[2024_03_15_03]福井 美浜原発3号機 運転停止認めない決定 大阪高裁(NHK2024年3月15日)
 
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福井 美浜原発3号機 運転停止認めない決定 大阪高裁

 17:56
 運転開始から40年を超えて再稼働した福井県の美浜原子力発電所3号機について、大阪高等裁判所は、原発に反対する住民たちが老朽化による事故の危険性などを主張して運転しないよう求めていた仮処分の申し立てを退ける決定を出しました。
 原発に反対する福井県や滋賀県などの住民7人は、福井県にある関西電力の美浜原発3号機について、設備の経年劣化に加えて、巨大地震への耐震性が不十分で重大事故が起きる危険があると主張して運転しないよう求める仮処分を申し立てていました。

 おととし12月、大阪地方裁判所が申し立てを退ける決定を出し、住民側が即時抗告していました。
 大阪高等裁判所の長谷川浩二裁判長は15日、決定を出し、この中で「運転期間が40年を超え、設備の経年劣化の懸念は否定できないが、特別点検の結果、原子炉容器などに有意な欠陥や劣化は認められず対策が不十分とはいえない」と指摘しました。
 また、地震に対する安全性については「記録上、美浜原発近くの断層を震源とする地震により無視できない影響を受けるとは認めがたく、関西電力や原子力規制委員会の判断に不合理な点はない」などと指摘しました。
 住民側が不備があると主張していた原発事故が起きた際の避難計画については「放射性物質が原発の外部に放出される危険性を明らかにできていない」としたうえで、「美浜原発が重大な事故を起こし、住民に具体的な危険があると認めるに足りない」として、いずれも住民側の主張を認めず、申し立てを退ける決定を出しました。
 原発の運転は原則40年に制限されていますが、48年前に運転を開始した美浜原発3号機は、3年前、原子力規制委員会の認可を受けて運転延長が認められ、再稼働しています。

  「国民の命守らない」仮処分申し立てた住民が紙掲げる

 大阪高等裁判所が決定を出した直後、仮処分の申し立てをした住民たちは、裁判所の前で「国民の命を守らない」とか「福島、能登の地震を考えない大阪高裁」と書かれた紙を掲げ、「ありえない決定だ」などと声をあげていました。

 住民側「せめて老朽化した原発を止めて」

 大阪高等裁判所が決定を出したあと住民側が会見を開き、代理人の井戸謙一弁護士は「能登半島地震が起きたあとなので、こちらの主張に沿った決定を期待していたが、ことごとく否定した内容となっている。重要な争点の原発と断層の距離について、規制委員会の評価だけを根拠にしていて、合理的な判断をしていない。地元の人たちは『せめて老朽化した原発を止めてほしい』という思いだ」と話しました。
 また、最高裁判所に抗告するかどうかについては、検討するとしています。
 申し立てを行った1人で、京都市に住む80歳の男性は「能登半島地震のように、地震は、いつどこで、どんな規模で起きるか分からないのに不当な決定だ」と話していました。

 関西電力「理解いただいた結果」

 大阪高等裁判所の決定について関西電力は「当社の主張を裁判所にご理解いただいた結果であると考えている。引き続き安全性・信頼性の向上に努め、今後も立地地域をはじめ、社会の皆様のご理解をたまわりながら美浜原発3号機の運転・保全に万全を期していく」とコメントしています。

  原発の「老朽化」対策

 原発を長期間運転すると放射線や熱の影響でさまざまな機器や設備が劣化するいわゆる「老朽化」が進むため、電力会社には対策が義務づけられています。
 これまでは、運転開始から30年を超える前に重要な設備が安全に使えるか評価し管理方針を作って、10年ごとに更新することや、40年を超えて運転しようとする場合は、原子炉内部の広い範囲で、超音波による検査を行ったり、コンクリートの一部を実際に切り出して強度や放射線を遮る性能を調べたりする「特別点検」を行った上で、原子力規制委員会に申請して審査を受けることとされていました。
 ただ、既存の原発を最大限活用する政府方針のもと、去年5月に、これまで最長60年とされていた運転期間を実質的に延長できるよう法律が改正されたことを受けて、原子力規制委員会は老朽化に対応する新たな制度を策定しました。
 具体的には、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに策定する管理計画に規制委員会の認可を得ることが義務づけられたほか、これまでの「特別点検」にあたる点検を、60年を超える場合も改めて実施するよう求めています。
 新たな制度は来年6月に施行されることになっていて、その時点で運転開始から30年以上が経過し運転を続けようとする原発については、これまでに延長が認められたものも含めて、施行までに改めて審査を受け認可を得る必要があります。
 国内では、12基の原発が再稼働していますが、佐賀県にある玄海原発4号機を除く11基が来年6月時点で運転開始から30年を超えるため改めて申請が必要となります。
 これまでに関西電力が福井県にある大飯原発3号機と4号機について去年12月に規制委員会に申請していて、現在、審査が行われています。
 再稼働した原発でもっとも古いのは、ことし11月に運転開始から50年となる関西電力の高浜原発1号機で、ことし12月で48年となる美浜原発3号機は3番目です。

 関西電力「運転停止の場合 1か月50億円程度のコスト増」

 関西電力によりますと、美浜原発3号機が停止した場合、火力発電所の燃料費として1か月当たり50億円程度のコストの増加が見込まれるということです。
 また、経済産業省によりますと、関西エリアの電力供給の余力を示す「予備率」は、10年に1度の厳しい暑さや寒さを想定した場合の需要に対しても、今月は11.2%と見込まれているほか、4月からの来年度も夏季・冬季ともに10%以上と見込まれ、最低限必要とされる3%は確保できる見通しです。
 また、中国、四国、九州エリアとも、電力を融通しあえることから、需給への大きな影響はない見込みだということです。

 原発の運転延長 政府の方針は

 政府は去年5月、原則40年、最長60年と法律で定められていた原発の運転期間について、原子力規制委員会の審査などで停止した期間を運転期間から除外することで、実質的に60年を超えて運転できるよう法律を改正しました。
 実際に除外の対象となる期間については、法律が施行される来年6月までに経済産業省が具体的な基準を策定することにしていて、原子力規制委員会による審査のために停止した期間のほか、今回のように、裁判所の仮処分決定で運転を停止した期間なども対象とする方針です。
 政府は、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、2030年時点の電源構成のうち原発が占める割合を20から22%程度とすることを目指していますが、これを賄うには、おおむね30基前後の原発が必要です。
 ただ、現在、国内に33基ある原発のうち、半数を超える21基はすでに運転開始から30年以上が経過し、40年を超える原発も4基あります。
 仮に建設中のものも含めすべての原発が60年まで運転したとしても、2030年代から設備容量は減り始め、2040年代からは大幅に減少し脱炭素社会への貢献は限定的になります。
 原発の新設や建て替えに向けた動きが具体的に進まないなか、政府は、既存の原発を実質的に60年を超えて運転させることで、原発の発電規模を維持したい考えです。
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