[2012_01_27_02]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 番外編 「原発推進者の無念」著者 北村俊郎さんに聞く上 事故の要因 津波対策 東電が先送り(東奥日報2012年1月27日)
 日本原子力発電に入社し、原発と共に半生を過ごした日本原子力産業協会参事の北村俊郎さん(66)は、東京電力・福島第1原発の事故の影響で一転、被災者となった。自宅が同原発近くの福島県富岡町にあったからだ。周辺地域の放射能汚染のため帰宅できなくなり、避難所や借り上げ住宅で寝起きする日々。その中で書き上げたのが「原発推進者の無念〜避難所生活で考え直したこと」(平凡社新書)。原発のもたらす便益だけでなく、災禍も自ら体験し、今も福島県須賀川市の借り上げ住宅で避難生活を送る北村さんに事故の背景や教訓などを聞いた。

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−今回の事故を引き起こした要因は何か。
 「過去の大津波の調査結果が報告され、危険であることを指摘されながらも東京電力がこれを真剣に受け止めず、問題を先送りしたことだ。
 日本原子力発電が情報を受けて、昨年度、東海第2発電所(茨城層東海村)に小規模ながら、大切な設備の周囲に防潮堤を構築し、今回の津波でも浸水を防ぎ、冷温停止に成功しているのを見てもその差は明らか。
 東京電力に大きな経営判断ミスがあった。国も東京電力に応急的な対応を指示すべきだった。国の役人の先送り体質、責任逃れ体質も感じる」

−福島第1原発事故は「人災」との声もある。
 「東京電力だけでないが、安全を確率論で考えてしまったことに大きな問題がある。大地震や大津波で重要設備が破壊される確率、原子炉がメルトダウン(炉心溶融)するような事故の確率は、小さくてもいつかは起きる。しかし、万一起きた場合の被害は甚大なことに気付かなかった。電力会社は発電所のメンテナンスを外部の業者に大きく依存していてしかも多層構造になっている。電力会社の社員が運転操作以外の現場のことについてしっかりと把握できていない傾向があった」

−電力会社は事故対応訓練を実施していないのか。
 「運転員のシミュレータT訓練はよくやっていたが、各分野の技術者を集めた総合的な事故訓練はあまり行われていなかった。フランスのように、電力会社とメーカーが協力し、各専門分野の技術者を集め、シナリオなしの抜き打ち訓練をし、事故対応能力向上に努めておくべきだった」

−東京電力は米国製の原発をそのまま導入した。
 「国と電力会社はわが国に原子力発電を導入するに当たり、あまりにも前のめりに開発を急いだ。米国で開発されたばかりの、米国の国情に合った極めて経済合理性の高い原子炉をそのまま夕−ンキー(一括発注)で導入し、そのまま40年運転し続けた。その間に米国でもマークT型格納容器(福島第1原発1〜5号機に導入)の問題、ヨーロッパでのベント用フィルターの追加の問題などが取り上げられたが、これらも結局、見送られた」

−核燃料サイクルは実現していない。
 「放射性廃棄物の処理処分問題は『トイレなきマンション』と批判されながらも40年間解決できなかった。問題を先送りしつつ、発電所はどんどん大型化して電気を出すことに専念し、宿題″に力が入らなかった。核燃料サイクルの問題も、高速炉開発がうまくいかないとプルサーマルでプルトニウム余剰問題を切り抜けようとするなど、過去のツケを清算することをしなかった」     (福田悟)

<きたむら・としろう 1944年滋賀県生まれ。67年、慶應大卒業後、日本原子力発電に入社。同社の東海第1、第2原発、敦賀原発などの現場を渡り歩いたほか、理事社長室長、直営化推進プロジェクトチームリーダーなどを歴任>

 ▽お断り 記事の内容は北村さん個人…の意見で、日本原子力産業協会の見解でこはありません。聞き手の本紙報道部次長・福田悟は昨年末、急逝しました。この連載記事は生前取材し、執筆したものです。
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