[2012_10_12_01]科学スコープ 南海トラフM9想定 政府、震源域を最大に 名古屋大など 従来のままで津波試算(東奥日報2012年10月12日)
 東日本大震災のマグニチュード(M)9という規模は、政府や地震の研究者は誰も想像していなかった。南海トラフ沿いの巨大地震で、そうした想定外″を繰り返してはならない。そのためには南海トラフで過去最大を上回るM9級の地震がどのような場合に起きるかを想定する、という難しい研究に取り組まざるを得ない。政府が8月に公表した新想定は、震源域を最大限広げた。一方、名古屋大などの研究グループは、従来の領域でも政府の新想定に迫る津波がありうるという試算をまとめた。
 地震の想定や長期評価は、過去の地震を基に考えるのが基本。南海トラフ沿いで過去に発生した最大級の地震は東海・東南海・南海の「3連動地震」で、1707年の宝永地震(M8・6)だ。
 内閣府の中央防災会議は新たな想定で、この経験則に反し、領域を東は富士川河口断層帯の北端まで、西は九州・日向灘の南西方向に広げた。2003年に発表した想定領域の約2倍。こうした地震の例は、当然ながら確認されていない。

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 同会議の専門家会合で新想定の策定に携わった東京大の古村孝志教授は「起きたことがない地震のモデルをつくるのは正直難しい作業」と明かす。世界的に見てもM9級の地震は数例しかなく、今後さらに研究が必要と古村教授は指摘する。
 最大級の地震を想定するのは、必要な対策を事前に検討できるようにするためだ。ただ政府の新想定地震の発生頻度は数千年に1度程度。一方、最大級″ではなくなったとはいえ、宝永地震級の災害は十分大きく、数百年周期と「高頻度」(古村教授)にやってくる。政府や自治体は、どちらにも対応できる対策を取ることが必要だ。
 宝永地震を基に、新たな観点からM9級地震の試算をしているのは川崎浩司・名古屋大准教授らだ。政府の新想定は地震が起きる領域を大幅に広げたのに対し、川崎准教授らは03年発表の想定領域で、M9の地震が発生した場合を想定した。
 領域の面積は同じままで規模を大きくしたため、海面の盛り上がり量は約3倍になると仮定。神奈川県から高知県にかけての沿岸部に押し寄せる津波の高さを計算した。
 高知県黒潮町では最大で26メートル超、三重県熊野市で10メートルを超えるなど、政府の新想定には及ばないが03年の政府の想定を大幅に超えた。また静岡県掛川市では約2・1メートルと、政府の新想定を上回る場所もあったという。

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 政府の新想定は、発表時に「発生確率は極めて低い」とわざわざ注釈がついた。現実味が低いと受け取られている可能性もある。これに対し川崎准教授らの領域は、宝永地震の「再現」を念頭にしたものだが、狭い領域でM9扱が起き得るかどうかは議論がある。
 川崎准教授らは三重県と協力し、津波の詳しい高さや浸水域を算出。「一つのシナリオとして検討しておくことも重要ではないか」と話す。さらに政府の新想定を踏まえた検討を続けている。
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