【記事46230】地質の解説 岩屑(がんせつ)なだれとは(地質情報整備活用機構2016年8月20日)
 
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地質の解説 岩屑(がんせつ)なだれとは

☆岩屑なだれとは,低温の火山砕屑流(火砕流)のことで,地震,水蒸気爆発や火山帯の急激な変形などによって火山体の一部が崩壊(山体崩壊)し,渓流を高速で流れ下る現象です。土石流の潤滑剤が水であるのに対し,岩屑なだれはなだれ(雪崩)と同様に大量のガス(空気や水蒸気)が潤滑剤になります。
☆火山噴出物は火山灰や火山砂など細粒成分が多いため,ガスとの相乗効果により流動性が極めて高くなり,時速100km程度の流下速度を示す場合もしばしば見られるようです。とても逃げ切れる速度ではありません。
★山体崩壊は,多くの火山灰と軽石を噴出し,不安定な堆積状況にある火山であれば,どの火山でも発生します。1888年に,水蒸気爆発によって山頂が吹き飛び,北側の山体が大崩壊した会津磐梯山もその例です。「日本の地質案内」で,磐梯山のページはこちら。
☆崩壊する山体物質の多くは,火山灰,火山砂や火砕流噴出物ですが,これらは固まっていない物質,すなわち,岩盤や溶岩ではないのです。富士山は成層火山ですが,この成層とは溶岩と未固結の地質が交互に積み重なっている,ことを表しています。つまり,未固結の部分がある,ということになります。従って,富士山も山体崩壊やそれに伴う岩屑なだれが発生するリスクのある山,ということになります。
☆このページの最下段に,実際の岩屑なだれを紹介しているリンク先を掲載しましたが,いわゆる「活火山(現在死語)」と呼ばれている有名な火山が多数登場します。
しかし,御嶽山のように最近発生したケースもあれば,鳥海山のように2500年前に発生したケースもあるので,全ての火山で直ちに山体崩壊や岩屑なだれが発生する,というわけではないでしょう。が,これらの火山山麓で住居を構えて生活したり,遊んだり,登山したりする場合は,そのリスクを十分に理解しておいた方が良いと思います。
☆流下した岩屑なだれが堆積する部分には,流れ山とよばれる小さな丘が形成されます。これは,流れ下って来た岩石の破片が,何らかの理由で集まってできたものです。できた時は、頭が尖っているようですが,風化によって次第に丸くなるようです。流れ山の大きさですが,裏磐梯では高さが10〜40m程度,底面の長径が50〜200m程度という報告があります。流れ山がみられる火山としては,有珠山,然別岳,北海道駒ケ岳,岩手山,鳥海山,浅間山,八ヶ岳や磐梯山などです。
岩屑なだれの事例(御嶽山)
国土地理院10mDEMをKashmir3Dで処理(背景は地理院タイル)
地図をクリックすると拡大します。
(地図は省略)
☆2014年9月に突然噴火した「御嶽山」は,「1984年長野県西部地震(M 6.8)」に伴って発生した極めて規模の大きな火山性の斜面崩壊(山体崩壊)と,それに伴う「岩屑なだれ」により,死者・行方不明者29名などの被害が生じました。
☆崩壊の規模は,最大幅750m,最大長1500m,最大深150mと言われています。
☆御嶽山で発生した岩屑なだれの流下速度は,地震後約7分後に崩壊地から10〜12kmの所を通過した,という報道があるため,流下速度を計算すると時速100km弱となります。
岩屑なだれが発生した火山の例(産総研,シームレス地質図による)
(左)有珠岳の岩屑なだれ (図は省略)
(右)鳥海山の岩屑なだれ (図は省略)
(左)那須岳の岩屑なだれ (図は省略)
(右)富士山の岩屑なだれ (図は省略)
岩砕なだれの実例を紹介しているウェブサイト
☆手稲山岩屑なだれ: 北海道地質百選
☆北海道駒ケ岳岩屑なだれ: 気象庁
☆岩手山岩屑なだれ: 国交省 岩手河川国道事務所
☆鳥海山・象潟岩屑なだれ: 山形県
☆那須火山岩屑なだれ: 那須高原でアウトドア
☆浅間山・鎌原火砕流・岩屑なだれの流下: 日本火山学会
☆八ヶ岳・大月川岩屑なだれ: 砂防フロンティア
☆八ヶ岳・韮崎岩屑なだれ: 日本列島地質百景,日本の地質案内
☆富士山・御殿場岩屑なだれ: 防災科学技術研究所
http://www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/cont/pdf/gyoumumap4.pdf
☆三瓶山・大山における山体崩壊と岩屑なだれ:
          澤田 順弘;山陰防災フォーラム2010
☆「島原大変肥後迷惑」雲仙眉山崩壊と岩屑なだれ: 島原半島ジオパーク
☆霧島山・夷守岳山体崩壊と岩屑なだれ: 鹿児島県
・・・・他は調査中です。
(執筆・編集)地質情報整備活用機構

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