[2012_05_17_02]巨大地震「大すべり」、本県東方沖なら 津波 最大20メートル超も 弘大・佐藤教授「詳しい検討必要」(東奥日報2012年5月17日)
 弘前大学理工学部地球環境学科の佐藤魂夫教授(63)=地震学=は、東日本大震災を引き起こした巨大地震(2011年東北地方太平洋沖地震)の際に宮城県沖のプレート境界で局所的に起こった「大すべり」や「超大すべり」が、仮に本県東方沖を震源域とする巨大地震で起こった場合、本県に最大で20メートル以上の津波が押し寄せる可能性があると指摘している。ただ、「大すべり」や「超大すべり」が宮城県沖以外の場所で起きるかどうかは分かっておらず、佐藤教授は「最大クラスの津波想定モデルの一つとして、さらに詳しい検討を進める必要がある」と話している。        (大友麻紗子)

 佐藤教授は8日、同大で行われた震災研究連絡会で、本県や他地域における最大クラスの地震・津波想定の検討状況を紹介した。
 「すべり」とは、地震が発生する際に起きる断層のずれ。過去の地震研究では、断層の広い面積が均質にすべると考えられていた。しかし、昨年の巨大地震では、日本海溝付近のプレート境界の浅い部分(深さ20キロ以浅)で、断層の平均すべり量に比べ局地的に2倍以上すべる「大すべり域」と4倍程度すべる「超大すべり域」があったことが東京大学地震研究所などの研究で分かった。
 佐藤教授は昨年の巨大地震について、国土地理院の衛星利用測位システム(GPS)観測による陸地の地殻変動データや、海上保安庁と東北大の海底地殻変動データを用いてすべり量を推定した結果、「大すべり」や「超大すべり」が存在する分布図が得られた。仮に分布図を宮城県沖から本県東方沖の断層に平行移動したような地震が発生すれば、本県でも昨年の巨大地震と同様に20メートル以上の津波が起きることが考えられるという。
 「大すべり域」と「超大すべり域」の存在を反映した津波の想定モデルは、内閣府の有識者会議が今年3月末に発表した南海トラフ地震の最大級地震想定でも採用されており、これまでの想定を大きく越える20メートル以上の津波発生の可能性が示された。
 本県東方沖の津波高想定については、東北電力が4月、東通原発を襲う津波が満潮時で最大10・1メートルになるとの想定を公表した。日本海溝沿いの四つの断層が連動した地震を想定し、すべり量を従来モデルの一律1・5倍にして計算しており、「大すべり域」や「超大すべり域」の存在は考慮していない。
 一方、昨年の巨大地震ほどの規模の地震は世界でも事例が少なく、「大すべり」や「超大すべり」が宮城県沖以外で起きる確率は分かっていない。佐藤教授によると、大すべりや超大すべりが起きるメカニズムを解明するには海溝付近の海底地殻変動データを積み重ね、最低10〜30年の長い期間観測しなければならないという。
 佐藤教授は「発生確率が分からない中で、防災対策をどう進めるか。20メートルという数字だけが独り歩きするのではなく、国民が納得する形で検討を進める必要がある」と語った。
KEY_WORD:HIGASHINIHON_:HIGASHI_TOUHOKU_:TSUNAMI_: