[2018_09_20_03]泊原発再稼働が意味のない理由 供給力が不足した場合に発電所を停止する 原発は電力供給の点だけからみても安定電源ではなく最も脆弱な電源 上岡直見〔環境経済研究所(技術士事務所)代表〕(たんぽぽ舎2018年9月20日)
 
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泊原発再稼働が意味のない理由 供給力が不足した場合に発電所を停止する 原発は電力供給の点だけからみても安定電源ではなく最も脆弱な電源 上岡直見〔環境経済研究所(技術士事務所)代表〕

1.泊原発が動いていれば北海道の全域停電(系統崩壊)はなかったというデマに対して、すでに多くの反論がなされているが、それらで触れられていない点をいくつか指摘したい。
 供給力が不足した場合に発電所を停止する、というのは一見すると逆のように感じられるので、電力会社側の操作ミスではないかと解釈する人もいるが、これには別の技術的理由がある。

2.電気は、水道のように圧力を落として供給を続けることはできない。供給力が不足すると周波数が低下し、それに同調してタービンの回転数が落ちてしまう。タービンには各々の設備に固有の危険回転数というものがあり、この回転数で運転を続けると振動が発生してタービンが吹き飛んでしまう。
 危険回転数というのはスピード超過ではなく、回転数の低い側に共振点がある。正確ではないが、たとえると自転車を漕ぎ始める時はふらふらするが、一定のスピードになると安定するという感じで捉えると感覚的にわかると思う。

3.昔は実際に共振事故で、建屋を貫いて破片が何kmも飛ぶような大破壊を起こした例があり、周波数低下時には発電機を止めざるをえない。これは火力発電所でも原発でも共通だから、大規模な発電所が急停止して周波数が回復できないときは、いずれにしても全域停電(系統崩壊)が発生する可能性がある。
 泊原発が動いていれば良かったという話には全くならない。ホリエモンが何か言っているのは電力技術に無知なためである。

4.もう一つの問題は、仮に安全停止したとしてそこからの復旧である。
 北海道電力の資料によると、苫東厚真火力発電所の損傷の内容は一部のボイラー管の損傷であるが発生したのが9月6日未明で、11日にはボイラーの内部を点検し、損傷管の取替を実施という方針を決定している。そして19日には作業が完了して通常運転(苫東厚真1号機のみ)に復帰している。
 実は苫東厚真火力発電所のような石炭ボイラーではボイラー管の損傷は平常時でも日常的に起きるトラブルで、発電所としては全く手慣れた作業だったはずである。

5.こう書くと何でもないようだが、これが原発だったらどうだろうか。原発でボイラーに相当するのは、泊原発(PWR・加圧水型)の場合は蒸気発生器であるから、そもそも「内部を点検」という作業そのものが容易ではない。
 1991年2月の関西電力美浜原発2号機の蒸気発生器損傷がこれに近いが、再起動まで半年以上かかっている。
 かりに原子力重大事故にならないにしても、火力発電所が2週間弱で通常運転に復帰できるのに、原発では半年以上動かせないのである。
 もちろん原発の本質的な危険性は放射線であるが、原発は電力供給の点だけからみても安定電源ではなく、最も脆弱な電源といえる。

※参考
 「世界」2018年10月号に上岡直見氏の文章『東海第二原発に緊急事態が起きた
ら首都圏は?』6頁が掲載されています。

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