【記事33920】審査大詰め川内原発 巨大噴火を過小評価(東京新聞2014年4月13日)
 

審査大詰め川内原発 巨大噴火を過小評価

 九州電力川内せんだい原発鹿児島県薩摩川内市の再稼働に向けた原子力規制委員会の審査が大詰めを迎えている。規制委は、川内原発は課題が少ないとして審査を優先的に進めているが、火山噴火のリスクについては議論が尽くされたとは言いがたい。原発に壊滅的打撃を与える巨大噴火が起きる可能性は低いとはいえ、ゼロではない。過小評価は許されない。上田千秋
◇立地周辺にはカルデラ
 「火砕流が来たら終わり。人間は逃げられたとしても原発は逃げられない」。市民団体「反原発・かごしまネット」の向原祥驍゙こはらよしたか代表は危惧する。同ネットは、川内原発周辺にある火山や活断層などの危険性を詳細に分析。パンフレットを作製するなどして、住民らにアピールしてきた。向原代表は「規制委は、再稼働を止める頼みの綱。世界一厳しい規制基準だというなら、それに従って判断してほしい」と訴える。
 川内原発の位置する九州南部は、国内有数の火山地帯だ。原発周辺には、巨大噴火の際にできたカルデラ陥没火口を持つ火山が「阿蘇」「加久藤かくとう・小林」 「姶良あいら桜島」 「阿多」 「鬼界」と5つもある。最も近い姶良までの距離は40キロしかない。
 福島第一原発事故が起きるまでは、原発の運転に火山噴火のリスクはほとんど考慮されていなかったが、規制委は昨年7月にまとめた新規制基準に火山対策を盛り込んだ。原発から半径160キロ圏内の火山を調査し、火山灰に対する防護措置を講じることなどを各電力会社に要求。火砕流が襲う可能性が明確に否定できない場合は、「立地不適」とする方針を示した。
 これを受けて九電は、1万2800年前の「桜島薩摩噴火」と同規模の噴火が起きることを想定した対策を検討した。火砕流は川内原発には届かず、敷地内に15センチの火山灰が降り積もるものの、除去などをすれば運転には影響しないと規制委に報告した。
 問題は、原発に甚大な被害を及ぼす巨大噴火の危険性を過小に見積もっている点だ。
 九電は@各火山の最後の巨大噴火からの期間が、それ以前の最大休止期間より短く、噴火までの十分な時間的余裕があるA川内原発の敷地内で火砕流の堆積物が確認されていない─ことなどを根拠に、巨大噴火の可能性はほぼなく、起きても火砕流の影響は受けないとの立場をとる。
 ただ、この考えには異論を唱える専門家が少なくない。川内原発の敷地内でなくでも直近には火砕流の堆積物が残っている。その上、堆積物は年月の経過とともに浸食などで失われることがあるからだ。規制委内部にも疑問視する声はあり、昨年9月の会合で島崎邦彦委員長代理は、敷地内に堆積物がないとの主張に「私は疑問が残る」と発言している。
 巨大噴火の定義は明確にはなっていない。だが、少なくとも琵琶湖2つ分の水量に相当する50立方キロ程度のマグマが噴出し、直径数キロ〜20キロ規模のカルデラができるとされている。温度600度以上にもなる火砕流が、時速100キロ以上のスピードで周囲数百キロにわたって流れることもある。原発を襲えば誰も近づけなくなり、電力の供給も断たれて、長期間にわたって制御不能となる。
◆専門家不在の規制委
 巨大噴火は、国内で起きるのは6000〜1万年に1回とされている。最後に起きたのは7300年前の鬼界だ。めったにないとはいえ、ひとたび起きれば被害は大きい。9万年前の阿蘇の巨大噴火では火砕流が180キロ先まで達し、九州中部から北部を焼き尽くしたとされる。2万6000〜2万9000年前に起きた姶良の巨大噴火では、川内原発より先の熊本県南部まで火砕流が届いている。
 九電も、火砕流到達の可能性を全く考えていないわけではない。モニタリングを強化し、巨大噴火の予兆が観測されれば運転を停止したり、核燃料を外部に搬出したりするとしている。しかし、核燃料の搬出は事実上、不可能だ。
 川内原発の敷地内には使用済みを含めて888トン1946体の核燃料が貯蔵されている。外部に持ち出すには専用の容器や輸送車両が必要になるが、まずそれらの用意が困難。仮に準備できたとしても、「全部搬出するには数カ月から1年以上かかるだろう」原発関係者。
 どこに持っていくかという問題も浮上する。約1300キロ離れた青森県六ケ所村にある使用済み核燃料再処理工場に持ち込むとしても、同工場には現在、50トン分ほどの空きスペースしかない。九電はこうした重要な点を詰めておらず、「現在、検討している」報道グループと回答するにとどまった。
 モニタリングによって噴火を予知できるかどうかも分からない。確かに過去には、東京都の三原山大島や雄山おやま三宅島、北海道の有珠山うすざんなど噴火を事前に察知した例はたびたびある。首都大学東京の鈴木毅彦教授自然地理学は「火山が噴火する前には地面が隆起したり、火山性微動が続いたりする。三原山などは過去に何度も噴火していて細かな観測データがあるので、規模などを含めてある程度の予測が可能になる」と説明する。
 一方で、巨大噴火が最後に起きた7300年前は縄文時代。当然、データは存在せず、どういった予兆が起こると巨大噴火になるのかという科学的知見はないのが現状だ。鈴木教授は「噴火することが分かったとしても、それが巨大噴火につながるかどうかは判然としない。異変を察知した後に原発を止めるのは、非常に難しい判断になる」と話す。
 火山噴火のリスクは川内だけでなく、他の原発の適合審査でも論点の一つになっている。泊北海道や伊方愛媛県、玄海佐賀県などでは過去に火砕流が敷地に到達した可能性が指摘されているが、これまでの規制委の会合で突っ込んだ議論が交わされた形跡はない。
 川内原発の安全審査は6月にも結論が出るとみられている。今後数十年の間に巨大噴火が起こることは、確率的には低いだろう。しかしゼロと言い切れない以上、立ち止まって検討を続けるべきではないのか。
 鹿児島大の井村隆介准教授火山地質学は「規制委は、活断層については40万年前以降に動いたものを無視しないと言っている。それなのに、より新しい時代に起きている巨大噴火のリスクを考慮しないのはおかしい」と主張する。
 井村准教授が問題視するのは、規制委の委員5人の中に火山の専門家が1人も入っていない点だ。「専門家がいないから、細かな議論ができないままでいる。火山のリスクは、日本社会全体で考えて判断する問題。現状をすべて明らかにし、国民に広く説明をする必要がある」
【デスクメモ】
 今年は、桜島の大正大噴火から100年。近年、小噴火の頻度が増えており、警戒が強まっている。大噴火が起きれば、たとえ火砕流が到達しなくても、大量の火山灰が積もり、交通網は完全にまひする。なのに原発災害の避難計画では、ほとんど考慮されていない。再稼働の前に考えるべきことは山ほどある。
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