【記事78740】噴火を雷で知る(島村英紀2018年12月21日)
 
参照元
噴火を雷で知る

 飛行機は火山噴火の影響を受ける。2010年にアイスランドで火山が噴火して、はるか東に離れた欧州で10万便以上が欠航して何百万人もの乗客が足止めされたことがある。
 これは苦い経験に基づいている。
 1982年、インドネシア上空を飛行中の英国航空のジャンボジェットのエンジン4つ、すべてが止まってしまったのだ。
 ジャンボジェット機は高度を急速に下げていった。
 パイロットと乗客は幸運だった。この機体が地表まで達する少し前に、エンジンがかかってくれたからだった。
 原因は火山噴火であった。エンジン停止事件はこのほかにあちこちで起きた。もちろん、どんな無謀なパイロットでも、目の前にある火山の噴煙を突っ切ろうとはしないだろう。また噴煙は飛行機に搭載してある気象レーダーでもよく見える。だが、このエンジン停止事件はこういった「見える」噴煙から数十キロメートル、ときには100キロ以上も離れた澄んだ青空で起きた。
 以後、航空会社は、たとえ遠くでも火山の噴火を恐がるようになった。
 しかし、火山が噴火しても雲に隠れて見えないことがある。大都市間の航空路の近くに火山があるところは多い。たとえばアリューシャン列島から米国・アラスカ州にかけてだ。日本など東南アジアから米国に飛ぶ便は大圏航路をとるから、ここを通る。
 げんに2016年にはアリューシャン列島にある小さな無人島、ボゴスロフ島の火山が噴火したが、1週間以上誰も噴火に気付かなかった。ここは上空がたびたび雲で覆われるところだ。
 日本でも草津白根山の噴火は、噴火して死者が出ても、気象庁の火山部門は気がつかなかったことがある。2018年1月のことだ。もちろん、地元自治体への気象庁の通報も遅れた。
 これは気象庁に火山の専門家が少なく、地震計が噴火特有の振動を記録したのに、経験がない担当係官が噴火だとは思わなかったためだ。
 ところで地震計は設置の費用も維持の手間もかかる。辺鄙(へんぴ)なところには置けない。世界では航空路に影響を及ぼす可能性がある活火山は1500以上もあり、地震計が近くにはない火山も多い。
 このため、世界雷位置観測網(WWLLN)のデータを活用することが始まっている。この観測網は世界の50以上の大学や機関が協力して運用している。
 噴火の時に、火山灰などが火口から噴出されて、その静電気が雷を起こす。噴火とともに雷光が見られることがよくあるのだ。雷は数百キロ離れていても観測可能だ。また、霧や暗闇にも妨げられない。このため、地震計が置かれていない火山の監視に使われるようになった。
 ところが、火山付近で雷を検出したとしても、その原因が噴火ではなくて、気象条件で起きる雷かもしれない。上空がたびたび雲で覆われるところでは、衛星画像で火山を見ることも出来ない。
 起きた噴火を正確に知ることさえ、まだ泣きどころが多いのである。

KEY_WORD:_