[2020_08_01_07]ガルでみる日本の最大地震動 現実の地震動と原発の耐震性を比べてみました(ポスターA4版)(伊方原発広島応援団事務局2020年8月1日) |
参照元
阪神・淡路大震災と強震観測網の整備 推測と仮説の学問から科学へ 1995年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)の発生は、日本の地震学会に大きな影響を与えました。巨大地震は起こらないと信じられた地域で発生したからです。それに輪をかけて衝撃的だったのは、地震列島日本の建築物がバタバタと倒壊し、多くの人たちが犠牲になったことです。どんな巨大地震にも耐えるとされていた阪神高速道路がもろくも横倒しになった事件が象徴的です。 日本の地震学に対する不信と疑問が一挙に高まりました。一体何を根拠にして地震学が構築されてきたのか?地震学者の予測する地震の揺れ(地震動)は、本当に信頼できるのか? よく考えてみると、耐震設計のもとになる地震動の設定は、それまで推測と仮説に基づいて行われてきたことが、大きな問題点の一つだと地震学者は気がつきました。こうした反省のもとに、防災科学技術研究所(防災科研)は震災の翌年1996年から、日本全国に約20km間隔で強震計を約1000箇所設置し、実際の地震動を客観的・科学的数値として捉えようとしました。 全国強震観測網(K−NET)の誕生です。同時に推測と仮説に基づいてきた日本の地震学という学問が、観測数値とデータに基づく科学に生まれ変わることにもなりました。 2000年以降日本で発生している実際の地震動 2000年から2020年の問に、最大地震動1000ガル(加速度の単位)程度以上の地震は18例あります。(裏面参照) つまり最大地震動1000ガル程度以上の地震は、日本列島では珍しくないのです。この間一番大きい地震動は、2008年6月に発生した岩手・宮城内陸地震の時に観測した4022ガルです。1500ガル程度以上の地震も8例あり、100年に一度、1000年に一度の超巨大地震というわけではありません。 地震列島日本では、こうした地震に建築物は耐えなければならないという宿命を負っています。 K-net(強震観測網)について K−NET(Kyoshln Net:全国強震観測網)は国立研究開発法人防災科字技術研究所(防災科研)が運用する、全国を約20km間隔で均質に覆う1000箇所以上の強震観測施設からなる強震観測網。1996年(平成8年)6月に運用を開始。強震観測網K-NETおよびKiK-netの観測施設で観測された強震記録は直ちに、防災科研本所(茨城県つくば市)にあるデータセンターに送信され、当該サイトより広く一般に公開されている。 建築基準法は震度6強から7までの地震動によく耐える 大震災で建築基準は強化 日本の一般建築物の耐震基準は大地震で人と建物に深刻な被害が発生するたびに改正強化されてきました。 建築基準法は、1948年の福井地震をきっかけに1950年に制定されます。戦後間もない圧倒的な住宅不足の実情を踏まえ、人命保護と財産保全を目的に最低の基準を定めた技術法令でした。この建築基準法に重大な改正をもたらしたのが1978年の宮城県沖地震です。1981年には新耐震基準が誕生。「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さにすることを義務づけました。 震度6強〜7で倒壊を防ぎ、避難を容易にして人命を守ることに重点をおいたのです。 阪神・淡路大震災の衝撃 1995年、阪神・淡路大震災では、旧耐震建物に被害が集中し、新耐震建物の被害は全体的には多くなかったものの、震度7に襲われた地域の被害統計では、新耐震基準の建物であっても大破・倒壊の被害が発生しました。これを受けて、細部の改正が追加されるとともに、95年の「耐震改修促進法」で旧耐震基準の建物に耐震診断が奨励されるようになりました。 また2000年6月の建築基準法の改正は、阪神・淡路大震災で亡くなった方の多くが木造家屋による圧死であったことを受けて、地盤調査が事実上義務化されたほか、筋交いを止める金物や、柱の位置、耐力壁の強さで柱を止める接合金物が指定され、耐力壁の配置にバランス計算が必要となるなど、木造家屋の耐震性が強化されました。 ガルで見る耐震性 このように進化し続ける建築基準法は、地震の揺れの大きさは予測できない、いつどこで地震が起きるかを予知することすら不可能だ、ならば過去発生した地震のうち、震度7までの地震動に耐え、命を守る建築基準を設定しよう、という考え方に基づいています。実際、現行の建築基準法に基づくコンクリート建築物が震度7までの揺れに対して良く耐えることは、2016年4月の能本地震(最大震度7、最大加速度1791ガル)でも証明されました。建築基準法は、過去に実際発生した地震に耐えることが基準になっている点で科学的といえます。 気象庁の「震度」は「地震動を把握する」という点では、科学的・客観的概念ではありませんから、「震度」を科学的概念に直して考えねばなりません。その目安が次頁の国土交通省・国土技術政策総合研究所が実用的に使っている「震度、最大加速度対応表」です。 その対応表に従えば、たとえば震度7は1500ガル程度以上です。言い換えれば、建築基準法に基づく一般コンクリート建築物は最低限1500ガル程度までの地震動に耐え得る、熊本地震はそれを証明したことになります。 ところが、日本では唯一、建築基準法の制約を受けず、独自の耐震設計を守り続けている業界が一つだけあります。それが、原子力業界であり、原子力発電所(原発)です。 震度、最大加速度の概略の対応表 (国土交通省 国土技術政策総合研究所) ----------------------------------- 震度等級 最大加速度(ガル) ----------------------------------- 震度4 40〜110ガル程度 震度5弱 110〜240ガル程度 震度5強 240〜520ガル程度 震度6弱 520〜830ガル程度 震度6強 830〜1500ガル程度 震度7 1500ガル程度〜 ----------------------------------- 建築基準法に基づく一般建築と比べて 異様に低い原発の耐震基準 「基準地震動」とは? 原発の耐震基準は、一般建築基準法とは異なり各原発敷地ごとに、将来襲う最大最強の地震動を予測して、その地震動を耐震設計の基準にします。この地震動を、原子力業界の用語で「基準地震動」と呼びます。原子力規制委員会(規制委)が策定した「地震の審査ガイド」には、「原発の重要施設は基準地震動に対してその安全機能を損なってはならない」と書かれています。原子力事業者は、それぞれ自分の原発を将来襲う最大最強の地震動を、仮説と推測に基づいて予測し、規制委はその予測に合理性があるかどうかを審査し、合理性があると判断すると「審査合格」となります。 異様に低い基準地震動 ポスターには、2000年以降日本で発生した地震の地震動と規制委審査に合格した各原発の基準地震動が表示されます。これら基準地震動は、100年に一度、1000年に一度の超巨大地震に備えた、というよりも毎年のように発生する1000ガル程度の地震に耐えられるかどうかという程度です。東京電力の柏崎刈羽原発を除けば、各原発の基準地震動は1000ガル程度以下に収まっており、実際に発生する日本の地震動に対して異様に低いのです。 九州電力の玄海原発、四国電力の伊方原発に至っては、既往最大の地震動とされる4022ガルに対して1/6から1/7の耐震基準でしかありません。 何故こんなに基準地震動は低いのか? 建築基準法では1500ガル程度の地震に耐えられる、1500ガル程度が耐震基準といって差し支えありません。先端的ハウスメーカーでは、5115ガルが耐震基準でした。なぜ原発だけがこのように異様に耐震基準が低いのか?誰しも抱く疑問です。 理由は簡単です。原発の基準地震動が、未だに仮説と推測に基づいて基準地震動を予測し、現実に発生している地震動を全く参照していないのに対して、建築基準法やハウスメーカーは、現実に発生した地震動を克服しようと強化に強化を重ねてきた結果、原発の基準地震動をはるかに上回る耐震性を備えるに至ったのでした。原発業界は、「最大地震動は予測できる」と信じられていた時代の古い耐震設計思想を、阪神・淡路大震災や東日本大震災以降の今日でも頑なに守り続けているのです。 「原発の耐震性は一般建築に比べはるかに高い」と一般的に信じられていますが、実際は逆なのです。 ※引用者注:以下の表は5ページ目の図を表形式に引用者がまとめたものである。
|