[2012_11_14_02]使用済み核燃料貯蔵 電力7社「代替」手つかず 規制委 プール外保管促す コスト増懸念 「乾式」へ早急対応を(北海道新聞2012年11月14日)
 
 東京電力福島第1原発事故を受け、原子力規制委員会は原発の原子炉近くの燃料プールで保管されている使用済み核燃料を別の安全な場所で貯蔵するよう電力各社に促す方針だ。しかし原発を持つ10社中、北海道電力を含む電力7社が代替の保管方法を決めていないことが北海道新開の取材で分かった。

 コスト増懸念

 国内17原発の燃料プールの貯蔵量は約1万3千トン。使用済み核燃料は青森県六ヶ所村の再処理工場に送られ、再利用されることになっているが、同工場はトラブル続きで1997年の完成予定がずれこみ、いまだに運転のめどがたっていない。このため各原発の燃料プールの貯蔵量は右肩上がりで増えている。
 福島の事故では原子炉建屋が爆発した4号機の燃料ブールで注水ができなくなり、最悪の場合、首都圏住民の避難も迫られる事態になった。一方で建屋外側で燃料の一部を保管していた空冷式の金属容器(乾式容器)に損傷はなかった。
 このため旧原子力安全・保安院は今年3月、乾式容器などによるプール外貯蔵を検討課題に挙げた。原発規制を引き継いだ原子力規制委員会の田中俊一委員長も10月の記者会見で「乾式容器に入れるのがより安全」と発言。政府の革新的エネルギー・環境戦略は原発敷地外を念頭に数十年以上保管する「中間貯蔵」の推進も掲げた。
 だが、電力10社中、燃料プールの代替策を計画。実施しているのは東電、日本原子力発電、中部電力の3社だけ。東電と日本原電は両社の出資で、来年10月に青森県むつ市で中間貯蔵施設を稼働予定。中電は浜岡原発(静岡県)で乾式貯蔵を計画している。
 これに対して、北海道電力など燃料プールに余裕のある社を中心に対応の鈍さが目立つ。北電泊原発(後志管内泊村)では、燃料プールの貯蔵量は収容限度の40%の400トン。同社は田中委員長の発言について「具体的指示はない」と静観する。中間貯蔵も「長期的には選択肢の一つ」としつつ「当面必要ない」と答えた。
 ほかの東北、北陸、関西、中国、四国、九州の電力6社も「現状の管理方法で安全性は確保されている」(北陸電力)などと、代替保管策を決めていない。
 各社がプール外貯蔵に慎重なのは、乾式容器の製造などに各原発で数百億円以上かかる事情もあるようだ。また、関電は福井県内の大飯、美浜、高浜の3原発の中間貯蔵を検討しているが、候補地の和歌山県が打診を断るなど立地の難しさも壁となっている。
 規制委は来年策定する原発の新安全基準で燃料貯蔵のあり方も盛り込む方針。田中委員長は各社への代替保管の指示、要請を前倒しすることも示唆している。

 「乾式」へ早急対応を

 <解説>東京電力福島第1原発事故は原子炉付近のプールで使用済み核燃料を保管し続けることの危険性を見せつけたが、原発を再稼働できず、厳しい経営を続ける電力各社は代替策の具体化に二の足を踏んでいる。事故を踏まえた燃料の安全な保管に向け、原子力規制委員会の指導力が問われている。
 取材への各社の回答で、乾式貯蔵など代替保管策の有無は、燃料プールに余裕があるかどうかで分かれた。余裕がなければ、仮に原発が再稼働しても使用済み核燃料の保管場所がなくなる。再稼働のためには、他の保管方法を考えなければならないというわけだ。各社の判断の基にあるのは「安全」よりも「経営」の論理だ。
 だが、福島の事故は、使用直後なら数秒で人が死に至るほどの放射能を持つ使用済み燃料の脅威を突きつけた。原子炉建屋内のプールが数十メートルの高さにあったことも、緊急対応を難しくした。
 米国、ドイツなどでは既に原子炉建屋外の乾式貯蔵が主流だ。米国の専門家委員会は福島の事故に関して、「乾式容器による原子炉外の貯蔵は機能を維持した」と総括。プール外貯蔵の重要性を強調している。
 規制委の田中委員長は乾式貯蔵の必要性を説く一方、「(各社への)命令とか指示になるかどうかは、もう少し検討する」と今後の対応に含みを残す。ただ、福島の教訓を生かすには、一定の強制力を持った対応が迫られる。(須藤真哉)
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