[2019_10_15_04]古賀茂明「封印された関電疑惑の政治家ルート」〈週刊朝日〉(アエラ2019年10月15日)
 
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古賀茂明「封印された関電疑惑の政治家ルート」〈週刊朝日〉

 関西電力の不正疑惑が拡大している。野党支持層には、臨時国会で徹底追及すれば、関電幹部だけでなく、稲田朋美元防衛相や世耕弘成前経産相など安倍首相の側近議員にも疑惑が広がるのではと期待する向きもある。これにより安倍政権を追いつめられるのでは、というのだが、今週は、これとは逆に、政治家ルートはほぼ完全に封印されたという、やや大胆な私の推論を紹介したい。
 本件は、金沢国税局による税務調査から始まった。2018年1月から2月頃までには、調査対象が関電側にも広がった。菅原一秀経産相は、今回事件が公表されるまで、関電を所管する経産省は何も知らなかったと述べているが、だからと言って、官邸も知らなかったということではない。
 関電側に金品を提供した森山栄治元福井県高浜町助役から国税局が押収したメモの中に政治家の名前が入っていたのは確実だろう。その情報はおそらく昨年2月前後には、佐川宣寿国税庁長官(当時)まで上がった可能性が高い。18年2月前後といえば、朝日新聞が森友事件の公文書改ざんをスクープした時期に重なる。当時、佐川氏は、刑事訴追を避けるために必死になっていた。佐川氏から見れば、よりによってこの時期に、政治家が絡む原発マネーの案件に手を付けるなどあり得ない話だ。政治家に波及しないようにとの厳命を下したと考えるべきだろう。
 一方で、とんでもないアンタッチャブル案件に手を付けた金沢国税局長は、森山元助役の調査に入る時点で、当然立件を視野に入れていたはずだ。
 そうでなければ調査を拡大する意味がない。森山氏の極秘メモの入手後、関電に調査を広げる前に、大まかな方針を立てる前提として、検察当局に相談したはずである(現に、検察は立件を断ったという報道もある)。
 しかし、検察は完全に安倍政権のポチに成り下がっているのは周知の事実。おそらく、すぐに官邸に「国税がばかなことをやりました。何とか政治家には広がらないように抑えていますが」とご注進に及んだはずだ。財務省が官邸に知らせていなくても、また、経産省が蚊帳の外に置かれていても、検察・法務省経由で官邸はかなり早い段階で事態を把握していた可能性が高い。
 それから今日まで約1年半。官邸は当然、内部告発者の出現も含め、あらゆる事態を想定して対策を練ってきただろう。
 情報公開請求をしても、税務調査の資料は不開示だ。さらに、政治家の名前が出ている資料は、立件されないからという理由で、既に不要文書として「適切に処理」(すなわち廃棄。ただし、実際には開示対象にならない個人文書として保存)されている可能性も高い。
 実は、国税の調査が表面化する18年2月前後、金沢国税局長が辞職を申し出て、国税庁長官官房付に異動。3月には辞職したそうだ。税務申告の繁忙期の辞職とは極めて異例なことに見えるが、本件に手を付けた責任を取らされたと考えれば、腑に落ちる。
 関電の発表後の菅原経産相や菅義偉官房長官の極めて素早い対応も異例だ。間髪を入れずに関電を強く批判し、他電力などにも調査を指示した素早さは、官僚だった私から見ても驚きだった。かねて準備していたとしか考えられない。
 守りに入った安倍政権を突き崩すのは難しい。米国トランプ大統領のウクライナ疑惑のように、第二のホイッスルブロワー(内部告発者)の登場を待つしかないのかもしれない。
週刊朝日2019年10月25日号
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