[2019_11_19_01]古賀茂明「関電裏金発覚後でも、金品をもらう余地を残そうとする大手電力」〈週刊朝日〉(アエラ2019年11月19日)
 
参照元
古賀茂明「関電裏金発覚後でも、金品をもらう余地を残そうとする大手電力」〈週刊朝日〉

 思わず目を疑った。
──北陸電、歳暮受け取り禁止 関電問題受け 東北電は届け出制──
 11月1日の日経新聞記事の見出しだ。

 電力会社は、長い間地域独占を認められ、何も努力せずに利益が保証されてきた。消費者は、どんな価格でも電力を買わざるを得ないという弱い立場にある。だから、経済産業省が、その価格=電気料金が適正かどうかを審査して認可する仕組みになっている。
 電気料金は、かかったコストをそのまま電気料金に反映させる総括原価方式でコストを計算し、それに電力会社の利益を上乗せして決まる。コスト削減しなくても損をしないという総括原価方式の理不尽さは有名だが、コストに上乗せされる利益保証の仕組みはあまり知られていない。複雑な計算で決まるのだが、基本的には、高い金額で電力設備に投資したら、それに比例して利益を保証される。つまり、原発を造る時、コストをかければかけるほど儲かる。酷い話だ。
 もちろん、前述の通り、電気料金を経産省が厳格に審査しているはずだが、実際には電力会社の言いなり。単価に切り込むことはない。電力会社やその下請け企業などには経産省からたくさんのOBが天下りしていて、彼らを養うために、水増しされた単価で儲かる過剰利得分を下請けの隅々までばらまく必要がある。だから、本気の査定は行われない。大手電力会社が決めた電気料金に国がお墨付きを与え、それが税金のように庶民から徴収される。
 さらに、今回の関西電力の事件は、そこで生み出された裏金が、電力会社や政治家に還流していることを明らかにした。
「常識の範囲内」のものは除いて社内調査したら、金の小判や50万円のスーツ仕立券など、確かに常識の範囲外の「多額の金品」をもらって、「どうしようか迷ったが」「返そうとしても返せなかったので」仕方なく保管していたことがわかったのだ。関電トップは賄賂ではないと言い訳した。
 そこで冒頭の記事だ。

 関電事件を受けて大手電力会社がコンプライアンス(法令順守)規則を見直した。北陸電力は全社員で中元・歳暮の受け取りを禁止するそうだ。世の中の常識に合致している。 一方、東北電力は「常識の範囲を超える贈答や接待の授受を禁止」「判断に迷った場合の相談窓口を設置」「多額の金品を受け取ったら届け出」にする。
 Jパワーは「歳暮や中元は原則受け取らない」が、「受け取らざるを得ない場合は上司に報告」だそうだ。東北電には、「常識の範囲」とは何か聞いてみたいし、Jパワーには、関電における森山栄治元高浜町助役のような「闇のドン」がいるのかと突っ込みたくなる。
 この期に及んで、何とかして金品をもらう余地を残そうとする大手電力会社の姿勢は、彼らも関電と同じだという疑念をさらに深める結果となった。こんな会社が原発を動かしていると思うと背筋が凍る。
 電気事業法第27条では、経産大臣は電力会社に対して、運営改善措置命令を出す権限が与えられている。経産相は「一切の金品・接待・便宜供与の接受禁止」を直ちに電力会社に命令するべきだが、そんなことは期待できない。そもそも共犯者である経産省に監督権限を与えていることが問題の根本原因だ。
 彼らの権限をはく奪し、新たな独立規制委員会を作るか、公正取引委員会にその権限を移管することを提言したい。

※週刊朝日  2019年11月29日号
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