[2020_12_04_06]「希望が見えた」 “原発銀座”から訴え続けた原告男性が喜び 大飯原発訴訟(毎日新聞2020年12月4日)
 
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「希望が見えた」 “原発銀座”から訴え続けた原告男性が喜び 大飯原発訴訟

 地元の福井県から2人が原告となった。その一人の若狭町の農業、石地優(いしじ・まさる)さん(67)が初弁論の法廷で意見陳述してから8年。裁判長が国の設置許可を取り消したこの日も、法廷に駆け付け「希望のある判決だ」と喜んだ。
 入り組んだリアス式海岸や「三方五湖(みかたごこ)」で知られる若狭町は、大飯原発から30キロ圏内に位置する。米農家の長男として生まれた石地さんは大学卒業後、地元の電機部品メーカーに勤めながら、両親の農作業を手伝ってきた。数十年前から「安心・安全な暮らしを実現させたい」との思いが強まり、原発に反対するようになった。長年にわたって米の有機栽培を続け、野菜を育てる畑でも化学肥料は使わず、農家としても安心・安全にこだわってきた。
 2011年3月11日に起きた東日本大震災。東京電力福島第1原発事故では大量の放射性物質が放出され、大切な田畑を失った人たちがいる。「何代も受け継いできた田んぼや自然と共に生きてきた農家の方たちのことを思うと、無念でいたたまれなかった」
 県内の沿岸には13基の商業用原発が集中し、特に若狭沿岸は「原発銀座」と呼ばれる。若狭で原発反対を訴え続けてきた石地さんだが、原発産業の恩恵を受けてきた地元住民が抱える心中の複雑さは理解しているつもりだ。ただ福島第1原発事故の教訓から「事故が起きれば古里を追い出される」という危機感が拭いきれず、原告に加わった。
 「将来の子や孫のために原発をなくしたい」。原発の安全性への疑問を法廷でも訴えてきた石地さん。判決後、「国や関電は判決をしっかり受け止めて、原発に頼らない道を考えてほしい」と改めて求めた。【伊藤遥】

大きなブレーキ、感無量の判決

 福井県内に住むもう1人の原告で、福井県小浜市の明通寺の住職、中嶌哲演(てつえん)さん(78)は「最近は、福島第1原発事故がなかったかのように、再稼働や老朽原発の延命をする『逆風』が吹いていたが、その後押しをしてきた行政に大きなブレーキをかけたという意味で感無量の判決だ」と評価した。また「事故は想定外に起こる。国や電力会社には謙虚さが必要だ。今回の判決はそれを体現した」と、紅葉が残る境内で静かに語った。【大島秀利】
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