【記事63162】火山リスク厳格適用 伊方原発差し止め 規制委判断「不合理」 高裁指摘 玄海、川内に波及も(西日本新聞2017年12月14日)
 
参照元
火山リスク厳格適用 伊方原発差し止め 規制委判断「不合理」 高裁指摘 玄海、川内に波及も

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた13日の広島高裁の決定は、地震や津波の影響ではなく、火山のリスクを重視した点が特徴だ。伊方原発から約130キロの熊本県・阿蘇カルデラの約9万年前の破局的噴火による火砕流に言及し、伊方原発は「立地に適さない」と踏み込んだ。九州には阿蘇カルデラから約130キロの九州電力玄海原発、約150キロの九電川内原発がある。両原発の安全性を巡る議論に影響を与えそうだ。
 原子力規制委員会は新規制基準を受け、火山対策の具体的指針となる「火山影響評価ガイド」を策定。原発から160キロ内にある火山を対象に、火山活動の可能性や噴火規模を推定し、原発稼働時の安全性を評価するように定めた。推定できない場合、過去最大の噴火規模に照らし、火砕流などの影響を評価するように確認している。
 ガイドに基づき、四国電力は42の火山に関して伊方原発への影響を調べた。阿蘇カルデラは、前回の破局的噴火後の活動やマグマだまりの状況を検討し、「破局的噴火直前の状態ではない」と判断。原発は火山と十分に離れており、火砕流が起きても敷地内には流入せず、「影響を及ぼす可能性はない」と結論づけた。
 この想定を基に、規制委も「伊方原発の立地は適当」としたが、高裁は「火砕流が原発敷地に到達した可能性が小さいとはいえない」として、規制委の判断を「不合理」と指摘。火山噴火の影響を重視した。
 鹿児島大の井村隆介准教授(地質学)は「福島第1原発事故が起きるまで、原発の安全性の議論は基準地震動や活断層が中心だった。火山については今も十分に議論されておらず、安全対策は付け焼き刃。火山ガイドを厳密に適用すれば、運転できない原発がほかにも出てくる」と分析した。
 阿蘇カルデラは九州の中心にあり、既に稼働中の川内原発や、九電が来年3月に再稼働を目指す玄海原発のいずれも160キロ以内に位置する。約9万年前の破局的噴火では、火山灰が日本全域に飛び、火砕流の堆積物は九州や中国地方にも広く分布したとされる。
 武蔵野学院大の島村英紀特任教授(地球物理学)は「九州はほかにも霧島、桜島、雲仙岳などの活火山が集中し、川内や玄海はさらにリスクが高い」と指摘。火砕流は火山ガスや水蒸気を含み、時速200キロ近い速さで瀬戸内海も越えて広がる恐れがあるといい、「そもそも160キロ以内という想定自体が甘い」と強調した。
 玄海原発3、4号機の運転差し止めを佐賀地裁に求める訴訟など、同様の住民訴訟が各地で相次いでいる。ただ、同じ上級審でも福岡高裁宮崎支部は昨年4月、火山ガイドの不備を指摘しつつ「破局的噴火は約1万年に1回程度」などとして、川内原発の運転差し止めを認めなかった。火山対策を巡る司法の判断は割れている。
=2017/12/14付 西日本新聞朝刊=

KEY_WORD:IKATA_:SENDAI_:GENKAI_: