視点からは不公正ですし、結局多大な費用に比して事故は避けられていません。
<*参照:“北海道知事選目前。北海道大停電、最終報告書から読み解く「泊発電所《TOMARI_:》待望論」の誤り”1ページ中段に記述>

 余談ではありますが、合衆国では一般家庭でもコンピュータを瞬停とサージ(落雷などによる突発的高電圧)から守るために無停電電源(UPS)が普及しており、量販店の店頭しかも入り口近くに30〜50ドル程度で積み上げられています。著者も日本国内で何度も落雷によるサージと瞬停に悩まされてきましたので帰国後はUPSを常用しています。
<*参照:“北海道知事選目前。北海道大停電、最終報告書から読み解く「泊発電所《TOMARI_:》待望論」の誤り | ハーバービジネスオンライン”、 “某半導体工場 瞬低・短時間停電補償装置(MEIPOSS LIC) | 無停電電源装置 | 明電舎”>

 中西氏は、大企業は一般需要家の負担で維持されている電力品質を大口需要家として極めて安価で享受できるという出発点から議論を始めようということを当たり前のように主張しますが、これは極めて虫の良い話で、実際には、現在絶頂期であり且ついまだ伸びつつある合衆国ほか台湾、韓国、中国のように、電力品質を誰が負担するのかというところから議論すべきでしょう。

 どのみち、現在の製造業や情報通信産業に求められる電力品質は商用電源では得られず、安定化電源の導入は大口需要家には必須といえます。停電をしない程度の安価な電力という選択肢もあり得るのです。

 そもそも、化学メーカーなどは自前で発電しています。財界総理ともあろう御方が、自分にとって都合の良いところだけの摘まみ食いはいけません。

”単に消費量と需要量、あー、供給と消費、あー、供給と需要がマッチングするだけではなくて、サイクルが同期してきちっと動かなきゃいけない仕組みというのは必要”

 このことは、昨年の北海道大停電に関する記事で再三指摘したことです。交流送電網は同期せねばならず、発電所は乾電池ではありません。北海道大停電の際には、発電所を乾電池に模して議論する愉快な人が拙稿をデマ記事と誹謗し、私に「かみくだく」逆襲を受けて去ってゆきました。

” 私あのー、電気工学を勉強していますので、頭の中は全部そういうことで出来上がってる”

 工業高校や高専の電気科では教えていますので、別に大学の電気工学を勉強しなくても、必要な人には高卒程度で当たり前の知識です。別に特別な知識ではありません。むかで競走を例えとして説明すれば良いだけです。PA(Public Acceptance)では、市民を馬鹿にする、見下すことは最もやってはいけないことです。

” 現実に私が訴える危機感の最悪ケースというのは日々の電力が安定的でなくなるという状況になりかねない、こうこの一点なんです。今皆さんがたご承知だと思いますけど、電力がなくなるとですね、トイレの水も流せない仕組みになってますので、ヘヘヘあのう、クスクスもう日常生活の根本にひっくり返るんですよね。”

 これは典型的な恫喝型ヒノマルゲンパツPAです(参照:”提言「日本を支える電力システムを再構築する」に関する中西会長会見(2019年4月8日)”-経団連:24分23秒)。電気がないと水が出ないぞ、トイレが使えないぞです。非常に古い、1960,1970年代に横行した手口ですが、水道、下水道が機能しなくなるほど電力インフラが疲弊した社会にまで日本が衰亡した状態では経団連関連企業のほとんどは潰れて消え去っています。それどころか原子力発電所など操業不能です。実はこの恫喝型ヒノマルゲンパツPAというのは根が深く、日本では80年代まで蔓延していました。しかし、90年頃からたいへんな悪手として敬遠されてきましたので財界総理ともあろう御方がこのような古くさい40年くらい昔のカビの生えた恫喝型ヒノマルゲンパツPA話術を記者会見の場でヘラヘラ笑いながら用いると言うことに私はたいへんに驚かされました。

 1979年に大ヒットしたチャイナシンドロームという映画は、当時の電気新聞でもたいへんに好意的に大きく特集されました*が、映画の中で、若い原子炉運転員が反対デモをする住民をTVニュースで見ながら「この人達は明かりはいらないのかな?冷暖房はいらないのかな?」とつぶやく場面があります。その程度に思慮の浅い発言だと皮肉られているわけですが、2019年に本邦財界総理が同様な発言を記者会見で行っているのです。

ド素人の井戸端会議ではないのですから、きちんと考え、世界を見ましょう。知識も思考も40年は古いです。

”選挙のタイミングでこんなの出してどうするといわれても、まさにそういうことを、まあ選挙の争点なるかどうかは別として、関心を持っていただきたいそういうふうに思います。”

結局のところ、昨年閣議決定した第五次エネルギー基本計画に盛り込めなかった原子力発電所の新規増設、廃炉分の建替についてエネ庁と世界市場から脱落した原子炉メーカーがどうしても見直しでねじ込みたいと言うことでしょう。

中西会長にとって耳の痛い質問をした朝日新聞記者

 質問6.は朝日新聞社の記者さんですが、やはり語尾が発音不明瞭で、氏名が聞き取れませんでした。改善してください。質問そのものは、英国でのホライズン計画(UK-ABWR輸出計画)の失敗と、原子力発電の経済的持続性妥当性を問うた、中西氏にとって極めて耳の痛い質問です。

“原子力をその投資回収可能なぁ、そのレギュレーショナルにするためには、会長自身、まあ環境整備というふうにおっしゃってますけど、どういうのを必要だと具体的に考えておられるのか”

 これはたいへんに耳の痛い質問です。中国を除く世界での3G+炉の失敗の連続は、投資回収が不可能なほどに建設費、運転管理費が増大したことで、とくに2G炉や旧式の3G炉が3500億円/GWeという建設単価であったのに対して、現在3G+炉の建設単価が実績ベースで9000億円/GWe前後に高騰している現実があります。

 発電原価の四割前後を占める資本費はこれによって跳ね上がっており、新規建設原子力発電所の経済的合理性を著しく損ねています。フィンランドの場合は、契約からの増加分と建設遅延による遺失利益をAREVAに負担させていますが、結果としてAREVAは経営破綻しました。英国の場合は極めて高額な電力買取保証をAREVA後にEDFと交わし、需要家の操業開始後の大幅負担増という形で環境を整備しています。合衆国ではAP1000二基の建設が価格高騰によりV.C.サマーではキャンセルになり企業連合体の中で訴訟合戦となっています。またメーカーのWH(ウエスチングハウス)は経営破綻(米連邦破産法第十一条)してしまいました。現在はヴォーグルでAP1000二基が建設中ですが、これも建設費高騰のために建設中止の是非を巡って企業連合の中で争いとなっています。

 好成績の既存2G炉の運転年数延長によって合衆国では原子力発電所の操業が維持されていますが、日本では全BWRが成績不良ですので操業再開できるか否か、運転年数延長が可能か否かは現状では悲観的です。操業するにしても新規制基準への適合のためには建設費を上回る投資を要するために経済的に妥当かと言えば、まともに基準を遵守すれば極めて難しいと言うほかありません。

“日立製作所がホライズンをやっておられましたけど、まあイギリスというのは、日本より格段にバックエンドも含めて政府のコミットメントは強くて、投資回収としては格段に日本より進んでいる環境下においてですらですね、日立製作所としては企業体としてあの事業を凍結せざるを得ないという判断になったと思うんですけども、やはりそのオペレーターとしてちゃんとこう、原子力みたいな大きいエネルギーを発生させるものを主体的に制御していくというような主体がなければ、なかなかその事業継の続性って、難しく感じられて、その必要性があるっていうのと、維持できるかどうかっていうのは別次元の話だと思うんですが、そのへん、日立の会長として、あの事業の凍結を決められたことをふまえて、どういう風に考えておられるのかって“

 これも極めて耳の痛い質問です。英国のホライズン計画では日立が、NuGen計画では東芝が電力会社を買い取り、オペレータ(電力会社)としてそれぞれ日立のUK-ABWR(3G)と東芝/WHのAP1000(3G+)を建設する計画を立てましたが、双方ともに事業費の高騰によってオペレータとして行き詰まり、ホライズンは事業凍結、NuGenは事業体の内部精算によって消滅しました。NuGenに東芝は過大投資しており、WHへの過大投資と合わせて東芝そのものを事実上の経営破綻させてしまいました。日立は比較的堅実でしたが、やはり日立にとって深手となっています。

 このことは、EDF(フランス電力会社)/CGN(中国広核集団)連合のヒンクリーポイントCとサイズウェルBのように長期固定料買い取り契約によって需要家に大きな負担をさせない限り、原子力発電所の新規増設は経営上成り立たないと言うことを意味しています。

 EDF/CGNのEPR(欧州加圧水型炉)は現在人類が持ちうる限り最高の極めて安全な商用原子炉ですが、極めて高額の建設費となり、経済的には成り立たず、結果として経営上の妥当性がないと言うことはもはや既知の事実と言って良いのです。先行事例ではフィンランドはAREVAの経営破綻、EDFの大きな持ち出しで成立し、英国では需要家のたいへんに大きな負担で成立してます。但し、中国では、CGNの手により極めて順調に操業開始できましたが、CGNも今後は自前でより安価な華龍1(3G)を 主力にするとしています*
<* “[中国] 専門家、華龍1号の建設コストは欧米の第3世代炉の半分以下と発言 − 海外電力関連 トピックス情報 | 電気事業連合会” 2018年5月17日、“中国、「AP1000」の採用を縮小し「華龍一号」に注力も 日本テピア株式会社”2017/05/16>

 日立は英国のホライズン計画を凍結という名目で事実上中止し、東芝、三菱と並んで国際原子炉市場から脱落したのですが、そのような実力でどのように国内で原子炉建設を行って行けるのかという質問です。

●ヒンクリーポイントC, NNB Generation (EDF・CGN),EPR 2基
●サイズウェルC  ,NNB Generation (EDF・CGN),EPR 2基
●ブラッドウェルB  ,NNB Generation (EDF・CGN),華龍1 2基
×ウィルファ  ,Horizon Nuclear Power(日立),ABWR 2基
×オールドベリー  ,Horizon Nuclear Power(日立),ABWR 2基
×ムーアサイド  ,NuGeneration(東芝,ENGIE),AP1000 3基
(再掲)英国原子力発電所建設計画の一覧

 さて、これら「耳の痛い質問」に中西会長はどう答えたでしょうか?

国内では「まずは法律はやめよう」って言ってたのに!?

回答6.
“UKのホライズン計画というのはほぼ整えつつございました。”

 これは、こう言わねば面子がつかないわけですが、ホライズン計画は、EDF/CGN連合が英国政府から獲得した15円/kWhで35年という固定料買取契約を得られなかった時点でもう駄目だろうとみられており、日立の撤退はかなり遅きに失した感があります。

 日立は、1990年代前半に実用化して実績のあるABWRを英国向けに改良することによって安い建設費を実現できると言う売り込みをしていましたので、需要家に重い負担を強いる固定料買取契約をホライズンと行うことはあり得ないことです。これは同様にCGNが主体となって華龍1(3G)を建設する計画のブラッドウェルBにも当てはまり、こちらでも固定料買取契約はありませんが、CGNは「やる気マンマン」です。中国国内と合わせて大量建造による低コスト化を見込んでいるのでしょうし、そもそも1980年代の設計であるABWRに対して、華龍1は、フランス系PWRで2000年代設計の最新型です。

“UK政府は法律ギリギリのところのオファーまでしてくれた“
”一線は越えられない。それは法律“
”法律っていうのは、そのー、いま、メイ政権でこういう法案を出して変えられる状況にない“

 これは当たり前のことを言っているだけです。法律は守る。法律の範囲で行う。当然です。しかしこの直前には

“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言っています(前回参照)。これはおかしな事です。

 英国事業では、ファイナンス上の課題は英国政府に従う。一方で、国内での事業については、原子力規制について
“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言います。このとんでもない内弁慶思考は厳しく糾弾されねばなりません。コンプライアンス上の重大問題でもあり、この発言は看過できません。

“どんどんどんどん費用がかさなって、まあ要するにファイナンス計画がうまく組み立てられなかったから凍結“
 これは日本国内でも全く同じ事が起きており、それが再稼働すらまともにできず、再稼働後も操業停止リスクがつきまとう理由です。日本国内では
“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言い放てる理由が理解できません。

”我々はオペレーターであるとかないとかそういう議論も出発点ではありました。”
 きわめて優遇されていた英国ですら、オペレーター(電力事業者=ホライズン)として日立のABWRでは新規増設が経営上成り立たないという結論を日立=ホライズンは出したわけです。当然ですが、メーカーとしての日立の顧客である電力事業者に、法令遵守ながら建設、運用できる製品を提供するのが筋です。福島核災害後の国際原子力市場でABWRは商品として通用しなかったのです。

“UKのケースというのは一つ固有のプロジェクトの話ですから、今日の議論とは全然独立だと思います。”
 これは嘘です。英国での日立の失敗は、少なくとも旧西側世界で求められる原子力規制基準では日立のABWRは通用しなかったという事です。

 裏技として、オペレーター(電力事業者)をメーカー側が買収して契約するというのが英国で行われていることですが、これが日本で認められるのならば、例えば日本原電をロスアトムが買収しロシア原電と改名してVVER1200(PWR 3G+)を導入するなりCGNが買収して中国原電と改名し華龍1(PWR 3G)を導入することが許されねばなりません。
 おそらく国内原子力メーカーは、全く歯が立たないでしょう。著者は、VVER1200なり華龍1が建設されるのなら引っ越してでも操業開始まで見届けたいです。想像するだけでドッキドキーのワックワクーとなります。
 さて、いよいよ本シリーズの最終回となる次回では、質問7〜9の質疑応答についてご紹介した上で解説いたします。中西氏の悪癖がここでまた露呈しています。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編V原子力産業・圧力団体による宣伝・政策活動・6

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado photo by Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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