[2019_12_20_04]日立市・原子力災害避難訓練 車両不足、情報届かず(茨城新聞クロスアイ2019年12月20日)
 
参照元
日立市・原子力災害避難訓練 車両不足、情報届かず

 日本原子力発電(原電)東海第2原発(東海村白方)の過酷事故を想定した広域避難計画策定に向け、日立市は今秋、初めて原子力災害避難訓練に取り組んだ。情報共有などで課題が見つかるとともに、福島県内が受け入れ先となる避難の大枠自体が市民に十分周知されていない実態も浮き彫りになった。難題の福祉車両などの確保にめどが立たない中、市は今後も訓練を継続する考えだ。(日立支社・川崎勉)

▽かき集める
 訓練は11月4日、即時避難が必要な東海第2から半径5キロ圏内(PAZ)の住民を対象に実施された。
 「原電から事故発生の連絡がありました」
 市役所4階で開かれた災害対策本部会議で、小川春樹市長が切り出した。
 事故の進展を踏まえ、市は矢継ぎ早に、自力避難が困難な避難行動要支援者や一般住民に避難指示を出した。
 同市水木町2丁目の水木交流センター。福祉車両5台が次々に到着する。
 同センターは放射性物質の侵入を防ぐため、内部の気圧を高める陽圧化装置を備える。水や食料なども備蓄。市はPAZの要支援者の一時的な屋内待避場所として想定する。
 要支援者役の市職員を乗せた車いすやストレッチャーがセンター内に運び込まれた後、職員が同装置を作動した。
 「陽圧化は効果がある。1週間ほどは、ここにいられる」。視察に訪れた県原子力安全対策課の幹部はつぶやいた。
 だが、移動に不可欠な福祉車両確保の見通しは立たないままだ。住民アンケートに基づき、市はPAZで61台の福祉車両が必要と試算するが、訓練で使った5台は全てレンタカー。ようやく県内全域からかき集めた。
 「福祉車両の確保は難しいと実感した。どうすればいいか大きな課題だ」。市原子力安全対策室の悩みは深い。

▽認識にズレ
 訓練にはPAZの住民約130人が参加。3カ所の一時集合場所からバスで、福島県内の避難所に見立てた市役所に向かった。
 市は避難所受付の混雑回避のため、バス車内で世帯ごとに氏名などを記載してもらう方法を取り入れた。
 災対本部対応を含め、市は「一連の手順が確認できた」(同室)と総括する。
 一方で課題も浮上した。現場で対応した職員から、事故状況に関する情報が届かず、住民に説明できなかったとの指摘があった。同室は「災対本部はライブ中継で現場の様子を見ており、分かったつもりになっていた。本部と現場で認識のズレがあった」と反省を口にする。
 今後は災対本部で把握した事故情報を現場の職員や住民に伝達する方法として、スマートフォン向け地域情報アプリ「ひたちナビ」の活用も検討する。「事実はきちんと伝えるべき」(同室)と、積極的に情報提供する考えを打ち出す。小中学校から一斉に避難するケースで、保護者にリアルタイムで出発したかどうかなどを伝えることなども視野に入れる。

▽周知不十分
 「避難先が決まっていると知って良かった」。訓練に参加した同市石名坂町、会社員、高橋仁さん(62)は訓練後に避難計画の説明があり、意義があったと語った。ただ、実際の事故時に渋滞が発生し、混乱する可能性には懸念を示した。
 市は訓練参加住民に対し、アンケートを実施。避難計画の説明について「聞いたことがない」が45・3%に上り、市はショックを隠せない。
 「周知が足りなかった。避難先がどこかを知っているかどうかで(避難に向けた)第一歩が違ってくる」(同室)。訓練の対象を変えるなどしながら避難計画の説明機会をつくり、多様な方法で周知を図りたいと強調する。
小川市長は「教訓の多い訓練になった」と総括。福島県内への避難を含めて引き続き訓練を行い、計画策定に生かす考えを示した。
茨城新聞社

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