[2019_10_08_11]「汚染水を飲んだ」政治家に、「飲ませた」と言われたジャーナリストが見た「今も変わらぬ政府・東電の姿勢」_寺澤有(ハーバービジネスオンライン2019年10月8日)
 
参照元
「汚染水を飲んだ」政治家に、「飲ませた」と言われたジャーナリストが見た「今も変わらぬ政府・東電の姿勢」_寺澤有

  「汚染水」を飲んだ直後の園田康博政務官(当時)
 福島第一原子力発電所で発生し続ける放射能汚染水。環境相が、トリチウムを含んだ汚染水を「海に放出するしかない」と言ったことで、2011年10月31日に当時の園田康博内閣府大臣政務官がトリチウム入り汚染水を飲んだことが再び話題になっている。それは原発事故の234日後のことだった。(参照: 内閣府政務官、低濃度汚染水の浄化水ゴクリ フリー記者の質問に応え|2011/10/31日経新聞

 当時の報道を見てみよう。2011年11月2日付の『東京新聞』朝刊は「園田政務官 汚染水を“飲用”」「記者挑発にパフォーマンス」という見出しで、以下のように報道している。
〈政治家は飲食することで「安全」をアピールしたがる。内閣府の園田康博政務官は先月三十一日の記者会見で、東電福島第一原発にたまる低濃度の放射能汚染水を飲んでみせた〉
〈フリージャーナリストの寺沢有氏が同月十三日の会見で「東電が飲んでも大丈夫と言っているのだから、飲んでみませんか」と発言。園田氏は「要望があれば飲む」と請け負った〉
 筆者の発言がもとで、園田氏が汚染水を飲んだのは間違いない。しかし、それは「売り言葉に買い言葉」という単純な話ではなかった。背景に情報公開をめぐるフリージャーナリストたちと政府・東電との攻防があったからだ。
 その攻防を本記事でふり返るのには意味がある。現在、汚染水の海洋放出の安全性が議論されていて、しばしば園田氏のパフォーマンスが引き合いに出される。しかし、「汚染水を飲んだ(飲ませた)」という結果のみが論じられて、そこに至る過程は論じられない。実は、その「過程」のほうが汚染水問題の本質をよく表している。

 「口に入れても大丈夫」は東電幹部の発言

「汚染水」が入っていたボトル は、筆者が園田康博政務官から譲り受けて、現在も保管している

 2011年10月7日、東電は福島第一原発にたまっている「低濃度」とされる汚染水を敷地内の山林へ散水し始めたと発表した。
 10月10日、フリージャーナリストの田中昭氏が東電の記者会見で、「我々、報道機関は福島第一原発の現地取材を拒否されている。本当に『低濃度』か確かめようがない」と追及した。すると、東電幹部は「(汚染水は)口に入れても大丈夫」と発言。これに対して、田中氏は「それならば、実際にコップに入れて飲んでもらいたい」と迫った。しかし、東電幹部は「飲料水ではないので……」と渋った。
 当時、政府・東電の共同記者会見が開かれていたが、田中氏は「実績がない」という理由で参加を拒否されていた。そこで、筆者が10月13日の共同記者会見で園田氏に質問した。
 「O157の感染源とされた、かいわれ大根を当時の菅直人厚生大臣が食べたり、福島第一原発事故後も、枝野幸男官房長官が(福島県)いわき市産のイチゴやトマトを食べたりして安全性をアピールした。園田政務官は『低濃度』とされる汚染水をコップに入れて飲むつもりはあるか」
 園田氏は、一瞬、困惑の表情を見せたあと、開き直るような感じで、「パフォーマンスということではなく、しっかり飲水させていただく」と答えた。
 「えっ、飲むの!?」
 筆者も含めて、記者会見場から驚きの声が漏れた。

 飲水発言後、初めてトリチウムの存在が明らかに

園田康博政務官の記者会見の手元資料 。「トリチウム」と手書きされている

 園田氏の飲水発言を受けて、フリージャーナリストたちは汚染水ひいては福島第一原発の情報公開に最大限利用しようとした。たとえば、2011年10月17日の共同記者会見で、筆者は次のように提案した。
 「『汚染水をミネラルウォーターにすり替えた』と言われないため、園田政務官が福島第一原発へ行き、そこで汚染水を飲むしかない。我々も同行取材する」
 園田氏は「現地で飲水することも検討する」と答えた。くり返しになるが、当時、報道機関は福島第一原発の現地取材を拒否されていた。
 フリージャーナリストたちの追及が実を結んだのは10月24日。共同記者会見で汚染水の分析結果が公表されたのだ。それによると、トリチウム以外の放射性物質は検出されなかったという。
 「なんだ。今と変わらないじゃないか」と思った読者もいるはずである。ところが、政府・東電が汚染水に含まれるトリチウムの存在を明らかにしたのは、このときが初めてなのだ。
 共同記者会見終了後、園田氏の手元資料を譲り受けた。「5/6号滞留水RO処理後の分析結果」という資料には、元素記号「3H」がわからなかったらしく、「トリチウム」と手書きで記入されていた。
 このとき、フリージャーナリストたちが園田氏に汚染水を飲むよう迫らなければ、トリチウムの存在は当分明らかにされなかったのではないか。

 汚染水問題の本質は、政府・東電の情報公開の姿勢

 結局、2011年10月31日、園田氏は共同記者会見で「汚染水」とされるものを飲み、フリージャーナリストたちが要求していた福島第一原発現地での飲水と同行取材は実現しなかった。
 しかも、飲水は記者会見場に記者クラブメディア(新聞、テレビなど)のみを呼んで行われた。筆者が記者会見場に入ると、園田氏が空になったコップを指差し、「飲んだぞ」という表情をした。
 以上、振り返ってきたとおり、政府・東電の情報公開の姿勢は非常に不信感を持たせるものだ。それは現在も変わらない。ここに汚染水問題の本質があると私は思う。

<文・写真/寺澤有>
寺澤有
フリージャーナリスト。出版社「インシデンツ」代表。9月27日にe-book『政務官が汚染水を飲むまで』を上梓)。その他の著書に『ドキュメント! 倒産した出版社から未払い印税を回収した話』、『こうして監視社会は始まった』、『裁判所が考える「報道の自由」』、『記者クラブとは』、『最高裁が隠蔽するGPS捜査令状報告書』』(ともにインシデンツ)など。


KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_: