[2023_01_03_01]原発推進にウクライナ侵攻が「利用されている」 フランスで脱原発に取り組む男性は憤る 「将来につけを残すだけ」(東京新聞2023年1月3日)
 
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原発推進にウクライナ侵攻が「利用されている」 フランスで脱原発に取り組む男性は憤る 「将来につけを残すだけ」

 
 ◆日本の原発にも運ばれるMOX燃料の製造のために…

 霜が残る獣道を、2人の男が白い息をはきながら踏み締めていく。フランス北西部コタンタン半島先端の町ラ・アーグ。近隣に住むギィ・バテル(70)は棒におけ状の入れ物がついた採水器具を手に、ジャンイブ・ルプティ(70)とともに地域内の水源を巡っていた。
 「最も問題の多い場所だ」。2人がそう言って指さしたのは、乳牛の放牧地。後背に立つラ・アーグ再処理工場は、日本の原発にも輸送されるウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を製造するため、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出している。「セシウム、ストロンチウム、プルトニウム…。地下水にあらゆる放射性物質が詰まっているんだ」

 ◆「絶対に事故は起きない」ことがうそだと知り、立ち上がる

 コタンタン半島内の農家に生まれ育ったバテル。父親になったばかりの1986年、旧ソ連時代のウクライナでチェルノブイリ原発事故が起きた。豊かな暮らしをもたらすはずの新エネルギーが、実は危険と隣り合わせだと知った。
 「絶対に事故は起きないという説明はうそだった。子どもたちのため、安全な土地を残さなければ」。そう決意したバテルはルプティとともに市民団体「ACRO」に入り、仏西部の原子力施設周辺で汚染状況の監視に取り組んできた。
 2011年の東京電力福島第1原発事故後にはACROメンバーが訪日して放射能測定を支援。仏国内の原発従業員から「あなたたちが安全監視してくれるのはいいことだ」と評価された。欧州でも複数の国で原発依存を見直す機運が高まり、バテルらの活動は少しずつ実を結びつつあった。

 ◆「エネルギーはどうするんだ」と批判も

 だが、ロシアのウクライナ侵攻が風向きを急変させた。ロシア産化石燃料の供給減に伴い原発の需要が増大。ドイツは22年末に予定した脱原発の完了を延期し、原発のないポーランドも初号機導入を進めるなど、原発回帰の風潮が鮮明になっている。
 仏大統領のマクロンも初当選時に掲げた基数削減の方針を撤回し、半島内で初号機が建設中の新型原発をさらに6基増設すると発表した。「原発がなくなったらエネルギーはどうするんだ」。カフェで脱原発に向けた話をしていたバテルとルプティに、こんな批判を浴びせる市民も現れた。

 ◆理解を得るために続ける地道な調査活動

 エネルギー危機に陥った人々の不安はもっともだ。それでも2人には、安全をないがしろにしたままの原発回帰が危機の根本的解決になるとは思えない。「放射性廃棄物の処分方法が確立されなければ、将来につけを残すだけだ。ウクライナの状況が原発推進に利用されている」と憤る。
 バテルにとって昨年は、逆風だけの年ではなかった。ACROが数年越しで追及してきた乳牛放牧地の汚染状況を再処理工場が初めて認め、除染されることが決まった。2人目の孫も生まれ、安らかな寝顔を見るたび、未来を守ってやりたい思いは強まる。
 「原発がエネルギー危機を解決すると信じている人に問題点を理解してもらうには、地道な調査活動しかない」。バテルとルプティは顔を見合わせ、そう決意を新たにした。(敬称略、仏北西部ラ・アーグで、谷悠己、写真も)

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<侵攻の波紋 〜あらがう人々〜>
 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界が抱える課題を改めて浮き彫りにした。各国の現状や、課題に立ち向かう人々の姿を伝える。
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