[2019_10_16_03]関電問題を待ち受ける今後は…賠償責任に上場廃止の可能性も(AERA2019年10月16日)
 
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関電問題を待ち受ける今後は…賠償責任に上場廃止の可能性も

 関西電力の役員らが3億円超の多額の金品を受け取っていた問題。幹部と関電には、司法の捜査や損害賠償、上場廃止の議論が待ち受ける。AERA 2019年10月21日号に掲載された記事を紹介する。
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「預かっていただけ」
 岩根茂樹社長(66)の説明を一言で言えばそうなる。確かに、一部はそうだった。関電によると、受け取った金品のうち、4割にあたる1億2450万円分は、国税庁の調査が入る前に自主的に森山氏に返却していたという。だが、5割の1億5908万円分は税務調査を機に返還。スーツなど1割の3487万円分は今も返していない。
 企業法務に詳しい遠藤元一弁護士(東京霞ケ関法律事務所)は「使っていなかったというだけで、金品を収受したことに変わりはない。受け取ったときに異常だと気付いたはずで、直ちに社内調査、必要に応じて取締役会への報告等、様々な方法で組織的な対応に着手すべきで、少なくても個人レベルでとどめていることは適切ではなかった」と解説する。
 岩根社長は当初、「コンプライアンス(法令や社会規範の順守)にはふれていたが、違法性はないということで取締役会に説明しなかった」と違法性を否定。昨秋に岩根社長が月額報酬の2割を1カ月間返上、1億1千万円を受け取っていた豊松秀己副社長(当時)が2割を2カ月返上し、4千万円を受け取った森中郁雄常務執行役員(当時)は厳重注意といった処分だけで幕を引こうとした。
 だが世論の反発は大きく、岩根社長は9日に開いた3回目の会見で、八木誠会長ら6人が同日付で辞任し、自らも新たに設置した調査委員会の結果が出た段階で辞めると発表した。
 ただ、今回の金品受領は7人が辞任して済む問題ではない。そもそも、関電の原発マネーが金品の原資となっており、いわば今回の授受は「原発マネーの還流」だったとの指摘もある。
 まず幹部らは、取締役らが自分の利益のため会社に損害を与えた場合に適用される会社法の特別背任罪で立件される可能性がある。立件に向けては、森山氏が関係する会社への工事発注が金品の見返りに当たるかどうかが焦点で、警察・検察がどう動くのか注目される。
 また、株価の大幅な下落や関電の損害が明らかになった時点で、株主代表訴訟も予想される。経営陣は、多額の賠償責任を負う可能性がある。内部管理体制の構築や情報開示で明確な法令違反が見つかれば、東京証券取引所が関電を、上場廃止の前段階とも言える「特設注意市場銘柄」に指定することも考えられる。
 最も深刻なのは、国内外の投資家に対して、日本のコーポレート・ガバナンス全体への信頼が失われたことだ。
 06年には労働者の保護を盛り込んだ公益通報者保護法が施行され、08年には内部統制報告制度がスタートした。15年には金融庁のコーポレートガバナンス・コードの適用も始まり、この十数年間で、上場企業の内部統制やリスク管理体制、情報開示の水準は格段に上がった。関西電力もCSR行動憲章を策定し、コンプライアンスの徹底を打ち出している。
 関西電力は社外取締役に元三菱UFJフィナンシャル・グループ会長ら4人、社外監査役にも元大阪高検検事長ら4人と日本のエスタブリッシュメントをそろえる「優等生」のはずだった。その関電で起きた「ガバナンス崩壊」で、日本のコーポレート・ガバナンスやコンプライアンスは地に落ちたと言っていい。
(朝日新聞経済部・加藤裕則)
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