[2012_05_22_01]津波石は大災害の証人 世界初、「繰り返し」証明 (東奥日報2012年5月22日)
 沖縄県・宮古島の西方に浮かぶ下地島(しもじしま)ー。青い海を望む切り立った崖の頂上(標高12・5メートル)に、見上げるような巨岩がぽつんと載っている。
 高さ約11・5メートル、周囲約60メートル、推定重量約5千トン。帯を締めたようなくびれがあることから現地で「オコスゴビジー(帯大石(おびおおいし))」と呼ばれるこの巨岩は、大津波が海中から運び上げた。
 加藤祐三琉球大名誉教授(防災地質学)は「世界最大の津波石だ。付着していたサンゴ化石の年代や文献から、1771年に先島諸島を襲った明和の大津波で打ちあげられた可能性が高い。津波石は過去の大災害を語る証人」と話す。
 くびれは波の浸食跡で、もとは海面に近い崖の一部だつたとみられる。
 先島諸島は、津波石研究の先進地だ。これまでに200個以上の年代が測定され、約2千年前にも巨大津波があったことが判明。過去約5千年間に、5〜6回の大津波が到達した可能性も指摘されている。
 後藤和久千葉工業大上席研究員(地質学)は「津波石で過去の津波の繰り返しを明らかにしたのは世界初。将来、各国の津波の歴史を解明できるかもしれない」と話す。
 ボーリング調査に適した湿地が少なく、1970年代の土地改良で地層がかく乱された石垣島などは津波堆積物の検証が難しく、早くから津波石研究が注目されていた。
 「問題は津波石かどうかの見極め方。丘から斜面に転落した岩塊を津波石と誤れば、津波の遡上(そじょう)高を過大推計することになる」と加藤名誉教授。
 津波石の大半はサンゴ礁片で、数十万年前にサンゴ礁が隆起してできた陸の岩塊とそっくりだ。
 加藤名誉教授は両方を科学分析して結晶構造の違いに気づき、分布状況から明和の大津波の最大遡上高を約30メートルと考えた。
 台風などの暴風波が運んだ岩塊との区別も進んでいる。後藤上席研究員は2010年、明和の大津波に直撃された石垣島東岸で海底地形や岩塊の重量などを調べ、水理学的視点で分類を試みた。
 「津波は波長が長いため石を押す力が持続し、島を囲む幅1キロのサンゴ礁を渡りきる。一方、暴波は波長が短いため、岩塊は水深が浅くなるサンゴ礁の外縁(礁縁)から300メートル以内で止まってしまう。海岸の岩塊はすべて津波石」と話す。
 石垣島の東方では、同心円状に成長して球体となるハマサンゴの直径が最大約6メートルだという。「だいたい250歳。この海域のサンゴは明和の大津波で一度、壊滅したのではないか。津波の度に、破壊と再生を繰り返してきたのかもしれない」

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先史時代から、何度も津波に襲われた先島諸島。過去には島々の社会や文明が消えるほどの影響があったことも分かってきた。文献や伝承が残る明和の大津波を手掛かりに、島人たちが直面してきた災害の歴史に迫る。
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