[2018_09_13_02]原発再稼働なら"北海道大停電"は防げたか(プレジデントオンライン2018年9月13日)
 
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原発再稼働なら"北海道大停電"は防げたか


■北海道で初めての最大震度「7」

 9月6日午前3時過ぎに発生した北海道の地震は、最大震度「7」を記録した。北海道で初めての大きな震度だった。死者は40人を超えた。
 大規模な土砂災害があった厚真(あつま)町では、北海道警や自衛隊が7000人以上の態勢で懸命な捜索を続けている。
 いくつもの山の斜面が木々ともに崩れ落ち、住宅や田畑を飲み込んだ。今回の大規模な土砂崩れは、どんなメカニズムで発生したのだろうか。
 専門家によると、崩れ落ちた山の地層のうち、「ハロイサイト」と呼ばれる粘土質の地層が、地震発生直前の台風21号の影響による大雨で多量に水分を含んでもろくなり、この層の上に降り積もっていた火山灰の層とともに崩れ落ちたという。

■災害が新局面に突入している

 いわば雨と地震の複合災害である。厚真町のような地層構造は日本中いたるところにある。大雨が降った後に地震が発生すれば、こうした土砂崩れが起きる恐れがある。
 この夏、日本列島は次々と、大きな災害に見舞われた。
 異常な雨が降り続いた「西日本豪雨」。海上の人工島に造られた関西空港を冠水させ、空港機能を奪った「台風21号」。そして震度7を記録した「北海道地震」。
 ここ数年、災害自体が、危険な新しいステージに突入したように思う。
 今後も大規模で深刻な災害が、私たちを襲うだろう。そのときに備え、新たな防災対策を構築する必要がある。

■台風21号の被害を「想定外」にするな

 新聞の社説も、災害の備えや対策について論じている。
 9月6日付の朝日新聞の社説は台風21号の甚大な被害を取り上げ、「まずは被災者への支援と復旧である。同時に強風の恐ろしさを改めて認識したい。しっかりした造りの建物内で待機する。住宅などの一部が壊れて『凶器』と化さないよう、事前に対策を施す。そうした基本を徹底することが大切だ」と訴えている。
 続けて朝日社説は関西空港の前例のない被害に触れる。
 「94年の開港から地盤沈下が続き、04年の台風で浸水したため護岸のかさ上げ工事を続けてきた。それにもかかわらず第1滑走路に最大50センチ水がたまるなど、広範囲に冠水。沖合に停泊していたタンカーが流されて空港と対岸を結ぶ連絡橋に衝突したこともあり、『孤島』となった空港に3千人超の利用客が取り残された」
 滑走路や駐機場に大きな水たまりができ、衝突したタンカーが高波に押し流され、連絡橋に食い込んでいった。
 どうしてあのような事態に陥ったのか。原因の究明と、今後の対策が必要だ。
 朝日社説は「空港の施設や運営についても、事前の想定と対策が十分だったか、幅広い検証が必要だ。『想定外』で終わらせてはならない」と訴えている。
 「想定外にするな」との主張には大賛成である。ただし「想定外」は必ず起きる。今回の災害で、空港職員は復旧のため懸命に動いた。9月4日に冠水したが、7日には運用を一部再開している。こうした現場の対応は評価すべきだろう。

■読売にこそ、総裁選延期を主張してほしかった

 読売新聞は9月7日付で北海道の地震をテーマに大きな1本社説を掲載している。
 その読売社説は冒頭で「電力や水道の供給が広範な地域で停止し、交通網が寸断された。自然災害に対するインフラの脆弱さが浮き彫りになったと言えよう」と書き、「被害の実態が不明な地域も少なくない。状況を把握し、救助を急がなければならない」と訴える。
 「電力」「水道」「交通」といったインフラが破壊される。沙鴎一歩は7年前の東日本大震災を思い出した。あのときに国や東京電力が使ったのも「想定外」という言葉だ。この言葉は責任回避として使われることがある。われわれは「想定外」という説明には、注意深くならなければいけない。
 続けて読売社説はこう訴える。
 「自衛隊や警察、消防、海上保安庁が計2万人を超える態勢で救命・救助活動を進めている」
「政府は、首相官邸の危機管理センターに対策室を設置した。関係自治体と連携し、市民生活の復旧に全力を挙げてもらいたい」
 こうした復旧が進むなか、9月7日に自民党総裁選が告示された。北海道地震のために3日間選挙活動を自粛し、10日から演説会や記者会見など本格的な論戦が始まった。
 本来ならば総裁選は延期すべきだと思う。なぜ、この時期に強行するのか。
 安倍晋三首相や自民党は自分たちの都合ばかり考えているようにみえる。首相官邸に災害対策室を設ければ、それで済むと思っているのだろうか。
 読売は安倍政権を擁護する論調が強い。今回の社説でも、そのあたりをきちんと批判してほしかった。

■なぜブラックアウトを回避できなかったのか

 読売社説は「深刻なのは、道内のほぼ全域が停電に見舞われたことだ」と指摘し、こう主張する。
 「300を超える病院が停電した。災害拠点病院の多くは自家発電で対応したが、外来患者の受け付けを休止したところもある。長期化すれば、手術や人工透析などに影響が出て、生命に危険が及びかねない」
「非常用電源の燃料確保が極めて重要になる。病院などに優先的に供給したい。電力会社は電源車の派遣を急がねばならない」
 読売社説の主張はその通りなのだが、この後、ブラックアウトという全域停電の原因について言及しながら原発再稼働を求めている。
 「発電量と消費量のバランスが大きく崩れて、電気の周波数が急激に変動し、発電設備が損傷するのを防ぐためだ。広域的に電力供給が止まった今回の事態には、やむを得ない面もあった」
 これは北海道電力に対してあまりに好意的ではないか。東日本大震災のときに東京電力はブラックアウトをうまく回避した。なぜ北海道電力にそれができなかったか。社説はそこを追及すべきではないか。

■原発が再稼働していればすべてOKなのか

 読売社説は続ける。
 「問題は、道内の電力を苫東厚真火力に頼り過ぎていたことだ」
「東日本大震災後に停止された泊原子力発電所の3基が稼働すれば、供給力は200万キロ・ワットを超える。原発が稼働していないことで、電力の安定供給が疎かになっている現状を直視すべきだ」
 何もここで原発再稼働を持ち出す必要性はない。これはすり替えの論理だ。大新聞の社説として納得しがたい書き方である。
 仮に泊原発が稼働していたとして今回の地震の影響はまったくなかったと言い切れるだろうか。稼働していなかったことが、深刻な事故を防いだという可能性も考えられる。読売社説の思考回路は安易ではないだろうか。
ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト

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